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精霊《ルフ》と奏でるコンチェルティーノ  作者: 音虫
第五幕 精霊と奏でるシンフォニエッタ 〜旅の果ての真実《こたえ》〜
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4-6 伝説の冒険者2


 猛攻の気配を察し、心音は再開した演奏に、より強い想いを込める。


『(みなさん、最高出力の〝他者強化〟を付与します!) 』


 巻き上がる桜色の魔力光が冒険者を包み、各々の魔力光と混じり合う。今までにないほど極大に膨れあがった力を握りしめ、ヴェレスは歓喜に満ちた笑みを浮かべる。


「最高だぜコト! 今のオレは最強だぁッ!」


 ヴェレスが虚空目がけてハルバードの横薙ぎを放つ。すると金属音と共に何かが弾き出され、速度を落としたクルがその先で姿を示した。


「やるねぇ、大きいの。速さじゃ儂に適わねぇからって、直感で動きを先読みしてきやがった!」

「それじゃあ、俺と(はや)さ比べでもしましょうか?」


 瞬間移動のごとく現れたシェルツの剣をクルは首を捻り紙一重で避け、反撃の蹴りにシェルツが距離を取った後、超速の剣戟が繰り広げられる。

 距離を取りつつそれを観察するアーニエが、双眸に水縹色の魔力を光らせ小さく呟く。


「なんて速さ。こっちは〝視力補強〟と、迅雷魔法を応用した〝思考加速〟を並列してるってのに、目で追うのがギリギリよ」


 誰に聞かせることも無いその最中にも、突きだした両腕に魔法を構築していく。


「でも、追えてる(・・・・)わ。シェルツ、あんた一人に任せるあたしたちじゃないわよ」


 細く、長く成形した〝水槍〟を構え、よくよく動きを観察しながら狙いを定める。


「焦っちゃだめね、よく機を伺って……」

「機ならわたしが作ります、アーニエさん」


 エラーニュが地にかざしていた手に魔力を込める。その魔力光は既にクルの足下まで及んでいた。


「行動予測は完了しています。設置した罠まであと三、二、一……今です!」

「エル、やっぱりあたしの戦いはあなたと一緒だとより仕上がるわ!」


 丁度のタイミングでクルが動きを止める。足下から立ち上る紫電が筋機能を一時的に硬直させたようだ。

 同時、極限まで貫通力を高めた〝水槍〟がクルの四肢を貫いた。クルを覆っていた魔力の膜が破れ落ち、苦悶の表情を浮かべる。


「ちぃ、〝全身硬化〟が破られたか。ここからはおいおいと攻撃をもらうわけにゃいかんな」


 目の前に迫るシェルツの追撃を免れるため、たまらず大きくバックステップ。しかし、その先には既に武器を引き絞った巨漢が待ち構えていた。


「その一手は見え見えだぜ、爺さん」


 大きなハルバードの一薙ぎを、クルは苦し紛れに身体を捻り剣で受ける。

 咄嗟とはいえ、それは美しくすらある完璧な防御であったはずだ。その上で、ヴェレスの一撃の重さは常軌を逸していた。


 カランと、遥か遠方で鳴り響く。

 クルが握っていた剣はその手から弾き飛ばされ、クルは徒手で立ち尽くしていた。


「この儂の手から剣を奪う者など、今日この日まで現れることなぞ無いと思っておったわ。滾る、滾るのう」

「みんな、まだ気を緩めるな!」


 戦意と狂気が入り交じった笑み。全く諦める様子も無いクルを前に、緊張の糸を張り直す。


「お前さんがた、今の儂は武器も持たない老いぼれだと思ってはいないか? カカカッ、舐めてくれるなよ、儂ぁ常に今が全盛期だ!!」

「――――! みなさん後ろに――〝防壁〟!」


 巻き上がる暴風に危機を直感し、エラーニュが皆を守護下に入れる。それが正しかったと証明するように、暴風に混じって放たれていた数多の風の刃が防壁に当たって弾かれた。


「あんにゃろう、魔法の強度も一級の魔法士並かよ!」

「だから何だってのよ、こっちはずっと魔法一筋で鍛錬を重ねてきてんのよ!」


 アーニエが展開するのは〝千刃海流波〟。

 クルの風魔法が勢いを落とし始めたのを見計らって、エラーニュが解除した防壁に被せるように一斉に射出した。


「カカッ、詠唱時間を期待してるならむだじゃ。儂に詠唱はいらぬわ!」


 アーニエの魔法に対抗するように、同規模の風の刃を発現させる。向かい合った互いの魔法は相殺し合い、砕かれた水の刃が雨のように降り注いだ。アーニエは眉間に小さくしわを寄せる。


「対個人魔法ならこれが最大出力よ。あたしは生粋の魔法士だってのに、相殺で手一杯だなんて……」

「でも、俺たちは一人じゃないよ」


 シェルツが一歩前へ。アーニエの肩に左手を添えると、右手をかざし静かに詠唱する。


「再現するは稀代の水魔法使いが紡ぐ想い。千の刃は大海を模し、止めどない波となって敵を呑む。――強度は落ちるけど、アーニエ、魔法を借りるよ。〝千刃海流波〟」


 シェルツの背後に展開される多数の水の刃。その数はアーニエのものに比べれば圧倒的に少ないが、それぞれが持つ強度は遜色が無いように思えた。

 そしてそれらはアーニエが放つ刃に混じり、クルに向かって射出される。


 長く続く波の如きぶつかり合いの中、小さな助力にも思えるそれは、一つ、二つとクルの身体に傷を付けていく。

 模倣先であるアーニエの魔法の規模の大きさもそうであるが、シェルツ自身が持つ魔法力も高い領域にあることがここに示されている。


 しかし、あと一手詰められないことへのもどかしさを、術者であるアーニエが口の端から漏らす。


「もう少しあたしに魔法強度があれば……もう一歩遠いわ」

「なら、オレが代わりに踏み出してやるよ!」


 ヴェレスが大上段にハルバードを構え、口角を上げる。ヴェレスの背中にはエラーニュが手を当て、小さく詠唱を紡いでいる。


「魔王城で修行した〝次元魔法〟をよ、まぁまだオレ一人で使うには精度が落ちるんだが……そこはエラーニュに頼んだぜ!」

「……座標指定、固定、完了。ヴェレスさん、いつでもどうぞ」

「よしきた! アーニエ、シェルツ、あの爺さんを釘付けにしてもらって助かったぜ!」


 ヴェレスが身体強化の強度を上げる。心音の〝他者強化〟と自身の〝纏雷〟も相まって、その存在だけで空気が震えるほどの力を全身から放つ。


「〝次元斬り〟発現。これがオレの……オレたちの最強の力だあぁーー!!」


 ヴェレスがハルバードを振り下ろす。

 それは空を斬ったように見えた。であるのに、クルから放たれていた暴風は止み、その風の主は肩口に深く入った傷から血を滴らせ膝を折った。


「お前さん、そりゃあなんだ? いや、そうか、魔人族の次元魔法に創人族の戦闘方式(スタイル)を併せやがったな。ったく、油断したぜ。お前さんがた、今の瞬間だけは確実に個々が九段位級の実力を発揮してたよ。唯一無二の自称十段位が保証してやる」


 どさり、と小さく響く。

 あれだけ強大だった力の暴威からは想像できない、思いの外軽い音であった。


 心音の演奏が止み、残された音はテラスの外で未だぶつかり合うヨシュカ王と魔王の戦いの気配。

 自身の身体と身につける装備の状態を確認しながら、冒険者たちは現状を確認し合う。


「諸悪の根源がまだ健在だってのに、思いの外魔力を消費しすぎたわ」

「それでも、俺たちに与えられた役割は果たせたはずさ」

「ええ、あとは魔王さまを信じましょう」

「あ、エラーニュさん、精鋭部隊の方々も治療が必要みたいです!」

「お、アイツら五精英雄ってのに勝ちやがったんだな。負けるとは思ってなかったが、よくやるぜ」


 世界を守るため戦う戦士たちは、皆五体満足のまま再び集う。

 空前絶後の激突が繰り返される壊された壁の向こうにある世界の命運を見守りながら、自分たちにできる助力の機会を待ち、唇を結んだ。

いつもお読みいただきありがとうございます!

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