欠損勇者が魔王についっていったその後の話の続きの締め
『欠損勇者が魔王についっていったその後の話の続き』(https://ncode.syosetu.com/n3131gi/)の続編で最終話です。
世界情勢は相変わらず不安定で、誰にとっても大なり小なり不安を抱えるものではあったが、それはそれとしてそれなりに人々は順応して生活を送る日々。
勇者もたてられている、きっといつかなんとかしてくれるだろうという漠然とした思いを抱きつつ過ごしていた。
驚異が起こるのはいつだって突然だ。それは今回もそうであった。
ふらりと、王城に勇者が現れた。そこは勇者にとって旅の出発点であった場所。
守りを担っていた門番は勇者の姿を認めるや否や、持っていた槍で道を遮り、停止を呼びかける。
それが勇者であるとは門番にだって分かってはいたが、彼は魔王城に向かったという知らせを最後に音信が途絶えていたのだ。
しかもどうにも様子がおかしいように見えたのだ。マントで全身を包まれて全身を検められなかったが勇者の証である聖なる剣も携えていないようであったし、どことなく禍々しい空気を感じるのである。
勇者を尋問しようとした矢先、勇者の後方に視線を向けた。向けざるをえなかった。魔族の大群が空から押し寄せている光景が窺えたのだ。
国を守る結界はどうしたのだ、魔に対する結界だったはずなのに!
どうにかせねばと慌てる様子を尻目に、勇者は門番の横をすり抜けて歩を進めた。
事態に混乱するも、このまま勇者を行かしてはならぬと悟った門番は振り返り勇者のマントを思い切り掴んで引き留めようとしたが、掴んだ力が強く、留め具が外れマントが勇者から剥がされた。
引き留められる力のまま、勇者は無表情で門番を振り返る。門番はその姿に息を飲み固まった。門番の視線の先には人間には不自然な色の腕。肌質も人間のそれとは異なるだろう。ブーツからも隠されていない部分で見える足も同様な色形であった。
「ばっ、化け物……!」
門番の引きつった叫びにさして関心も向けず、動かなくなった門番をこれ幸いにと無視し、奥へと進んだ。
向かう先は勿論決まっている。
マントを奪われ剥き出しとなった腕や足を見て恐れた人々が勇者から遠ざかり、自然と道が開けていった。
奇異の目を向けられようが構うことは無い。勇者は大変進みやすくなった城内を迷うこと無く進み、玉座へ続く扉を躊躇無く開ける。
王を守る近衛兵が透かさず勇者を取り囲むが、相変わらず勇者は意に介していなかった。
「何用だ勇者よ。いや、もはやその腕……化け物か。我らの敵を倒してきたのであろうな」
王は依然として居丈高な態度を見せる。
勇者は己が信を置く精鋭たちに囲まれている。勇者といっても所詮は人間だ。いざとなればという思いが王にはあった。
「敵……そうだな……敵な……」
「何をぶつぶつ言っておる。答えぬか、倒してきたのか否か」
「いま、倒しにきたんだ。俺たちの真なる敵をな」
勇者は懐に手を入れ、小瓶を取り出しそれを地面へ叩きつけた。
近衛兵たちはその小瓶が何であるか確認はできなかったがその不審な動きに、囲んでいた兵たちは勇者を取り押さえようと押しかけるが、何かに遮られ剣が通らない。
よく観察すると勇者を中心に半円で膜のようなものが張られていた。この膜に阻まれて勇者への攻撃が通らないようであった。
ならばと魔術師が詠唱を始めるが、それより早く、大きな衝撃がその場の全員に訪れた。
爆音と衝撃は上空からもたらされたもので、体制を崩しつつも全員が天井を見上げた。豪奢なシャンデリアも精巧な飾りを施された天井もそこにはなく、彼らの視線の先は見えるはずのない晴天と浮かぶ巨体がひとつ。
優に人間の2倍の大きさはあろうその巨体は闇色をした翼をばさりと羽ばたかせ勇者たちの立つ地へ静かに降り立つ。
王たちはその姿を見たことはなかったが、その翼を持った巨体が魔王であるということは明白であった。威厳があり威圧的であり、濃い魔の気配に、間違えることなどなかった。
「待たせたな、勇者よ」
「何を言う。タイミングを計ってただろ」
「主役は遅れてくるものであろう?それに待ちに待った機会だ、格好良くいきたいではないか」
その魔王が、希望を託した勇者と談笑している。
異様な光景に見えた。まさか。まさか!
「勇者め、裏切りおったか!!」
よく考えなくても分かる展開。
勇者は魔王に敵意を向けず、魔王もまた勇者に手を出す様子はない。
「何を言っている。あなたたちが俺たちの味方でなかったくせに」
「なっ―――!」
「ああようやく言ってやれる」
新しい左手となったスライム腕を前に出し、力を込める。可視化されていくその力は聖と魔が絡み合い交わっていく。
その隣で魔王はニヤニヤと愉快そうな表情を浮かべ勇者の動向を見守っていた。
「復讐してやるよ。まずはお前たちからだ――――!」
勇者と魔王の戦いは、ここから始まるのだ。
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