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精霊《ルフ》と奏でるコンチェルティーノ  作者: 音虫
第一幕 精霊と奏でるコンチェルティーノ ~落とされた世界、ここで生きる道〜
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4-2 冒険者ギルドでの再会

区切りの都合上、今回はちょっとだけ長めです。

 事務室で城内身分証を返却して、特別聖歌隊宣教師としての身分証を受領する。

 事前に準備はしていたため、簡単にその手続きは終わり、心音は王城を後にした。


『ん〜と、それじゃあ、まずはギルドに行って護衛依頼の発注かなぁ』


 これからは、街から街へ、旅をしていくこととなる。街についてからなら問題は無いが、その間の旅路で、野生動物や魔物、あるいは盗賊などから身を守らなければならない。

 そのため、隣の街に用事があったり、近くで依頼を受注する冒険者に、そこまでの護衛を依頼することとなるのだ。心音は自分の身を守るだけの戦闘能力がないことを、自覚していた。


 しばらく街を歩く。

 王国公務員となったことでお給金は貰えていたし、それは今後も継続してくれるそうだ。各領地の城など、王国直下の管理施設で支給してくれるらしい。

 途中、心音は適当な店に入り昼食をとる。自分で稼いだお金で食事を取れるというのは、なんとも新鮮で、よりそれを美味しく感じさせた。


 結局ギルドに着いたのは、昼の暖気が落ち着きを見せ始めた頃であった。

 中々距離があったので、良い具合に食後の運動になったと思いながら、心音はギルド支部の入口をくぐる。

 

(久しぶりに来たけど、やっぱり人が多いなぁ)


 ティーネと魔法の特訓をするために通っていた時を思い出す。

 心音のように依頼があってくる人、手頃な仕事がないか探しに来る冒険者、訓練場に用がある人、仲間と交流するために来た人、実に様々な人で、ギルドは常に賑わっている。


 心音は依頼窓口を見つけ、そちらに歩みを進める。

 窓口の近くには、依頼内容を書き込む用紙と机が、幾つか設置してあった。傍らにはマニュアルのようなものもある。

 とりあえず、と心音はマニュアルを開いてみる。この世界の言葉も勉強してはいるが、点々とは中身を理解出来ても、分からない単語が多く、読めるとは言えない状態であった。

 マニュアルを読むことは諦め、素直に窓口の人から書き方を教わろう(あわよくば代筆してもらおう)と思い、手元のマニュアルから顔を上げると、突如横から声がかかった。


『やっぱり、あの時のちんまいのじゃない』


 誰がちんまいのですか! と振り返ると、そこには大きなメイスがドレードマークの女性が立っていた。


『あっ! えっと、アーニエさん!』

『あら、よくあたしの名前を覚えていたわね。あたしはアンタの名前なんて忘れてたわよ……って、あんた対外念話使えるようになったの?』


 命の恩人の一人である。心音はしっかりとアーニエのことを覚えていた。決して、思い出すのに少しかかったなんてことは、ない。

 そういえば、精霊工房の一件の後、アーニエには初めて会う。


『色々とありまして、日常的な魔法、みたいなものなら使えるようになりました』


 説明すると長くなる。あはは、と笑い心音は誤魔化した。


『ふ〜ん。まぁ便利になってよかったんじゃない? ところであんた、しばらく見なかったけど、なにしてたのよ? てゆうかその髪どうしたの?』

『えっとまぁ、それこそ、色々とありまして……』


 質問の嵐である。アーニエの反応を見るに、どうやら一連の騒動を知らないようだ。王都から出ていたのか、あるいは隔離された建物にいたのか、いずれにせよ創世祭に参加してないあたり、敬虔な信者という訳ではないらしい。


『色々、ねぇ。とりあえずそれは良いとして、こんな所で何してんの?』

『世界を、旅して回ろうと思ってまして。護衛依頼を出しに来ました』

『へぇ、このご時世に旅だなんて、珍しいこと考えるわね』


 現在の世界情勢は、決して安定しているとは言えない状態だと、心音も城内に流れている噂話を聞いて知っていた。噂話以前に、マキアの兵器の件からも、どこかで戦争が起きていることは容易に想像出来た。


『色々と事情も聞きたいけど、ここで立ち話しててもね。依頼板の近くの席にシェルツたちもいるから、顔出して行きなさいよ』

『みなさんもいるんですか! ぜひ!』


 アーニエの言葉に、心音は一つ声のトーンを上げて答えた。

 まともに顔を合わせるのは、実に二ヶ月ぶりである。ヴェレスやエラーニュにも、きちんとお礼は言えてなかった。少し胸の鼓動が早くなるのを感じながら、心音はアーニエの後に付いていった。

 



『おかえりアーニエ、受付の友達には会えたかい……って、コト! コトじゃないか!』

『あーもぅ、いきなり大声出さないでよシェルツ。叫ばなくてもこの子は逃げないから』


 心音がソワソワしながらアーニエに付いて行った先には、シェルツとヴェレス、エラーニュが、六人掛けのテーブルに座っていた。

 心音の姿を確認するなり立ち上がって声を上げたシェルツを、アーニエが気だるそうに(たしな)めた。


『お、コトじゃねぇか。しばらくぶりだな、元気にしてたか?』

『コトさん、大丈夫だとは思いますが、足の調子はいかがですか?』


 ヴェレスとエラーニュもそれぞれ心音に声をかける。一時の出会いかと思っていたが、皆、心音のことをしっかりと覚えてくれていたようで、心音は嬉しくなる。


『みなさん、お久しぶりです。ぼくは、前よりもずっとずっと元気ですよ! みなさんに助けて頂いたこと、ずっとお礼が言いたかったです。本当に、ありがとうございましたっ!』


 心音は深々とお辞儀をする。元気な心音の様子に、シェルツたち三人も嬉しそうだ。

 アーニエだけがついていけてないようで、焦ったような様子で言う。


『ちょっとあんた達、もっとこう、突っ込むべき所はないの!? 髪の色とか、どうして対外念話が使えてるのかとか!』


 三人は顔を見合わせて、くすくすと笑う。


『そりゃあよう、アーニエ。髪の色に関しては、今王都中の話題だぜ? 創世祭を見ていれば誰だって知っていることさ』

『それに、シェルツさんがよくコトさんの近況を、嬉しそうに話していたじゃないですか。その度にアーニエさんは、興味無い、って言って聞いていませんでしたが』

『ちょっとエラーニュ、その話はそこまでで……』


 ヴェレスとエラーニュがアーニエに対して回答する。何かシェルツとしては心音に聞かせたくないエピソードがあったようだが、それは流しておくのが吉だろう。


『確かにそうだけど……なんか仲間はずれみたいで嫌だわ。ちょっとちんまいの、あたしにも分かるように説明しなさい!』


 アーニエの要求を受け、これもいい機会だろうと、テーブルに腰掛け、心音はこれまでの事をパーティの皆に説明し始めた。


♪ ♪ ♪


『へぇ、じゃああんた、そこそこの役職に着いたのね。定職ができて良かったじゃない』


 説明が一通り終わり、アーニエが感想を述べた。


『旅に出る、って言ったか。今の時代、旅人に優しくはねぇぞ?』


 ヴェレスが心配そうな表情をする。


『護衛を受けてくれる冒険者も、かなり少ないと思います。遠征する冒険者自体、最近減少傾向ですし、戦えないものを守りながら移動するというのは、簡単なことではありません』


 エラーニュが話した冒険者の現状も、心音のやろうとしていることの難しさを表出させる。


『……俺たちが……俺たちが引き受けてみるのは、どうかな?』

『は? あんた何言ってんの?』


 シェルツの口をついた言葉に、アーニエが不機嫌そうに返す。

 シェルツは理由を述べる。


『遅かれ早かれ、俺は世界を見て回ろうと思っていたんだ。冒険者の主な仕事は、野生の魔物を狩って民を守ることだ。戦争で使われる軍用魔物や、魔人族の兵隊を相手にするのは軍の仕事だけど、俺は……戦争をしなければならない今の時代に、違和感を感じているんだ』

『違和感って何よ?』


 シェルツが語った理由に、アーニエは更に疑問をぶつける。

 すると、意外なことにエラーニュがそれに反応した。


『わたしも、違和感は感じています。千年以上続く戦争ですが、何故そんなに継続しているのか、なんの為の戦争なのか、和解することはできないのか、疑問点は尽きません』


 その疑念に、ヴェレスが答える。


『そりゃあ、魔人族が侵略好きな野蛮な種族だから、じゃねぇのか? 小せぇ頃からそう教えられてきたじゃねぇか』


 それに対して、今度はシェルツの意見が返される。


『それ自体にも、少し違和感を感じていて。今まで生きてきて、ヒト族以外の種族に、ちゃんと会ったことが無いんだ。自分の目で見ていないことを、そう教えられたから、というだけで信じてしまうのは何か違う気がして』


 エラーニュが賛同しつつ、付け加える。


『違和感に関しては、私も概ねその通りです。魔人族の非人道的行為の記録はたくさん残っているので、野蛮な種族というのが完全に間違い、ってことはないと思いますが』


 場に様々な想いが飛び交い、混沌としてきた。少しの静寂が訪れる。

 口を噤んで話を聞いていた心音が、毅然とした目で静寂を破る。


『戦えないものを守るのが、大変なんですよね。それじゃあ、ぼく、戦えるようになります! 戦うことを、学びます!』


 心音の宣言に、パーティ一同は少し驚いた様子を見せる。そしてアーニエが少し感心したような目を心音に向けて、告げた。


『まぁ、あたしも特にやりたい依頼とかあるわけじゃないし、査定に良く響くなら付き合ってやらないでも無いわよ。遠征するなら付随して色んな依頼も消化できるし、悪くは無いわ』


 その言葉を受け、ヴェレスも続ける。


『オレは、よりつえぇ魔物を狩れるなら、それでいいぜ。ここらの魔物には飽きしてたところだ』


 シェルツがそれに頷いて言う。


『遠征は決して、ラクではない。けど、見返りも大きいし、俺たちそれぞれの目的にも、合致していると思う』


 パーティの意見がまとまったようだ。


『それじゃあ、コトが戦えるようになるために、俺たちも協力してあげなきゃね』


 事は前に進みそうだ。しかし、意を決して言ってはみたものの、今まで何度か見た魔物との戦闘を自分にもこなせるものかと、心音は不安で押しつぶされそうであった。それでも、この世界で生きるために必要なことだと、自分を律して決意を新たにした。


♪ ♪ ♪


 あれから、パーティ四人はなにやら相談事をしていたようである。

 それが一段落したのか、心音の元に四人が戻ってきた。

 開口一番、シェルツが言う。


『コト、君にも冒険者登録をしてもらおうと思う』

『冒険者、ですか?』


 戦う力を身につけるだけなら、修練場で教えて貰えればいいと思っていた。王国聖歌隊員という定職もあるし、冒険者ギルドに加入して新たな縛りをいれなくてもいいのでは無いかとも考えていた。


『うん。戦闘能力を身につけるだけなら、冒険者になる必然性はない。けど、やっぱりギルドの基礎講習の内容は為になるし、実は金銭面でも王国からの給金だけに頼るのは危険なんだ』


 シェルツの言に、エラーニュが補足を入れる。


『遠征には、多くのお金がかかります。宿代に食事代、馬車を借りるお金も必要です。王国公務員の給料は、普通に生活するだけなら十二分な額ですが、さすがに遠征費用までは回りません』


 ヴェレスが、思い出したように横槍を入れる。


『あ〜、なんだっけ、遠征の費用って、なんか上乗せされるよな? え〜と、ほら、依頼を達成した時とかに』


 要領を得ないその発言に、アーニエが呆れながら助け舟を出す。


『あんたねぇ、分からないならじっと聞いてなさいよ。遠征にかかった費用を加味して、依頼達成時に手当が上乗せされるのよ。でもこれ、達成しなければ手当が出ないから、失敗を恐れて遠征が敬遠される理由でもあるわね』


 この説明を聞いて、心音もピンと来たようだ。


『つまり、ぼくが冒険者になれば、ぼくの分もその手当に上乗せされるわけですね』

『そ、つまりそういうこと』


 なるほど、メリットは多くあるようである。

 しかし、冒険者というのはそんなに簡単になれるものなのであろうか?

 心音が新たな疑問を浮かべていると、ちょうどそれを計ったかのようにシェルツが口を開く。


『それで冒険者になるために、なんだけど。通常であれば三ヶ月の基礎講習と基礎訓練を経て、新米冒険者になれるんだ。でもそれじゃあ先が長いし、基礎中の基礎しか教われない』


 そこで、とシェルツは続ける。


『もう一つの手段、四段位以上の冒険者の推薦があれば、三日間の基礎講習と実技試験で冒険者になれる、という特例制度を利用しようと思う。俺たちで、コトをより効率よく鍛え上げるんだ』


 階級のようなものが、冒険者にも存在するらしい。シェルツたちは、その四段位以上、とやらなのだろうか。

 アーニエが付け加える。


『ほら、あんた少し変わってるんだから、普通の魔法指導なんか受けても大して伸びなそうだし。事情が分かってるあたしらなら効率も良さそうでしょ』


 ティーネとの特訓を思い出す。普通に魔法訓練を受けていたら、試験にも合格できなさそうだ。


『よし、それじゃあ、動きやすい服を買って、訓練を始めよう』


 心音は聖歌隊宣教師としての白いローブを(まと)っていた。宣教活動をする時はその恰好でなければならないだろうが、確かに戦闘時は少々、いやかなり邪魔になりそうだ。

 エラーニュが張り切った表情で前に出る。


『コトさん、わたしが服を選んであげます。さぁ行きましょう』


 いつも大人しそうなエラーニュが、珍しくぐいぐい来る。やや、たじたじとしながら、心音はエラーニュに手を引かれて商店街へ向かった。



感想、誤字報告、ありがとうございます!

何回も読み返していても、結構漏れがありますね。すごく、助かります。

ちょっとした感想でも、大きな励みになります!

これからも当作品をよろしくお願いします。

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