2-3 光を讃える洞窟
テレーゼの舘から出た五人は、方針を定めるべく、話し合える場所、冒険者ギルドを目指して歩く。
心音が大切そうに抱える羊皮紙には、光転写魔法で写されたエルドの姿が浮き上がっていた。
冒険者ギルドに着いて初めに、転写絵図の複製を依頼する。
光転写の依頼には決して安くない金銭がかかるが、費用についてはテレーゼから受け取っていた。
複製したそれを五人それぞれが手にし、まずは足で情報を集めようと簡単な予定を立てる。
「五手に別れて情報収集するよ。ヴェレス、アーニエ、エラーニュ、コトはそれぞれ東西南北を、俺はギルドでの聞き込みと中央区画を見てみるよ」
あらためてテーブルの上に置いたエルドの転写絵図を見る。
歳は十二歳(つまり十進法で十四歳)。
フランと同じ焦げ茶色の髪。
キツめの目尻に、自信に満ちた表情。
その雰囲気から注目は集めそうで、目撃者はどこかしらで見つかりそうなものである。
時間やルートを決め、いざ調査を始めようと立ち上がったところで、五人の輪の外から声が飛び込んできた。
「お? お前ら、エルドぼっちゃんを探してんのか?」
「はい、彼を知っているのですか?」
ベテラン冒険者といった装いの男が、顎に手を当てて転写絵図を覗き込んでいる。
「あぁ、ぼっちゃんはギルドじゃ有名人だぜ。よく修練場で魔法をぶっぱなしてるからな。冒険者とも仲は悪くねぇ」
貴族の令息がギルドに入り浸っているということに意外に思いながらも、有力な情報が得られそうだと、期待を込めてシェルツは問いかける。
「昨日は彼を見かけませんでしたか?」
「昨日もここに来ていたよ。珍しく護衛依頼なんか出して、顔なじみの冒険者二人連れて朝のうちに出ていったな」
「ということは街の外に……? 行先は分かりませんか?」
「あー、洞窟だ洞窟。どこだったかなぁ、北の方の、あぁ、ハルの洞窟だ。大宝石の噂がある。ぼっちゃんもロマンがあるなぁ、と」
思い出して明るく笑う冒険者に、シェルツは新しく湧いた疑問をぶつける。
「大宝石の噂、とはどんなものでしょう?」
「なんだ、そんなのも知らないのか? 見ない顔と思ったが、他国から来たのかい? ハルの洞窟は昔宝石鉱山だったんだがな、当時の技術じゃ掘れなかったでかいのがまだ眠ってるって噂さ」
宝石、社交会、行先を告げずに。
心音の中でワードが繋がり始めたところで、シェルツが礼を伝え会話が終了する。
考察を話すより、まずは行動を開始すべきだろう。
「よし、目的地はハルの洞窟だ」
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
ハルの洞窟は街から北方、三時間ほど馬車を走らせた場所に位置する。
荷車をつけず、各人が馬を走らせれば遥かに時間は短縮されるが、捜索対象者がどんな状態か分からないため、怪我をしていたとしても乗せられる馬車を選択した。
御者を務めるヴェレスが地図を確認しながら確実に進む。
道中何度か襲ってきた魔物を危なげなく処理しつつ、遂にそれらしき洞窟に到達した。
背の低い山にも見える大岩を掘削したような大穴。元鉱山であるというから、その印象も間違ってはいないだろう。
馬車を付近の木につなぎ止め、ひんやりとした空気が這い出る暗闇に侵入する。
「ガイ デ リヒ ガイ ツェ」
一切の光が届かないその闇を、心音の精霊術で照らしながら歩みを進める。
内部の構造としては、太い幹のような主道から、何本も枝分かれした細い道が走っているようだ。
全ての道を虱潰しに探すとすれば、とてもじゃないが決闘の日まで間に合わないと、心音は辟易した。
奥へ奥へと進んでいくと、心音は足元に違和感を感じて視線を落とす。
「ん、なんだろう、これ……」
「木の板、のようですね。穴を塞いでいるのでしょうか」
独り言のように零された言葉に、エラーニュが反応した。
先を見れば、その板は不揃いな間隔でいくつも敷かれている。
「〝巣をつつかぬ者を白蜂は襲わず〟という言葉もあるしね、できるだけ踏まないように歩こうか」
シェルツが言った〝触らぬ神に祟りなし〟と同じような意味の慣用句に皆同意を示し、少し慎重な足取りでより奥を目指した。
一時間ほど歩いただろうか、向かう先で光が滲んでいるのが見えた。
一瞬人工の光かと期待し近づくが、次第に膨らむその光量は天然のものだろうと確信できる規模であった。
光の発生源にたどり着くと、一気に視界が広がる。
「わぁ、すごい! キレイ……」
空に向かって吹き抜ける絶壁。
それは天頂から遥か下に向かって続き、巨大な円柱状の空間となっていた。
壁は青く反射し、宝石の原石があちらこちらに埋まっていることが伺えた。
「これは……人工物ではなさそうだね」
「さすがにここから採掘するのは危険すぎるのと、技術が足りなかったのでしょう」
その光景に目を奪われていると、突如目の前を飛び抜けた蝙蝠に驚き、心音は後ろ向きにたたらを踏んだ。
「わわっ……え?」
バキッ、という乾いた音と共に、嫌な予感が全身を駆ける。
「コト!!」
自分の名前を呼ぶ声を背景に、木の板を踏み抜いた心音は下へ下へと滑り落ちていった。
♪ ♪ ♪
「いたた……お尻無くなっちゃうかと思った」
落ちた先、心音は摩擦で熱くなった臀部をさする。
もし丈夫な冒険用の革製防具を着ていなかったら今頃血まみれだろうと思うと、笑えない状況であった。
精霊術の光を強め、辺りを見渡す。
上の洞窟と違い、整備された様子がない。
あちらこちらから綺麗に輝く石が顔を覗かせているのを見るに、採掘されていない天然の洞窟と考えられる。
「どうしよう、ここで助けを待った方がいいかな?」
下手に動くと自身の位置が分からなくなってしまう恐れがある。
そう思い辺りに目印になるものが無いか見渡すと、少し先に光が滲んでいるのが見えた。あれは先程の吹き抜けであろうか。だとすれば、幸いにも自身の現在位置はある程度分かることになる。
一方通行になるが、落ちてきた穴に向かって音響魔法で無事を伝える。
きっとシェルツたちなら何かしらの方法で助けてくれるだろう。
「どうしようかな、あの光ってるところまでは見に行ってもいいかな」
そう遠くはない上、目立つ場所であるから迷子にもならないだろう。そうして光の方角へ進もうとしたところで、反対側から衝撃音が響いた。
「何の音? 誰か、いるのかな?」
もしかしたら捜索対象のエルドかもしれない。
その可能性が頭に浮かんだ途端、じっとはしていられなくなった。
照明をしっかりと維持すると、心音は闇へと潜っていった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
ブクマもいただけて、嬉しいです♪
洞窟って、なんだか冒険っぽいですよね。
次回も探索回です!




