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02 夢の中で

 

 久しぶりに目覚まし時計が鳴る前に目を覚ます。

 目を開けると、すぐに違和感を感じる。

 視界に広がったのは、見慣れない装飾が施された天井だった。

 手を伸ばして周りを叩いてみて、自分がベッドに寝ている事を確認しつつ上半身を起こし、理解に努めます。


 見覚えのない…はずの室内ですが何故かよく知られた感じがする。

 簡素な机と本棚、机の上に置いてある枝つき燭台、部屋の隅にあるゲリドンとアームチェア。

 どの家具も持っているはずがないものです。

 でもやはりどこかで見たことがあるような気がします。


「うーん。」


 何もいい考えが浮かばず、部屋でぼーっとするとノックと共に年配の女性が入って来た。


「おはようございます、お嬢様。」


 黒のワンピース、

 フリルの付いた白いエプロン、

 白いフリルの付いたカチューシャ。


「メイドさん?」


「左様でございますが…いかがなされましたか?お嬢様。」


「あーこれ、あれですね、明晰夢というやつ。おもしろいですけど、明日早い時間に出勤しなければならないので、おやすみなさい。」


 そこで私は、もったいないと思いながら再び布団に潜り込んだ。




 二回目の目覚め、今回は知らない森の中。

 いや、知ってる森もないですけど。

 木洩れ日が降り注ぎ、穏やかな場所ですね。

 周りを見渡すが誰もいない。


「また明晰夢ですか…我ながら夢を見過ぎ…」


 遠くの茂み何かが草木を掻き分ける音がした。

 どうせ夢の中に危険なものが出てこないから、音の方向に向かう。

 少し離れた、開けた場所に一匹の狐が座っています。


 赤みがかった黄色の毛皮、白い尾の先、毛がふさふさとしている長い尾。

 かわいい!よくやったわたしの潜在意識!

 すぐモフモフしたいのは山々ですが、驚きまして逃げられたら元も子もない。


 どうしようと考えている間、狐もこっちを気付いた。でも予想と違う、「ギャー」で鳴きながら近寄ってきてくれた。


「おや?」


 意外に人懐っこいですね、この子。

 しゃがんで頭を撫でようとすると狐さんに体を捻って避けられた。

 ……心にグサッと来るね、これ。


 手を引っ込めようとすると、狐さんが袖口をくわえて、鳴きながら引っ張ってくる。


「ついて来いってこと?」


「ギャー」


「どこに行くの?」


「ギャン!」


 うん。かわいい。でも何を言っているのかさっぱりわからない。

 とりあえずついて行きましょうか。


「それにしても、無駄にリアルですね、私の夢。」


 肌で感じる涼しい風、わずかに聞こえる潺の音、すべて本物のようだ。


 しばらくすると神社らしき建物が見えてくる。

 立派な鳥居だ。

 内側に傾斜している柱、反り増しがつく笠木と島木、島木と貫の間にある額束。確かにこのデザインは明神系の稲荷鳥居だとどこかで読んだことがある。

 ……無用な知識ですね。

 それはさておき、神社の中に入ろう。


「キューン」


 狐さんは部屋の中に向かって鳴く。


「おお、来たのか。御苦労なのじゃ、一穂(かずほ)。」


「キューン」


 奥から現れたのは、20代前半ぐらいの綺麗な女性だった。成熟した稲穂みたいな黄金色の髪を揺らしながら、わたしたちのところにやってくる。女性は色鮮やかな着物を着ている、すごく似合ってる――じゃなくて!


 ぴこぴこ。

 現れた女性の言葉に合わせて、揺れる耳。

 獣の耳が、女性の頭にちょこんと乗っている。


 それだけじゃない。


 華奢な体の後ろで左右に振られている、もふもふした数本の尻尾。


 思考が追いつかない。

 じっと見ていたら、これでいいんだ、このままぼーっとしてようと、


「なんじゃ、お主。妾に惚れたか?」


「はい、そうかも?」


「お主は想像以上のたわけじゃのう。」


 初対面の美人に悪口を言われた。

 ん?んん?お主?じゃの?


「運営の人?」


「クスクス、やはりたわけのじゃなあ、一穂(かずほ)。」


「ギャン!」


 こらそこの狐、同意しないで。


「だって、明日は出勤しなければならないのにこのタイミングでこんな素敵な夢を見るなんてひどいじゃないですかああああああ、これ絶対起きたら人生を諦めたいやつですよおおおおお?」


「……これ、落ち着け!」


「いたっ!」


 扇子で叩かれた。


「お主、こんな不安定な人なのじゃのう?そもそも夢でないぞ。」


「え?」


ここ(神域)に来る前にあの屋敷も、現実なのじゃ。」


「え?」


「妾がお主を転生させたぞ、感謝したまえ。」


「…えっと、なぜですか?」


「感謝の印なのじゃ。お主、一穂(かずほ)を助けたではないか。」


 いやいやいや、確かに一年ぐらいまえに、車に轢かれる子狐を助けたことがありますけど…まさか…そんな馬鹿な…


「そのまさかのじゃ。しばしお主を放って置く、自分で状況を理解するまでのつもりだったが…その様子だと無理みたいだから、ここに連れてきたのじゃ。」


「あ、はい。すみませんでした。」


「別に怒ってない、少々呆れただけなのじゃ。で、何か質問がある?お茶を飲みながら答えるのじゃ。」


狐神さまとの会話、あと一話続く(と思います)。

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