4-11 反撃の狼煙
三日後、冒険者ギルドヴェアン支部の修練場に、冒険者と首都警察隊、そしてヴェアン軍の総勢百五十人が集結した。
冒険者五十人。ヴェアン支部に在籍する五段位冒険者のほとんどが集まった上、六段位冒険者四人パーティの姿もあった。
もう五十人はヴェアン軍の軍人。残りの五十人は首都警察の人員であるが、装備を見るに実際に突入するのは二十人ほどで、後はサポートに当たるのであろう。
修練場の最奥に設置された小ステージに、一際目立つ装備をした首都警察の男が上がった。
彼は全体を見渡し、大音声で部屋全体に声を響かせる。
「冒険者の皆さん、此度の作戦への協力、感謝します。私は現場指揮を務める首都警察のリザイアと言います。対象場所が建造物のため、少数精鋭で実力のあるものに集まってもらいました。
作戦について、首都警察隊の者には既に再三詳細な作戦を伝えてあるため、そこは割愛させてもらいます。
冒険者の皆さんにお願いしたいのは、対象本拠地周辺の魔物討伐です。対象組織、起源派は魔物を大量に従えているとの情報が掴めています。ヴェアン軍の方々と協力しそれらの掃討をしつつ、首都警察の突入部隊が本拠地内部に侵入できるよう活路を開いて欲しいのです」
「なんだ、単純で分かりやすいじゃねぇか」
拳を掌に打ち付けて呟いたヴェレスのように、冒険者の間では難しいことを考えずに暴れられることに気分が高まる者も散見された。
「場所は北方の山脈麓。山を背にして滅びた市街が広がっており、攻めづらい地形となっているため、首都警察と軍の人員は陣形を崩さないよう意識してください。冒険者の皆さんには左右の区画に分かれ、中央突破する部隊への魔物の襲撃が減るよう、遊撃をお願いします」
普段から集団での訓練をしている組織と違い、冒険者は基本的には少数のパーティ単位の戦闘が主である。そのため、遊撃というポジションに落ち着いたのであろう。
「食料及び飲料は補助隊がまとめて運んでいます。必要な時は遠慮なく声をかけてください。
それでは、犠牲なく作戦を完遂できるよう、全力を尽くしましょう。
またここに集うときは、王国の敵を討ち、勝利の美酒を手にして‼」
リザイアが右腕を突き上げ、一団は鬨の声を上げる。
ここからは作戦行動である。
事前に取り決めた部隊に分かれ、王都の玄関門へ向かった。
♪ ♪ ♪
三十人が乗れる大きな馬車が五台。それぞれを四頭の馬に引かせ、目的地へと向かう。
道中、大小様々な鳥が北側から行ったり来たりしているのが見られた。
「見られてるね」
「えぇ、ありゃ使い魔ね」
シェルツが呟いた一言に、もちろん気がついていたとばかりにアーニエが苦々しげに返す。
「使い魔の話はコトから情報提供してあるから、他の部隊も気がついていると思うけど……俺たちも気をつけようか。きっと準備を整えて待ち構えられているよ」
二時間ほど馬車を走らせ、目的の山脈が近づいてくる。
同時に、何かの群れが集団をなして迫ってくるのが見えた。それを注視して確認すると、頭に赤い角の生えた魔物の群れであることが確認できた。
「なんて規模だ……こんなの、王都にすら攻め入ることの出来る戦力じゃないか」
先頭の馬車が減速して止まり、後続もそれに従い停車する。
先頭の馬車からリザイアが降りてくるなり、声を張り上げて指示を出した。
「正面部隊降車! 作戦通り行動に移り、活路を開け!」
首都警察隊と軍隊のメンバーが降車し、武器を構える。
何人かが一斉に詠唱を始めるのを横目に、冒険者を乗せた馬車が左右に分かれた。
正面部隊が放った遠距離魔法が魔物の群れに直撃し、勢いが弱まったところを軍人達が攻め入っていく頃、左右に別れた冒険者部隊も降車し、挟み撃ちするように攻め始めた。
「心音、アレを試してみよう。位置はこの辺で」
シェルツはそう言い残すと、心音を置いて、他の冒険者たちと共に駆けて行った。
大人数での戦闘をするに当たり、事前に何が出来るか、何が効果的かを考えていた。
心音にできる、心音にしか出来ないそれは……
少し離れた位置から、全体を俯瞰する。
魔物の数は、千は超えていそうだ。まだ増える可能性もある。
対するこちらは、対魔物の部隊は百人程度。一人でおおよそ十は倒さなければならない。
少数精鋭部隊だけあり、やや優勢を保っているようであるが、魔物の動きも一般的なそれと比べ機敏で、傷を負う者も既に出始めている。
効果範囲を見定め〝聴衆選定〟を行う。
そしてコルネットを構えると、その朝顔から勇ましい音が飛び出した。
ミシェル=リシャール・ドラランド作曲
【ヴェルサイユ運河上の祭典のためのトランペット・コンセール】
戦士達の心を鼓舞するファンファーレ。
まるでトランペットのような澄み渡った舌つきは音響魔法により瞬時に戦場全体の人間だけに届き、その身体能力を向上させる。
「おお!? この音は……それにこれは他者強化か?」
誰かが驚きを漏らす。
しかしそれも一瞬、自身に力を与えたそれを直ぐに受け入れ、目の前の戦闘に身を投じた。
途端に力を増した部隊により、魔物はその数を減らし、意図的に追いやられていく。
「本拠地までの道ができた! 警察隊、突入!」
作戦通り道が開けたことで、リザイアにより号令が出される。
本拠地の館まで辿り着くと、警察隊は三つに分かれ、別々の窓から、それを割り侵入して行った。
(あとは首都警察の方がリーダーを捉えれば、作戦完了です!)
その様子を見届けつつ、演奏を続けながら心音は順調な現状にほっとした。
しかし次の瞬間、正面近くから侵入したリザイア率いる警察隊の後を、狼型の魔物が立て続けに三匹侵入するのが目に飛び込んできた。
(……! 誰も気がついてない、このままじゃリザイアさん達が危ない!)
心音は自身が助けに行くしかないと思い、戦況を確認する。
(魔物の数は減ってきてる、これなら……)
少し効果は落ちるが、今の心音には、自身が直接の演奏を止めても擬似魔法を発動させ続ける手段がある。
(精霊さん、お願い! 演奏を続けて!)
精霊に〝想い〟を託し、音響魔法を維持させることで、他者強化を持続させたまま心音は楽器を下ろした。術の強度は落ちるが、これで心音が集中力を切らさない限りは効果は持続する。精霊が奏でる音楽を背に、心音は館に向かって駆け出した。
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第二幕のコーダ(エンディング)に向けて動き始めました。週一更新のままですが、お楽しみいただけたら幸いです!




