ごめんね、神田。
「あれ、まだ居たんだ。帰らないの?」
クラスの男子の神田だった。
「うん、まだ家に帰りたくない。」
にこり、と可愛い笑顔を浮かべて返事をした。彼は少し目を見開き、視線を泳がせながらぶっきらぼうにふうん、と返事をした。神田は、私のことが好きだ。
あぁ、可愛いな。私は人に愛されることが大好きだ。そして、人を愛することも大好きだ。
「バスケは?休憩中?」
分かりきったことを首を傾げて聞き返した。我ながら悪女だとは思うが、好いてくれている人には最高の夢を見させてあげたいと思う。彼は自販機にお金を入れながら答えた。
「うん、そうだよ。」
「私これ飲みたいなぁ。」
すぐ隣に並び、ねだるような顔と仕草でカフェオレを指さした。その時、私には持ち合わせが無かった。
なんてね、と言いながら靴箱の前に座り直した。そうして、神田の方をちらっと見ると何も言わずに自販機にお金を入れ、カフェオレのボタンを押し、落ちてきたものを手渡しに来た。
頬は少し赤く、目を左にそらしていた。それでも近くに来るところあたり、いじらしい。
「えっ!ほんとに買ってくれるとは思わなかった!」
必死さ、健気さ、
「ほんとにありがとう!」
可愛げ、仕草、
「今度なんか返させてね!」
おまけに、品や常識を重ね合わせた演技をする。
神田の物欲しそうな瞳が大きく揺れた。一瞬手がこちらに伸びかけたのを見逃さなかった。最高に心地が良い。
「っ、別にいいから。」
神田は力まかせに本能を体とともに体育館へ引きずっていった。
少し、やりすぎちゃったか。
ごめんね、神田。
そんなことを思いながら、スマホの画面をつけた。時刻は午後の6時を回り、外は油のようなべっとりとした黒だった。
「まだ、帰りたくない……。」
そう思いながら、親の連絡先を目で探した。
小説を投稿するのは初めてのことで、おぼつかない文ではありますがよろしくお願いします。