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精霊《ルフ》と奏でるコンチェルティーノ  作者: 音虫
第三幕 精霊と奏でるグラントペラ 〜広がる世界、広がる可能性〜
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4-2 戦いに向けて

 パーティ五人は酒場区画で合流し、得た情報を交わし合う。

 アーニエたちの組も、結果は心音たちと同じであったようだ。


「明文化はされていなくても、この街での暗黙の了解というか、独自の文化があるようですね」


 冬の大気で冷やされた林檎の果実酒をジョッキの中で回しながらエラーニュがまとめる。

 ルーディ支部の酒場区画は利用者の数が多いせいか、その分値段が安く設定されていた。比較的安価で美味しい食事と飲料にありつけることから、客足が耐えないのも納得である。


 ヴェレスは綺麗に骨だけになった骨付き肉だったものをゴトリと皿に戻すと、単独で獲得しに向かった情報を四人に公開する。


「前線参加依頼なんだけどよ、いつでも受注できる訳じゃねぇようなんだ。けど、オレらは運がいいぜ! 大規模な魔人族の侵攻の予兆があるってことで、絶賛参加者募集中だ!」


 テーブルの上にバンと紙が叩きつけられる。そこには依頼の内容が、ヴェレスの荒々しい字で記されていた。

 四人でそのメモに注目するが、エラーニュが目を細めながら皆の気持ちを代弁する。


「情報ありがとうございます。ですが、受注手続きをする前にわたしも直接掲示原本を見に行きます」

「あ? オレが書いてきたやつじゃダメか?」

「はい、不足点が色々と」

「そ、そうか.......」


 大柄な背中を小さくするヴェレスの様子に口許を緩めながら、心音はミルクを口に運ぶ。

 冬場のミルクは、故郷の冷蔵庫で冷やした牛乳の味を思い出すなぁ、と心音がノスタルジーを感じていると、アーニエが「そういえば」とテーブルに肘をつく。


「コトって酒場に来てもいつもミルクよね。お酒が飲めない歳でもないのに。何かこだわりでもあるの?」

「えっと、ぼくの故郷ではお酒は十八(二十)歳になってからという決まりがありまして、何となくそれを守りたくて.......」

「ふうん、ほとんどの国じゃ十三(十五)歳から飲めるんだから、郷に従えばいいのに。お酒の味を知らないだなんて、人生損してるわよ〜」


 そう言いアーニエはワインを揺らす。

 魔法で綺麗な水がいつでも生み出せるとは言え、食事に合わせる飲料としては酒類がメジャーである。飲料を保存するには、アルコールが適しているからだ。


 この世界では咎められることがないとは言え、やはり育ってきた中にあった決まり事を破りたくはない心理が働き、「あはは、そのうち気が向いたら」と心音はお茶を濁した。




 食事と情報交換を終えた後、さっそく依頼を受注することにした。

 依頼掲示板でエラーニュが詳細を確認し、窓口で手続きを済ませる。


 戻ってきたエラーニュ曰く、いつ敵軍が動き出すか分からない為、しばらくはギルド支部の建物内で待機する必要があるそうだ。

 とは言え、灯りのない平野から闇夜で全容が見えないアディア王国の砦に攻め入るには敵軍にとってデメリットが大きい為、夜間の警戒は軍による最小限のものに抑えているらしい。その間冒険者はそれぞれ近隣の宿に泊まるのが常だそうだ。


 ギルド支部内では食事も鍛錬もできる為、待機自体はそう苦にはならないだろう。

 まずは一泊し、早速翌日から心音たちはギルド支部の修練場で体を動かすことにした。


♪ ♪ ♪


 バスケットボールの試合が三つ同時に出来るのではないかという程の空間。

 所々で壁紙の色が微妙に違っているのを見るに、何度か増改築が繰り返され今の広さになったのだろう。


 その一角で、心音は久しぶりにアーニエから魔法の手解きを受けていた。

 アーニエが〝水球〟で作り出した的を、心音が〝水刃〟で切り裂く。

 しかし心音の攻撃はアーニエの水球に取り込まれ、それを分断することは叶わなかった。


「圧力が足りないわ。コト、水魔法っていうのは、攻撃に転用する場合は風魔法の感覚も必要なのよ。水を凝縮して、高い圧力と速度で対象に射出する。それができたら今みたいにはならないから、やってみなさい」

「むー、わかりましたっ! やってみます!」


 魔法を扱うには、火、水、風などに代表される分類ごとに切り離して考えるべきではないことは既に理解しているつもりだ。

 火を燃やすのに空気や火種が必要で、燃え広がらせるには風が有効であったりと、様々な要素が作用し合って魔法は発現するのだ。


 それを理解した上で、魔法は〝想い〟で補強される。

 アーニエは水を中核とした水魔法の知識に富んでいるだけでなく、その水魔法が〝恐ろしい〟と真に認識しうる〝想い〟を内包しているから強力な水魔法が扱えるのである。



 心音が試行錯誤に勤しんでいる背後では、シェルツとヴェレスが半ば本気の剣戟を交わしていた。


 ヴェレスのハルバードによる突きを寸での所で右手側に躱し、そのままシェルツは反時計回りに回転して斬りかかる。

 しかしヴェレスは後ろに引くと同時にハルバードの刃をシェルツが躱した方向に回転させ、それを引きながら回避と攻撃を同時にこなしてみせる。

 それを勝手知ったるか、シェルツは回転の勢いのまましゃがみ込みヴェレスの脚部に剣筋を移行する。

 されどヴェレスは予想出来ていたのか、後ろへ引く二歩目には後方へ跳躍しており、シェルツの剣は足の下を通過した。

 だが、上手く躱したその一手が決め手となる。ヴェレスが着地すると同時、一瞬浮いた重心の穴をついて、シェルツが集中的に強化した脚力を爆発させ、神速の突きを放った。


「――〝防壁〟!」


 その突きはヴェレスに届く直前、エラーニュが展開した防壁に阻まれて弾かれた。


「くぅ、やられたぜ。これで今日は三勝三敗だな」

「毎度の事だけれど、簡単には勝たせてくれないね。だから張合いがあるんだけれどさ」


 怪我に繋がる危険な攻撃は、エラーニュが待機状態にしている〝防壁〟を瞬時の見極めで挟んで防ぐため、三者三様に極度の緊張感の中、集中した修練を行えていた。


 気迫すら感じる新入りの剣閃に、ちらほらとギャラリーが増えていく。

 その中から一人、大きな槍を背負った男性が近づいてきた。見覚えのある顔に、シェルツが反応する。


「あなたは.......ペルーシさん、昨日はありがとうございました」

「おう。それよりも、シェルツ、だったか? お前ら中々の腕前があるようだな。見たところ四段位、いや五段位駆け出しと言ったところか?」

「驚きました、その通りです。五段位に昇段してからはまだひと月半くらいで.......」

「ハハ、目利きには自信があってな。でも、あっちの嬢ちゃんはまだまだだな、いいとこ三段位くらいじゃないか?」


 シェルツたちの奥、アーニエから指南を受ける心音を指したペルーシの言に、シェルツは少し誇らしげに返事を返す。


「いえ、彼女は四段位です。俺たちのパーティには欠かせないサポート役で、今は得手としていない攻撃魔法の練習中ですね」

「そうか、これは失礼した。何も戦闘だけが冒険者の資質ではないからな」


 ペルーシは軽く頭を下げると、起こした頭に屈託のない笑みを浮かべて親指を立てる。


「それじゃあ、前線戦では期待してるぜ、新入り!」


 身を翻して仲間を促し、ペルーシは空いているスペースを見繕って槍を奮い始めた。

 その体捌きの洗練され具合にシェルツたちが思わず目を奪われていると、修練場の出入口から「連絡で〜す!」とよく通る女性の声が響き渡った。


「魔人軍が動き始めました! 皆さん、砦に登り準備を始めてください!」


 「よしきた!」「案外早かったな」「新技のお披露目だぜ!」などと、方々から声が上がる。

 出入口の方へ向かう冒険者たちの波に乗れば良いのかと思案していると、ペルーシが心音たちを手招きする。

 人の流れを避けながら彼の元に辿り着くと、口角を釣りあげて前線参加の新人たちへアドバイスを投げかけた。


「周りを見ていれば分かるだろうが、これから依頼受注者は皆砦の上に向かう。攻めてくる軍を城壁の上から迎撃するわけだが、俺たちが色々と教えてやろうじゃないか」

「ありがとうございます。お言葉に甘えて、ここでの戦い方を教わりたいと思います」


 前線での戦いがどれ程のものか、緊張感が高まる。

 腕の動きで着いて来いと合図するペルーシに従い、心音たちは国同士の均衡を守る砦へ向かった。


いつもお読みいただきありがとうございます!

読者の皆様の存在が励みになっております。

今後ともよろしくお願いします♪

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