2-5 マ・メール・ロア
かなり短いお話です。
そのため、臨時で金曜更新追加です!
とおいむかし。
王さまの国は、こわいまものにおびえていました。
まものはまいにち、国にやってきては、たいせつなこどもをつれさっていきました。
こどもがだれも外にでなくなると、こんどはわかい女の人をつれていくようになりました。
みんな家からでなくなり、国はいつもくもっていて、さびしい風がふくだけになりました。
まものはついに、おひめさまをつれさろうと、おしろまでやってきました。
おひめさまは、こわいまものを目の前にして、ひっしにたすけをよびます。
すると、きらめくよろいでからだをつつんだ〝きし〟が、かがやく鳥にのって、まどの外からやってきたのです。
白ぎん色に輝く〝きし〟は、まものをひとつきでやっつけると、けんを天にかかげました。
ふしぎなことに、空ははれて、町があかるくなると、〝白ぎんのきし〟は鳥にのって空へときえていきましたとさ。
――児童向けのお伽噺集より抜粋
白銀の騎士の伝説
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彼女は黄昏ていた。
遠くの山に沈みゆく夕日を眺めながら、テレーゼは己の運命を嘆く。
日頃の行いが悪かったとは思わない。
貴族社会で生き抜くため、できるだけ軋轢を生まないような立ち振る舞いを心がけてきたつもりだ。
それでも、代々王家の傍につく一族ということで、生まれながらに一定以上の地位が約束されていることを妬む人も少なからずいたことは認めざるを得ない。
ある事ない事を吹聴する輩もおり、もしかしたら世間的な心象は良くなかったのかもしれない。
ため息が夕日に焼かれて霧散する。
代役の制度には、面倒な取り決めがある。
貴族家の代役を務められるのは基本的に爵位持ちの血統のみである。
それに満たないものが代役を務め敗れた場合、罪はより重くなり、ほとんどが見せしめのために死罪となる。
決闘の公平さ、目的及び神聖さを失わせないためだという。
それでも、代役のアテは全く無いわけではない。
両親に相談すれば、繋がりのある武闘派の貴族家に連絡を取り、腕自慢の戦士を用意してくれるかもしれない。
しかし、それをしてしまうと、相手の家に対して大きな借りが生まれてしまう。
勝っても負けても自身の家の立場が落ちてしまうということを、テレーゼは容認したくなかった。
そのため、統治の仕方を兄に指導するために街の外の領地に出向いている両親と兄に対して伝令を出すことを、テレーゼは抑止していた。
――家を継ぐのは、お兄様ですもの。
自身の命で家の尊厳が守られるのであればそれで構わないと、テレーゼは自身に言い聞かせる。
王子の遊び相手という役目を終え、後は政治の道具になるしかないという自身の境遇にも疲れていたのだ。
諦観が支配する中、テレーゼは本棚に佇む一冊の本の背表紙を撫で、ぼそりと夢物語を口にする。
「決闘が真に無実の証明を示すものだというならば、どうか私の潔白を認めてくださいまし。物語に名を馳せる、この国の英雄、白銀の騎士のように」
呼応するように夕日は沈み、白銀の月が街を照らし始める。
月明かりを浴びるテレーゼの肌は、消え入りそうなほど透き通り、薄暗い部屋の景色に溶けていった。




