4-7 幕間
シンプルな装飾が施された廊下を、大小一組の影が早足で進む。
将軍ラネグとその補助役イダは、突然の招集を懐疑的に思いながらアディア国王謁見の間へ向かっていた。
疑念を感じるのも無理はない。イダは先日の侵攻の後処理を以て、将軍の補助役から解任され元の王女付きの世話役に戻っていたからだ。
先の戦の処理で問題点でもあったのか、いずれ良い報せではない予感がし、二人の胸中に不安が渦巻いていた。
しかし、謁見の間に入った二人を出迎える国王の台詞は、思いの外二人を歓迎するものであった。
「おお、よくぞ参った。先日の侵攻も大きな被害なく退けたこと、大儀であった!」
「はっ、もったいなきお言葉」
国王はラネグの返答を受けると、声を高らかに掲げる。
「さて将軍、今日呼び出したのは国の将来のための重大な作戦を伝えるためだ。今まで我が国は受け身であり続けたが、国力が充実した今が好機であろう。ついに反撃の狼煙を上げる時だ! すぐに軍を固め、我が国は魔人族の領地へ攻め入るぞ!」
「な!? 王よ、それはあまりに性急過ぎます!」
ラネグは膝を折る姿勢から思わず立ち上がる。
イダの表情にも、少しの動揺が見て取れた。
「いいや、今しかないのだ。昨今の侵攻は勢いが落ち、そのことからも魔人族側に何か不都合があると見て取れる。その上で先日の戦果だ。今攻め入れば敵軍の砦を落とせると、宮廷魔導師たちは戦況をみている」
「お言葉ですが、王よ、宮廷魔導師の言うことよりも、現場の声を聞くべきかと進言致します。ようやく体制が落ち着いてきた中でこちらから攻め入る等とした時には、均衡が崩れかねません」
「逆であるぞ将軍、均衡を崩すのだ。我が国が優位に立てるようにな」
ラネグは更に反論を重ねようとして、思いとどまる。国王の目は本気だ、これ以上の反論は自身の立場に影響が出かねない。
「.......承知致しました。しかし、人員はいかが致しましょうか。防衛主体だった我が国が保有する軍隊の規模はそれほど大きくありません。国を守護する分隊の配置も考慮するならば――」
「なに、敵軍も思いもよらぬ侵攻に、こちらへ意識を向ける余裕はあるまい。国の防衛は宮廷魔導師と冒険者たちで事足りよう」
問題点を挙げて考え直してもらおうかとも思ったが、その辺も詰めてあるようだ。宮廷魔導師の入れ知恵であろうか。
「イダよ、軍内部への伝達、冒険者への依頼の手回し等、将軍の補助を頼むぞ」
「.......はい、仰せのままに」
イダは下げた頭の下で唇を噛む。握りしめた拳が震えるのを努めて抑えながら。
アディア国王は反論もなく頭を垂れる二人を満足気に見下ろす。
「詳しいことは宮廷魔導師から説明を受けよ。では下がってよいぞ」
納得はできない。しかし国王からの命とあらば、絶対に逆らえないのが将軍と言う立場である。
苦虫を噛み潰したような顔を深い礼で隠し、将軍ラネグとイダは謁見の間を後にした。
♪ ♪ ♪
国王やラネグには気づかれていないだろうか。
イダは自身がひどく動揺しているのを、周りに悟られまいと押さえ込んでいた。
愛するラネグに危険な命が下されたから?
それもあろう。
この侵攻が国の窮地を招くかもしれないから?
それもあろう。
しかし、イダを動揺させている真の理由は別にある。それはイダが――――
いつもお読みいただきありがとうございます!
今話は短く区切られているため、本日中にもう一話投稿します!