ツバキに小判
後日。
コンデッサたちのもとへ、アマテラスがまたまたやってくる。
「アマちゃん様。また、脱走ニャン」
「違う! 〝大胆なる飛翔〟じゃ!」
「高天原は天上世界なのでしょう? どちらかと言うと、〝怠惰なる落下〟なのでは?」
1柱と1人と1匹は、ズズ~とお茶をすする。ツバキは猫舌なので、冷茶である。
「それで、エビス様のお仲間探しはどうなったのですか?」
「ああ……あれか」
コンデッサが尋ねると、アマテラスは微妙な顔つきになった。
「取りあえず、大黒天・弁財天・毘沙門天はすぐに見付かった。この3柱は単独でもやっていけるだけの人気と実力があるのでな。それぞれ、開運の神・音楽の神・武門の神として活躍しておった。面倒くさがりながらも昔のよしみで、エビスの誘いに応じてくれたそうじゃ」
「良かったにゃ」
「けれど、残りの3柱が問題でな。布袋は本来、太鼓腹でハゲ頭の姿をしておるんじゃが、エビスたちと再会した折には、赤い帽子に赤い服を着て、白い付け髭をしていたそうじゃ」
「それって……」
コンデッサが言葉を濁す。アマテラスの瞳が、ちょっと虚ろになる。
「……うむ。サンタクロースと紛らわしい格好じゃな。もともと布袋は僧侶出身で、大きい頭陀袋を常に携帯しておったんじゃ。これは、サンタクロースが肩に担いでいる白い袋と似ている。それを良いことに、布袋のやつ、ある北方の国でサンタクロースの真似事をやっていたんじゃ。その国では、未だにサンタクロースの伝承が残っておったんじゃとか」
「…………」
「……ニャム」
「エビスは『七福神の宿敵の姿に変装するとは何事ですか!? 恥を知りなさい!』と激怒した。それに対して布袋は『こちらの格好のほうが、子供たちの受けが良いのだ。施しもたくさん貰えるし』と言い返したそうじゃ」
「施し?」
コンデッサの問いを受け、アマテラスが解説する。
「布袋は托鉢僧じゃからな。自身の生活のために、人々から食べ物などを貰って、それを頭陀袋に入れておるのじゃよ」
「……サンタクロース殿の持っている袋とは、活用方法が逆なのでは?」
「プレゼントを上げると見せ掛けて、プレゼントをちゃっかり頂いているのにゃ。まるで、詐欺行為にゃん」
「布袋は日々の暮らしに困窮していたこともあって、七福神への復帰を喜んで了承した」
「神も生きるのに必死なんですね……」
「にゃんか、泣けてきたにゃ」
「残るは、福禄寿と寿老人。しかし、この2柱がなかなか見付からない」
「案のじょう、影が薄いんですね」
「モブ神様にゃ」
「エビスたちは〝福禄寿と寿老人は、1柱のみだと存在感がなさ過ぎる。きっと、コンビを組んでいるに違いない〟と見当をつけ、『正体不明な、胡散くさいジジイ2柱組を知りませんか~?』と探しまわったんじゃ」
「酷すぎる話ですね」
「もう、言葉にならないニャン」
「ついに発見したところ、なんとジジイが3柱になっておった」
「増えたのですか?」
「ビックリ仰天にゃん」
「驚くべきことに、福禄寿と寿老人は、サンタクロースと仲良くなっておったのじゃ。皆ジジイということで共感しあったらしい。意気投合した2柱と1人はトリオ《生涯現役・マダムキラー》を結成し、熟女相手にブイブイ言わせていたんじゃと」
「…………」
「……にゃ~」
「福禄寿は幸運を、寿老人は長寿を、サンタクロースは子供用の玩具を世の奥方様がたにプレゼントしてまわり、モテモテ状態」
アマテラスが話を続ける。
「福禄寿が連れている鶴と亀、寿老人が連れている鹿、サンタクロースが連れているトナカイも、動物同士で友好を深め、カルテット《ことぶきアニマルズ》を結成。これも、超人気」
「…………」
「……羨ましいにゃん」
「コンビのジジイで探しておったから見付からなかっただけで、トリオのジジイで探しておったら、あっと言う間に発見できたはずじゃな」
「……で、どうなったのですか?」
「エビスも、福禄寿たちと懇意にしているサンタクロースの姿を見て、敵意を捨ててしまったそうじゃ。毒気が抜かれてしもうたんじゃな」
「それは、良かった」
「めでたしにゃん」
「もとより、七福神もサンタクロースも、人々へ幸せを運ぶことを己が務めとしておる。本来、相性は良い。彼らは話し合いの末に、七福神+サンタクロースで、新たに《エイト・フォーチュン・ゴッズ【チーム・夜の宝船】》を創設することにしたんじゃと」
「〝夜の宝船〟……さすがに、その名前はどうかと……」
「場末の接待飲食店みたいニャン。ネーミングセンスが最悪にゃ」
「合い言葉は『メリー・クリスマス・ハッピー・ニューイヤー・ファースト・ドリーム・トレジャー・シップ』にしたそうじゃ」
「寄せ鍋みたいな合い言葉ですね」
「長いニャ」
♢
その後、八福神は精力的に活動を開始。
年の瀬より年頭に掛けて、ボロノナーレ王国を始めとする世界中の国々で、八福神が人々へ幸運を恵んだりプレゼントを配ったりしてまわる姿が見られるようになったと言う。
八福神は、子供から熟女、爺さんに至るまで、幅広い年齢層の人々に愛され、支持される存在となった。
♢
「ツバキ。八福神様からお前にプレゼントだそうだ」
「わ~い。嬉しいにゃん」
「ほ~ら、小判だぞ。しかも、金の含有量が多い慶長小判だ!」
「こんなの要らないニャン」
「やっぱり、猫に小判の価値は分からないのか……これぞ、〝猫に小判〟。それじゃ、私が貰っても構わないか?」
「良いニャよ~」
コンデッサは小判を頂く代わりに、ツバキへ鯛の尾頭付きとロースステーキをご馳走してやった。ツバキは大喜びした。
コンデッサとツバキは、今日も仲良しである。
ツバキ「『宝船』のお話は、これで終わりにゃん。最後まで読んでくれて、ありがとさんなのニャ。またどこかで、お目にかかりたいニャン」