ツバキと回文
アマテラスがエビスに文句を付ける。
「そもそも、なんでエビスはそれほどサンタクロースとやらに敵意を剥き出しにしておるのだ。サンタがクリスマス・イブにプレゼントを配ろうが配るまいが、お主にとってはど~でもいい話じゃろう?」
「とんでもありません、大ありです!」
力説する福の神。
「三択ロースのヤツが日本に現れて以降、某たち七福神の商売は上がったり状態になってしまったのです」
「七福神様の商売とは何ですか?」
コンデッサが質問する。
「人々に福を授けることです。人間に幸運を与えると、そのうちの約1割の福が、某たち七福神のもとへキックバックされるという仕組みになっていました。すなわち大衆が某たちを信仰してくれればくれるほど、某たちの懐も潤ったのです」
「神様がそんにゃんで良いニョ?」
(神様にょくせに、俗すぎるニャン)とツバキは思った。
「神だって、ただ働きはイヤなんですよ。幾ばくかの報酬はあっても良いはずです」
「確かに」
エビスの言葉に、アマテラスが頷く。
「特に、年初は稼ぎ時でした。かつての日本には、ゆかしい習わしがあったのですよ。お正月の夜、宝船に乗った七福神の絵を枕の下に敷き、庶民の皆さんはお眠りになっていたのです」
「絵を? 何のために?」
「良き初夢を見るためです。初夢は、その年の吉凶を占うのに欠かせない風習だったのですよ。金銀財宝を積み込んだ宝船の図に、『長き夜の遠の眠りの皆目覚め浪乗り船の音の良きかな』との回文を添えているケースもありました。〝七福神の宝船が波の上をやって来て、人々に幸福を授ける〟という有り様を絵と歌にするとは……実に素晴らしい習慣ではないですか!!!」
感極まる、エビス。
「波プチャプチャにゃん」
「なかなか興味深い歌ですね。……それにしても、回文とは何です?」
コンデッサの問いに、アマテラスが答えた。
「最初の文字から読んでも、最後の文字から読んでも、言い回しが同じになる文章のことじゃ。『長き夜の遠の眠りの皆目覚め浪乗り船の音の良きかな』を、終わりより読み上げてみよ」
「〝なかきよのとおのねふりのみなめさめなみのりふねのおとのよきかな〟……なるほど」
「サッパリ、分かんにゃい!」
「そうじゃのう……ツバキにも理解できるように解説してやるか。妾って、本当に親切じゃ。さすが、最高神」
「自画自賛は、聞いてて痛々しいにゃ。早く、教えて欲しいニャン」
ツバキの苦言を、アマテラスはスルーする。
「ふむ。例を挙げると『孫猫』『怪しからぬ猫が幹部になっている役所の許可が必要』『笑いっぱなしの猫が居る』などじゃ」
「…………にゃにゃにゃ?」
ツバキの目がグルグル回る。コンデッサが、遠慮がちに発言した。
「……あのぅ、アマテラス様。その例えは、私からしても意味不明ですが」
「しょうが無いヤツらじゃ」
ヤレヤレと肩を竦める、アマテラス。エラそ~だ。他者に威張れる機会があまり無いので、張り切っているらしい。
「これらは、比較的分かりやすい回文じゃぞ。良いか、ちゃんと聞くのじゃ。『孫猫』はすなわち『子猫の子猫』、『怪しからぬ猫が幹部になっている役所の許可が必要』はすなわち『悪い猫のコネ要るわ』、『笑いっぱなしの猫が居る』はすなわち『猫ニコニコね』となるのじゃ」
「〝こねこのこねこ〟……〝わるいねこのこねいるわ〟……〝ねこにこにこね〟……得心しました」
「猫ばっかりニャン」
更に調子に乗るアマテラス。
「ちなみに、『猫ニコニコね』は、いくらでも長く出来る便利な回文じゃぞ」
「にゅ? 長く?」
「そうじゃ。『長い回文を作ってください』と言われたら、〝ニコ〟のところを増やせば良い。『猫ニコニコニコニコニコニコニコニコニコニコね』となる。立派な回文じゃ」
「にゃんか恐いニャン! 笑顔に狂気を感じるにゃ。それ、〝回文〟じゃ無くて〝怪文〟にゃん」
エビスが、ためらいつつ口を挟んできた。
「え~と、アマテラス様。そろそろ、話を戻しても宜しいですか?」
「おお。スマンスマン」
続くのにゃ。




