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どうやら異能を授かりました

ある日突然、異能が発動したら……。

そんな馬鹿みたいな話を、誰しも一度は想像した事があるのではないだろうか?

そんな事は起こり得ないのだから考えるだけ無駄だと嘲笑っていた僕の身に信じられない事が起きていた。



朝、いつも通り登校すると、学校で人気の美少女、結城恵梨香から告白された。

彼女には確か付き合っている彼氏が居たはずだ。

僕の同級生で、校内で一番人気の高槻夢斗君だったと記憶している。

そんな彼女が頬を赤らめ、僕の前に立っている。

結城さんは、茶色のツインテールがトレードマークの美少女。

真顔の時は少しだけツリ目なのだが、笑った時の柔らかな表情とのギャップが人気の秘訣だ。

同級生よりも年上から人気があると聞いた事がある。


「もう、ちゃんと聞いてくれてますか?一真先輩の事が少し前から気になってました。付き合ってた彼氏とは別れて既に過去は清算してきました。好きです、私と付き合って下さい」


自慢ではないが、僕は容姿が優れているわけでもなく、家が裕福という事もない。

可もなく不可もなく……自分がモテるなんて夢にも思った事はない。

なのになぜこれ程の美少女から告白されているのだろうか?


思い当たる節はな……いや、待てよ。まさか昨日のインチキくさいお姉さんのせいか!?



昨日、僕は帰り道で変なお姉さんに声をかけられた。

その人は、質素なテーブルの上に怪しげな水晶を置いて、道路沿いに陣取っていた。

明らかに異質で、誰もが横目で見ては素通りしていた。

僕もその例に漏れる事なく通り過ぎようとして、目の前に差し掛かった瞬間、唐突に声をかけられてしまった。


「そこの学生さん。ちょっとお姉さんとお話ししない?少しだけ寄っていきなよ」


「あ、用事があるので」


息を吐くように淀みなく断る。そう言ってその場を足早に去ろうとして腕を掴まれた。


「ねえ、本当に少しだけだから。でね?異能に興味はないかい?」


断ったのに引き下がらない……。


「異能ですか?そういうの間に合ってますから……」


見た目相応に頭もぶっ飛んでる様なので、関わりたくない。僕の脳内裁判はすぐに判決は下した。

僕の腕を掴んでいた手を振りほどこうとして、少しだけ力を込めて振った。


「…………」


一真は軽く腕を振った。だが、振りほどけない。


少し力が足りなかったらしい。今度は少し力を込める。


一真は先程よりも幾分か強めに腕を振った。だが、振りほどけない。


「…………」


どうやら遠慮する必要はないらしい。僕は情けをかける事なく思いっきり力を込めた。


一真は本気で腕を振った。だが、振りほどけない。


「……にやっ」


怪しげなお姉さんは僕を見て笑った。お前の力はそんなものか?と言われている様な気がした。


「あの、先を急いでいるので離してもらえませんかね?」


押してダメなら引いてみろ。僕は込み上げる怒りを抑え、丁寧にお願いした。


「すぐ終わるから、ちょっとだけ寄って行きなさいな」


何を言っても無駄らしい。話を聞かないと解放してもらえないだろうと観念した僕は仕方なくイスに座る。


「うんうん、若いうちは素直が一番ね」


そう言って何度も頷きながらご満悦な表情を浮かべている。


「それで用件は何ですか?僕本当に予定があるんで手短に話してもらえますか?」


「もう、せっかちな男は嫌われるわよ。まぁ、いいわ。それでさっきから言ってるけど君、異能に興味ない?」


「興味があるかないかで聞かれたら、興味はありません。そしてお姉さんはその年で異能とか言ってて恥ずかしくないんですか?」


僕の答えを聞いたお姉さんの額に青筋が浮かぶ。

多分20代中頃ぐらいで若いとは思うけど、それでもその年齢ぐらいのお姉さんが異能とか言ってるの痛い。

正直関わりたくないというのが本音である。


「最近の若い子は、年上に対する口の利き方ってものが分かってないようね」


「そう言われても、いきなり異能とか言ってくる妄言癖のある人に対する敬意は残念ながら持ち合わせてないので。それじゃ」


席を立とうとして肩を掴まれた。

お姉さんは青筋を浮かべながら口元がヒクついていた。

やば、もう少しオブラートに包めば良かった。

後悔するものの今更謝ったところで許してもらえるとも思えない。


「だ・か・ら・は・な・し・を・き・け」


お姉さんに気圧され、僕は無言で頷いた。


「今なら何と無料で異能を授けてあげる!!」


「異能には興味ないのでお断りします」


「な、なんで!?」


お姉さんは心底驚いているが、普通に考えてそんな怪しい話に乗る人なんていないと思う。


「それじゃ僕は本当にこれで……」


そう言って肩に置かれた手を振り払おうとした瞬間、お姉さんが笑い出した。


「ははははは、こ、ここまでコケにされるとは思わなかったわ。もう君の意見は関係ない。私を馬鹿にした報いを受けさせてあげる」


「い、痛いです。肩痛いですから手を離して下さい」


お姉さんは興奮しているせいか僕の肩を掴む手に力が入る。


「せいぜいこれからの人生楽しむといいわ。我…汝に授ける!!主人公補正!!」


「…………」


「…………」


「…………」


僕の身体が光に包まれるといった事もなく、特に何か変わった気もしない。僕とお姉さんは無言で暫し見つめ合う。


「ねぇ……君、今からお姉さんとイイコトしない?」


え…突然どうしたんだ?何か本気で怖いんですけど…このお姉さん。

本気で身の危険を感じた僕は、その場を脱兎の如く逃げ出したのだった。




と、ここまでが昨日あった事の回想となるわけだが……。

もしかして僕は本当に異能を授かったのだろうか?

そして授かっているとしたら、魅了とかだったりするのだろうか?

もしそうなら昨日のお姉さんの急な変化と、今、目の前の美少女に告白されているこの事態の説明がつく。

そしてこの力を使えば、あるいは……。僕はある事を想像して、つい気持ち悪い笑みを浮かべてしまう。


「一真先輩、告白の返事は?私の身も心も全て捧げます」


そう言って目を閉じて少しだけ唇を突き出す結城さん。


「ごめんなさい!!僕、好きな人がいるんです。気持ちは嬉しかったけど付き合えない。ほ、本当にごめん」


僕は彼女を置き去りにしてその場を離れた。


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