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精霊《ルフ》と奏でるコンチェルティーノ  作者: 音虫
第二幕 精霊と奏でるアリア=デュオ  〜王国に落ちる影〜
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4-2  武器と出会いと精霊と

 帰路は順調なものであった。


 旅慣れてきた、というのもあるだろうが、魔物の数が極端に少なかったのだ。

 何事もない時間を過ごしながら、エラーニュが、敢えて言うまでもないことですが、と前置きして話題を投げる。


「やはりあの猿型の魔物が、この辺り一帯の魔物を集めていたようですね。計らずして一網打尽にしてしまった、ということになるのでしょうか」


 そう言うと高い功績を残したようにも聞こえるが、シェルツは少し記憶を辿るように目を瞑り、苦々しい顔で瞼を開いた。


「そうだとしても、二度とあんな事態は経験したくないね。何かが欠けていたらたくさんの犠牲者が出ていた、綱渡りのような出来事だったんだ」


 もし、遠征の旅に出ていなかったら。

 もし、ゲヴァイドたちと出会わなかったら。

 もし、心音が楽器を持っていなかったら。


 絶妙なバランスで切り抜けられた今回の戦い。このような危険がまだこの国に潜んでいるということを考えると、シェルツは呼吸の苦しさを感じた。


「一期一会、ですねっ。何かの巡り合わせで出会えた人や出来事を、大切にしていきたいです!」

「コトさんのその考え方、素敵ですね」


 ありとあらゆる出来事が複雑に関わり合い、絡み合うこの世界。


 偶然なのか、必然の連続なのか。


 それは神様でもない限り知りようもないが、今この世界で過ごすこの時を大事にしていきたいと、心音は自身の生き方を確認した。


「さて、もうすぐシェンケンだ。一日滞在して、ベジェビの依頼達成報告と消耗品の補給をしたらヴェアンに向かうよ」


 白猫事件のせいで見飽きた、外から見たシェンケンの柵をその目で確認し、それぞれ検問を迎える準備を始めた。

 

♪ ♪ ♪


 消耗品の買い出しは滞りなく終わり、宿区画に向かおうとしたところで、道端の武器屋で大々的な宣伝文句が叫ばれているのが聞こえた。


「希少な武器が入荷したよ! 低魔素地域で産出されたレフィド鉄鋼で作られたダガー! 限定三本だよ! 寄った寄ったぁ!」


 余程目を引いたのか、一人二人と足を止め、次第に人だかりができ始めた。


「ヴェレスさん、あれってそんなに珍しいものなんですか?」


 心音はこの五人で最も武器に詳しそうな男に声をかけた。

 それは間違いではなかったようで、普段の彼からは考えられないほどスラスラと解説し始めた。


「武器ってのは鉄鋼で作られるのが常だが、だいたいは染み込んだ魔素が邪魔して継続的な魔法の付与が難しいんだ。

 アレの珍しいところは低魔素地域で産出された素材を使っているってとこだな。魔素の蓄積がねぇから、魔法を付与しての近接戦闘がしやすくなる」

「低魔素地域って、あまりないんでしたっけ?」

「そこは詳しく知らねぇが、世界には魔素が溢れてるだろ? なんか、すげぇ地下深くとか洞窟の奥の方に行かねぇと、採掘出来ねぇらしい」


 とにかく希少なものなのだという認識を得ることはできた。

 そういえばと、心音は精霊術工房での精霊付与の儀の前に交わしたピッツとの会話を思い出し、ぽつりと呟く。


「精霊付与する道具、工芸品や金属類って、こういうものを使ってたのかなぁ」

「工芸品? でもまぁ、アレも似たようなもんでしょ。今日日(きょうび)ダガーを主要武器にする前衛なんて探す方が大変だし、精々が護身用の装飾品よ」


 アーニエが興味なさげに言い捨てる。

 しかし、心音としてはどうも気が引かれるものがあったようだ。


「ぼく、ちょっと見てきます!」

「あぁちょっと! ……まったく、お金はないわよ?」


 人混みの中に消えていく小さな少女を見送り、自分たちも見るだけなら、と四人は追従した。




 ショーケースに収められたダガーは、なるほど装飾品といっても通じるものであった。

 オシャレな彫刻が刻まれ、所々に金の意匠が輝く。

 それでいて華美過ぎず、戦闘用としての用途は果たせそうであった。


 値段のせいか、それとも野次馬がほとんどなのか、はたまたダガー使い自体がいないのか、まだ一本も買われていないようである。


「えっと、値段は……わっ」

「はぁ!? 金貨十枚ですって!?」


 固まる心音の後ろからアーニエが顔を出し、大声を上げた。

 金貨十枚というと、一人分の食費十ヶ月分である。心音は以前聞いたその情報を思い出すと、アーニエの驚きようも尤もだと、肩を落とした。


「あたしらには手の届かないものよ。諦めて行きましょ」


 踵を返すアーニエに、心音も後ろ髪を引かれながらも渋々ショーケースに背を向けたところで、店の奥から呼び止める声がかかった。


「もし、あなた方はあの時の冒険者の方々ではないですか」

「あ、レイクハーさん!」


 声の主を探せば、恰幅のいい男、ハデスマー商会主その人が店の奥から顔を覗かせていた。


「まだこちらに滞在しておられたのですね。あなた方もこちらの商品に興味がおありで?」

「はい。ぼくの精霊術と、上手く組み合わせられないかなぁって。でも、お値段的に手が届かなそうです」


 あはは、と力なく笑う心音のことをじっと見て、顎に手を当てて考えること数秒、レイクハーは店の店主と思われる者と何やら密談し、何やら意味ありげな笑みを浮かべて帰ってきた。


「あなた方には恩がありますし、バルトルディフェリックスの捜索のみならず、再発防止の手まで打っていただけました。そこで、このダガーを金貨一枚でお譲りしようと思いますが、いかがでしょうか?」

「えぇっ! いいんですか!?」


 思わぬ提案に、心音が輝いた視線をレイクハーに送る。

 しかし、レイクハーは生粋の商人である。何か裏があるのではないかとエラーニュが彼に問いただすと、特にやましい所はないのか、直ぐに説明してくれた。


「実はこのダガー、これから私の商会が専売することになったのです。恩返しの割引があるのは事実ですが、あなた方ほどの冒険者に使っていただければ、良い宣伝になります。宣伝にかかる費用って意外と高いんですよ」


 なるほど理にかなっている。

 あとは、金貨一枚とはいえ大金には変わりないことから、パーティの皆と相談しつつになるが、意外な人が後押ししてくれた。


「九割引よ、九割引! これは買いだわ! いざとなったら売りましょう!」


 アーニエの身も蓋もない主張に、パーティメンバーだけでなくレイクハーも複雑な笑みを浮かべたが、いずれにせよ反対者はいなさそうである。

 心音の戦力強化も願い、魔法を溜め込むダガー、〝滞魔剣〟を購入する運びとなったのであった。

お読みいただき、ありがとうございます♪

ブクマに、評価ポチリまでして頂いた方もいらして、とても嬉しいです……!


〜以下、今エピソードの参考です〜

本文中回想にもあった、魔素の少ない地域について少し触れていたのは、

第一幕 2-4 精霊術と踊るルフ

です!

また、この世界の魔法観についておさらいしたい方は、

第一幕第三楽章の後ろについている、

精霊と奏でる間奏曲インテルメッツォ〜この世界の便利道具体験 ‬

をご覧下さい!


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