ここは某研究所、名前はまだない
ばたばたばたばた。
廊下を走る足音場響き渡る。
《ブーーーーーーーーーーーーーーーー》
そして、その足音を追いかける様に翅の音も響き渡っていた。
「っ!つ、つつつついてくるなああ」
涙声の少年は更に足を速めた。
長い、どうしてこの廊下は長いんだ!!
そしてどうしてあの忌々しいいきものは俺を追ってくるんだ!!!!
「っあ!」
ベタな。
どこか冷静な自分がそう言った気がする。
わかっている。自分はそういう時こそよく転ぶのだ。
《ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー》
もうすぐそこまで羽音は迫ってきている。
普段の姿ならまだ倒せたかもしれない。
しかし、今自分を追いかけているアレは規格外の大きさなのである。
無駄に黒光る体。
無駄に長い触角。
そして無駄に多い脚。
そう、ほぼネタバレだがGだ。
だが、ただのGではない。先ほども言った通り、規格外の大きさ、つまり
「ニ゛ャ゛ア゛」
「んんんんんんんんんんん゛泣」
猫…くらいの大きさだろうか。…え?猫?とお思いだろう。
ガッヅィーラくらい大きければ「あっなんかそんなもんだっけ」となるかもしれない。
むしろ余裕のよっちゃんであるかもしれない(私は無理だが)。
しかし、ふくふくとした成猫くらいの大きさのGなのである。
そして濁音だくだくに鳴くのだ。
なんだこの中途半端さは。一週以上回って気持ち悪い。
「く、来るな!来るなよ!!」
少年はずりずりと後ずさる。
もうすぐそこまで来ているのだ。
「ニ゛ャ゛ア゛ア゛あ゛あ゛」
「ぎゃあああああああああ!!」
規格外のGが少年に跳びかかろうとしたその時だった。
そう、これまたベタに扉が開く。
「へっ?」
シューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
「ニ゛ャ゛ア゛ア゛あ゛あ゛あ゛あ あ あ」
瞬間少年は思わず目を瞑る。
そして次に開いた時、
「あ…れ…?」
「にゃあ」
膝の近くですり寄る黒猫。
それは喉を鳴らしながら、愛でてほしいという感情を目一杯少年に伝えようとしているようだった。
「五月蠅ぇなあ…」
寅吉の左側からにゅっと出ている細い腕と缶スプレー。
気だるげに女が部屋から出てくる。
「つ」
「五月蠅ぇよ寅吉、こちとら徹夜で魔王育成してんだよ。もうちょっとで私の可愛い魔王ちゃんが勇者ぶち殺すんだからよぉ。頼むから静かに戯れてくれ、な」
「いや、勇者育成しろよ!!」
「今時はそういうの流行ってんだって、知らないの?マジ遅れてるぞ…ちょっと待ってな…」
一度女は自室に戻り、何かを手にして戻ってきた。
「はい」
呆然とする少年の手にはPCゲームが置かれる。
『○辱魔王!~○される程強くなっちゃう❤』
「ぎゃあああああああああ!!」
パッケージのショッキングピンクを読むや否や、少年、月影寅吉は女にゲームを突き返す。
「…うるさ、あーあ、せっかく貸してあげようと思ったのにい」
「いらんわこんな性癖偏りそうなゲーム!!ってか月詠!!このG…G?え?ねこ?渇可愛い…じゃなかった!この子なんだよ!!」
少年の腕に抱かれた元G、現猫は、呑気ににゃあんとあくびをする。
すでに自室に戻ろうとしていた白神月詠は、寅吉と猫を交互に見つめ
「…かわいいでしょ」
バタン。
「にゃあん」
「いや…答えになってないし…」