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精霊《ルフ》と奏でるコンチェルティーノ  作者: 音虫
第五幕 精霊と奏でるシンフォニエッタ 〜旅の果ての真実《こたえ》〜
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4-7 王の問答

 破壊された壁の向こう、王城前広場を一望できる演台(テラス)にて、ヨシュカ王と魔王は必殺の魔力を湛え睨み合う。


 どちらかが動けば、その瞬間から両国を破壊尽くす戦いへと発展してしまう。

 僅かな隙が自身の肉体の消滅を意味する対面、互いに魔法のトリガーに指をかけた状態でこの世界についての問答を繰り広げる。


『魔人族は千年前の大戦より、穢された環境の復興に勤しんできた。その成果あって、今や魔人族の領地は小さな子らが死の危険を心配すること無く遊び回れる状態まで持ち直すことができた。我らが積み上げた技術をもってすれば、虚無の領域の魔素を祓い、この世界の可住域を再び広げることも夢物語では無い。

 その上で問おう。貴様の支配欲による国を手玉に取った遊戯はもう止め、世界を有るべき姿に戻すために我へ創人族連合の指揮権を委ねるつもりはないか?』


『ふん、何を言い出すかと思えば、実にくだらない。既にこの世界は余の手中にある。余が千年かけて育ててきた小さな庭だ。なぜ余の遊戯盤を目障りな余所者に譲らねばならんのだ。国を運営するのも、人を育てるのも、それなりに力がかかっているのだぞ。世代を経るなどして千年生きたつもり(・・・)になっている其方そなたには、余の孤独も遊戯盤にかけた愉悦も分かるまい』


 魔王の眉が僅かに陰る。


『孤独、孤独か。そうか貴様の千年は孤独だったと言う訳か。哀れなものだ、ただの一人の理解者もおらぬ千年など永遠(とわ)の監獄に等しかったであろう。いずれの世代においても良き臣下、民に恵まれた我とは正に対局だな』


 ヨシュカ王の瞳孔が大きく開く。


『この余に哀れみを向けるだと……? 思い上がるでないぞ、小国の道化王よ! 余がまとめ上げる国々はこの世界の可住域の九割に当たる領域だ。たかだか辺境の隅で細々と生きながらえてきた貴様ごときに余の偉大さが分かってたまるか!』


『ほう、言うではないか。その割に、この世界を存続させることは考えず、使い捨てにして別の世界を望むときたか。実に怠惰で傲慢だ。お前のための世界など、最初からどこにもないのだ。

 王は民を束ねる者であるが、国は王のものではない、民のものだ。それすらはき違えているとはな。生まれながらの王では無い貴様には荷が勝ちすぎる立場であったということだ』


『生まれがなんだと言うのだ。余は千年前の戦場で生き残り、五精英雄を制御しきれなかった愚かな王を引きずり下ろして英雄を束ねる王となったのだ。初めから余に指揮権があったのなら、可住域を狭めること無く全種族の膝を折らせ、この世界唯一の王……いや神王となっていただろうよ』


『なるほど、その無意味なもしも(・・・)が事実だったとして、その果てに貴様は何を望む? 全てを支配し、神などと名乗り民の信仰を集めたとして、何を為したいのだ。貴様の救いは、なんだ?』


 ヨシュカ王の焦点がぶれる。


『望みだと? そんなものは要らぬ。余が君臨するのは余が完璧な王を体現できるからだ。その証拠がこの千年だ。どうだ、実際に余の息がかかった王たちは創人族領の各地に散り、余の教えの通りに為政者としての役目を全うしている。連合の主催者たる余の一声があれば、この世界の九割が思うが儘に動くのだ。

 未だかつてこれほどまでの絶対王として君臨したものが在ったか? ないであろう。

 このことが、天上天下に余以上の王はおらず、正に余が神王として名乗るにふさわしい存在であることの証明であるのだ! 余に救いだと? なにを馬鹿な。余が救済を与える側なのだ!』


 魔王が鼻で笑う。


『神と言う割には酷く動揺しているようだ。先程よりも呼吸の頻度が増し、声音も上ずっているぞ。貴様が内に抱える精神性は、軍をまとめる師団長であった頃から変わらぬようだな』


 ヨシュカ王の気配が逆立つ。


『情報としか知らぬ千年前のことを、さも見てきたようにぬけぬけと。よいか、貴様ら魔人族は創人族の技術の結晶である五精英雄の前で無様な敗北を喫したのだ。

 敗北者が悪知恵を絞って余を揺さぶろうとしているのだろうが、そうはいかぬぞ。余は大戦後の革命の日よりこのかた、至高の王として君臨し続けたのだ。それまでの数十年など、王として国を治め続けた千年に比べれば無いに等しい些末なものよ。言及すべき点を違えたな、魔王』


 対し、王は余裕を崩さない。


『やはり自らの起源(ルーツ)劣等感(コンプレックス)があったか。王に仕える兵隊であった頃によほどな辛酸を舐めさせられたと見える。生まれ落ちた時から王となるべく教育された我には持ち得ない感情だ』


 ヨシュカ王から一瞬怒りの気配が立ち上り、それは闘値に達した後、嘘のように静まる。


『おおよそ千年ぶりか、怒りという感情を覚えたのは。しかし無駄だ、永く生きるうちに感情の制御など意思一つでどうにでもなるようになった。

 さて、いくら世迷い言を(のたま)おうと、其方(そなた)は余にとってあくまで材料の一つに過ぎん。既に異世界へ渡る術は仕上がっており、残りは其方がもつ〝収束魔法〟の概念を奪うのみだ。逃れられるなどと思うな、其方の死は既に決定事項だ』


 魔王が口角を上げる。


『うむ、それが聞きたかった。つまり貴様の意思から魔法の理論を盗み取れば、後は我が調整するだけでコトカナデを元の世界に帰してやれるわけだ。これで一つ臣下の意に沿うことができる。心置きなく叩きのめしてやろう』


 謁見の間では激しい戦いの()が飛び交っている。その双方が決着に向かっていることを察するのは、魔王にとって造作も無いことだろう。いよいよ高まった緊張の糸が、今弾かれようとしている。


『さらばヨシュカ王。我が千年の悲願の元、世界のために消えよ』

『来い魔王。絶対的な神王の力の前で膝を付く栄誉をやろう』


 この世界の頂点に君臨するのがどちらか。王と王の極限の戦いの合図が、閃光と共に弾けた。


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