10やっぱり肉は美味いと思った犬
必死な説明の甲斐あって、青年の不名誉な疑惑はようやく晴れたようだ。
私を指差しながら猛烈に告発した彼の名はモリスと言うらしい。
私が反論できないのをいいことに、言いたい放題言ってくれた。
隊長とビッツと呼ばれていた巨漢と華奢のあべこべコンビの
すんなり納得した反応も腹立たしい。
モリスが私に罪を擦りつけている可能性もあるではないか。
だが、悲しいことに私の口は反論する能力を持たない。
話せさえすれば、6:4で怪しいくらいまでは持っていける自信がある。
無論の事、6が私の潔白である。
まぁ、今となっては嘆かわしい事に容疑は私の元に戻ってきた訳である。
仕方ないだろう。だって犬だもの。
そんな過去の事件はさておき、現状の整理をしよう。
会話の節々に不穏な単語が含まれている事に、私は内容が気になってしょうがないのだが。
そこについては、このモリスという青年はあまり気にしていない様子。
この世界では、物騒な事件が起こる事は日常茶飯なのか。
それとも彼の職業柄、肝が座っているのかもしれない。
詰所だとか迷い犬だとかこれまでの話から察するに、
彼らは私の知る中では警察に近い団体に思う。
モリスとビッツは商人が町をでる手続きを代理としてイレギュラーに行い、
その際モリスを乗せたまま荷馬車は出発してしまった。
その荷馬車から途中で離脱して町へ帰る途中に、私とモリスは出会ったのだろう。
隊長とやらは、モリスが荷馬車から商人へ声をかけずに離脱した理由に疑問を持ったようだ。
通信機という言葉が出た。
恐らく隊長の胸ポケットに入っているものも、通信機の一種なのだろう。
一般の白色通信機は圏外という言葉から、特別な種類のものだ。
そしてその一般ではない特別な種類の無線機を一介の商人が持っているのは普通ではないということか。
そして、真夜中に起こったモリス連れ去り事件。
特別重要度の高いわけでもない業務の代理の対応を命じられる立場、
言ってしまえばパシリのような立場のモリスに対して、この時間にすでに複数名が目標へ対処および到着している。
きな臭い、イレギュラー対応、当て馬。
この隊長と呼ばれる男は、飄々とした態度の割に随分食わせ者なようである。
ヒュンッ シュパパッ
先程から、蹴られる事に飽きたビッツは適当に拾った枝の先に紐を括り付け、
その先に何か垢茶色の塊を括り付けた物を振り回して遊んでいる。
私の数メートル前の地面で、蛇のように素早く蛇行させながら、
ちらちらと私を見る物欲しそうな視線が鬱陶しい。
豆太でもあるまいし、そんな物に私が飛びつく訳がないだろう。
なにより、大事な事を考えている最中である。
隊長から仕方なく引き受けてやった、警戒任務中でもある。
ワッサワッサ
仕方ない。
決して、うずうずしてきただとか
何やらうまそうな匂いに釣られたとかではない。
目障りな為、仕方なくである。
鬱陶しい奴を止めるべく、私は駆け出した。
読んでいただきありがとうございます!
副題をつけてみました。




