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キャラオーバー

作者: 無川 凡二

 ある四人家族がいた。

 長男の名前は三郎、次男の名前は二郎という。

 あるとき、三郎はおもった。

 ぼくはなんで長男なのにこんな名前なんだろう?

 ふしぎだった。三郎という名前はふつうなら三男につけるはずだ。ひとりっ子だったときはあまり気にならなかったけれど、弟ができてからそればかりが気になってしかたない。

 名前なんてだれがだれだか分かればいいんだろうけど。そうはおもってもなんだかモヤモヤする。

 三郎は名前のせいでいじめられたらいやだな、とおもった。

「いいな。きみはそのままのなまえで。」

 となりでスヤスヤとねている二郎が、なんだかとてもうらやましかった。



 数年たって、その家には三男ができていた。

 もちろん名前は一郎だった。

「にーちゃん。野球しようよ。」

 二郎は小学生になっていた。野球が大好きな二郎に、三郎はしょっちゅう野球につきあわされている。

「はやくはやく!」

「まってくれよ。僕もやらなくちゃいけないことがあるんだから。」

 三郎は音楽家になるのが夢だった。

 今はコンクールにおうぼするための曲を作っている。でも二郎の野球相手をしているせいで、あまり進みがよくなかった。

「よし。じゃあ行こうか。」

「わーい!」

 いちだんらくついたところで三郎はいつものように野球につきあってやる。

 場所は近くにある公園だ。二郎はいつもバッターをしたがるので、三郎はしかたがなくピッチャーをたんとうする。

 大きくふりかぶってボールを投げると、カキンという音とともにボールは三郎の上をとおりすぎていった。

「僕たちの名前さあ!」

 三郎は話しながらうたれたボールをおう。

「なに?」

「ヘンだと思わない?僕は長男なのに三郎だし、一郎も三男なのに一郎なんだよ。」

 ひろったボールを投げかえして、ふたたびうたれたボールを取りにいく。

 ずいぶん僕も体力がついたな、と三郎はおもった。

「ヘンだけどさー。べつにいいじゃん。みんなそんなにきにしてないでしょ?」

 三郎はなにも言いかえすことができなかった。

 ボールはまた頭の上をすぎていった。

 公園のかえりに、三郎は言った。

「ごめん。明日からとおぶん、いっしょに野球はできないや。」

 おこってしまうかと思っていたが、以外と二郎はおちついていた。

「こっちこそごめんね。にーちゃんばっかりつきあわせちゃって。」

「ううん。そうじゃなくって。僕は音楽家になりたいんだ。だから、コンクールにだす作品をかんせいさせないといけなくて。それができたらまたいっしょにやろうか。」

「わかった!」

 夕日でオレンジ色になった道を、二人で歩いた。

 このけしきももう見あきたな、と三郎はおもった。



 数年がたった。

 三郎は中学生になっていた。

 さいきん、俺のまわりがおかしい。三郎はおもった。一郎がうまれてから色々なところがすっかりかわってしまった。

 一番におかしいところは三郎のへやだった。いちども作曲をした事がないのに、へやには音楽に使うものがあふれていた。

 いっぽうで、二郎のへやには野球のどうぐがそろっている。

 三郎は二郎のへやにあるバットとグローブをかりて、毎日ともだちと野球をしにいっていた。

 それについて、二郎は本をよむことにしかきょうみがないようで、かってに持っていっていいと言っていた。どうして自分のへやに野球どうぐがあるのかもわかっていないようだった。

 三郎は自転車で遠くの公園へ行く。

 昔は近くの公園で野球をしていたのだが、さいきんはめっきり行かなくなっていた。

 そういえば、俺はだれと野球をしてたんだっけ?

 三郎はへんな気分になった。何か大切なものを忘れてしまっているような気がした。

 野球をおえてかえるとポストにふうとうが入っていた。

『三郎様 全国中学生作曲コンクール』

 またか。三郎はあきあきしていた。

 自分あてにみにおぼえのない手紙が来ることがとても増えていた。そしてそれは決まって音楽にまつわるものなのだ。

「コンクールなんて知らねーっての。」

 三郎はいつものように読まずにゴミ箱に入れようと思っていたけれども、今回はどうしても気になってしまい、それをへやまで持っていった。

 ふうとうをハサミでチョキチョキとあけると、中にはひょうしょうじょうが入っていた。

『銀賞 「メモリー」あなたは〜 』

 へえ。やるじゃん。俺じゃないけど。三郎は自分ではないべつの三郎をほめながらそのしょうじょうをゴミ箱に投げ入れた。

 いつもやっていることなのに、今回は少しだけむねがいたかった。

 夜になって三郎は、いちども使ったことのないへやのパソコンをつけていた。

「あった!」

『メモリー』そう名前がつけられた音楽がそこにあった。

 流してみるとすごくなつかしいような、さびしいきもちになった。

 そこでやっとおもいだした。いるはずなのにそこにいないたいせつな人を。

「俺と野球をしてくれていた。あの人は、だれだった?」



 私には兄がいたはずだった。三郎は思った。

 何日か前に、三郎はへやのそうじをしていた。そうしたら、本だなの中に見たことのないふうとうを見つけた。中には音楽のコンクールのしょうじょうと手書きのメモが入っていた。

 メモにはこうかいてあった。

『俺には音楽家になるのがゆめの兄がいた。俺のゆめはプロの野球せんしゅだ。俺の名前は三郎だ。』

 三郎は自分のへやから野球道具をかりていく年上の男の子を、うっすらとだけ覚えていた。

 どうしてだか三郎はずっとわすれていた。体の弱い自分を野球にさそってくれた人がいた。

 私には兄がいたはずだったのだ。

「三郎ー!二郎ー!一郎ー!来なさーい!」

 母の声がする。

 三郎はなんだとてもイヤなよかんがした。

 三郎はリビングに行った。二郎と一郎も一緒だ。

 母はうれしそうに私たちと目を合わせてこう言った。

「みんなに新しい弟ができるの。一郎。あなたお兄ちゃんになるのよ!」

 昔に二度、おなじことを言われていたような気がする。


 あぁ...つぎは私のばんなのだ。三郎はそう思った。



 ある五人家族がいた。

 長男の名前は三郎、次男の名前は二郎、三男の名前は一郎という。

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