03 夢が続く
皆さん、こんにちは。乙羽千和です
いま、すごく混乱している。
普通にゲームを楽しもうってだけなのに、いきなりケモ耳つきの女の子に「転生させたよ!古い人生をバイバイして、異世界で生き抜け!」と言われても、いまいち現実味がない。
むしろ時々、小説やアニメで見る「おおおおお!俺つええええ!異世界、待ってろよ!俺が無双する!」みたいなノリで受け入れる人、頭おかs…メンタル強いね。
張本人の狐神さまは座卓の向い側に座って、お茶を飲みながら膝の上で眠ってる一穂を撫でる。
「えっと、狐神さま?」
「結穂でよいのじゃ。」
「あ、はい。じゃ、結穂さま、あの…感謝されて悪い気はしないですけど…私的に、異世界転生、メリットがありませんと思います。」
「何故?お主、そっちに留まる理由がないのじゃ。」
「彼氏がおらぬ、」
ぐさり。
「親友もおらぬ、」
ぐさり。
「ぼっちで寂しい人間じゃのう。」
ぐさり。
「…死にたい。」
「ほれ、なら転生するの方が良いじゃろう?」
「いや…この私(28歳、女、独身、OL、中途半端な人間)、異世界に行っても多分必要な能力がないからろくな人生を送らないでしょう。ならこっちで寂しい人生を送るの方が…」
やばい…涙がでそう。
「はて、なにを言っておる?お主の分霊、あの銀髪の小娘は大変優秀なのじゃ。その子を主な容器としてお主の魂を収容するよう、転生させたのじゃ。」
「分…霊…?」
「あのげーむの世界で、お主の意志を実行するあの小娘のことじゃ。妾のように他の世界を干渉する権能はないようだが、妙な術をたくさん使える、一部の人間があの子を英雄に祭り上げるのではなかろうか?」
ん?分霊って、もしかしてキャラクターのこと?今思えば今朝(?)の私、わたしじゃない気がする。うう…寝ぼけていた自分を殴りたい。
「それとも、いまの姿に変える?少々面倒じゃが出来るぞ。」
「!!」
ああああああ、何かを言わないとわたしの人生(二回目)があああああー
「いいえ、絶対あの子の方がいい!お願いいたします。寧ろあの子じゃないと転生を取り消してください!」
「……。」
あ。
やっちゃった。怒られる。
「お主、先から弱気になったり、強気になったり、なんと面妖な……分裂した魂が長時間容器にいれてないから?いや…妾がそんな失敗を犯すはずがない、なら…ぶつぶつ…」
どうやら結穂さま、「わたしが自分の感情をコントロールできてない」のは自分のミスと思え、閉じた扇子を頬に当て真剣に考え始めた。
でもすみません。失敗してない、そもそも魂が分裂してない、単に私は人との会話に飢えて、不安定になるだけです。手のかかる子ですみません。
「あの…結穂さま?多分そういう状況ではありませんから、他の質問をしてもいいですか?」
「まぁ…よかろう。なにを聞きたいのじゃ?」
「そっちのわたしは、どうなりますか?」
「死ぬ、いや、消えるの方が適当な表現じゃろう。」
「あの、持ち物も消えます?」
「そうなのじゃ。どうしたのじゃ?持ち込みたい物でもある?」
「ありませんと思います。」
よし!元の世界に戻らないとは言え、自分の物が警察とかに漁られるのを想像すると、なんか気に掛かる。
うんん…ほかに気になることは…何も思いつかないね。
あ!
「あの…その…厚かましいお願いではございますが…」
もじもじ。
「言ってみたまえ?」
うわぁ、これ、想像以上に言いづらい。
「よくあるではないですか、隠しダンジョンとか、意外と強いスキルとか、女神の祝福とか…」
もじもじ。
………
……
…ええい、ままよ!
「チートをいただけませんか?」
あああ、言いましたあああ。
「…はぁ。」
「ごめんなさいすみませんなんでもないですちょっとした出来心で怒らないでくだ――」
「くすくす、そんなに怯えないでちょうだい。妾が言ったじゃろう?御礼なのじゃ。少々おまけを付けでもよいぞ。しかし、お主の場合、あげられるものは限られているな。」
「と申しますと?」
「その世界のお主は強いからじゃのう。」
言われてみれば…そうですよね。
アップデート前に、レベル75、カンストです。
攻撃魔法と耐性特化ビルドなので、私にダメージを与えられるか、私の火力で倒せないモンスターはどっちも片手で数えられるぐらいしかいない。
外見について、他人にどう思われるかは知らないけど、課金してプレミアムキャラクタークリエイションを使って、3時間かけて作り上げた100%私好みの銀髪紫眼の美少女、私的には最高です。
欲しいものと言うと、面倒なやつを回避する手段ぐらいかな?でも異世界はネットがない、攻略まとめサイトを作ってくれる有能な人たちもいない、無理…ないかも!?
「結穂さま、情報が欲しいです、世界の情報。お願いしてもよろしいでしょうか?」
「情報…なら書物が無難そうじゃのう。」
いつのまにか、一冊のグリモワールが座卓の上に現れた。表紙にデフォルメした可愛らしい狐が描いている。
「グリモワール?」
「なんじゃ?巻物の方が良いのか?」
「いいえ、なんでもないです。気にしないでください。」
「今までの資料は全部入れたぞ。新しい資料も自動的に登録する。念の為に、その本はお主しか読めない。」
「ありがとうございます。」
思えば、こんな風に好意を向けられるなんていつぶりだろう?
目の前の一人と一匹に心からの感謝をこめて、私は深々と頭を下げる。
と、その時だった。
ふいに、わたしの指先にぼんやりとした淡い光が光り始める。
「そろそろ時間なのじゃ、間もなくお主が目覚める。」
「はい。あの…前回、言える機会がなかったから。その…行ってきます!」
聞いた瞬間、結穂さまの瞳が、すこし見開かれる。それから、彼女はクスクス、笑いながら言った。
「いってらっしゃい。」
わたしの意識が遠のいていく。
次話、(やっと)冒険が始まる!
会話と情景描述の比重調整、加減が難しい…




