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精霊《ルフ》と奏でるコンチェルティーノ  作者: 音虫
第一幕 精霊と奏でるコンチェルティーノ ~落とされた世界、ここで生きる道〜
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※魔法観解説 精霊と奏でる間奏曲《インテルメッツォ》〜この世界の便利道具体験

続けて番外編です。

リクエストがあったエピソードで、会話形式でこの世界の魔法周りの用語を解説しています。

 創世祭まであと数日。高鳴る心を落ち着かせるため、心音は城内の探索へと繰り出していた。城内は非常に広大である。迷子にならないよう気をつけながらも、新しい道を見つけては、好奇心に惹かれ進んで行く。


「あれ? この扉、透明だ」


 立ち並ぶ扉の中、その一つが放つ違和感に気づいた。心音は扉に近づき、中を覗く。


「ん〜、誰もいない。何があるんだろう? 仕切りがいっぱい」


 別に悪いことをしている訳では無いが、何となく心音は周りを確認し、誰もいないと分かると、その透明な扉に手をかけ、入室した。

 室内に並ぶたくさんの仕切り。心音はそのうちの一つの内部を覗いた。


「あれ、これって、電話機?」


 見覚えのある形状である。しかし、この世界では電気の存在は認識されているが、生活に用いられることはほとんど無かったはずだ。


「あ、思い出した。もしかして、これがピッツさんの言ってた〝伝話機〟かな?」


 ここ王都でも遠隔で会話ができる手段というのが存在していることを、心音は以前説明を受けていた。初めて精霊術工房に行った際、シェルツがピッツに連絡をとった手段も、この伝話機である。


「えーっと、ピッツさんが教えてくれた番号はっと……」


 好奇心旺盛な心音は、とにかく目の前のこの機械を試したくて仕方がなかった。別れ際に『いつでも連絡をくれたまえ』とピッツが教えてくれた、唯一知っている精霊術工房の番号を入力していく。


 受話器を耳に当てる。キーンという耳鳴りのような音の後、その音が途切れ、一瞬の後、人の声が聞こえた。


「えー、はいはい。こちら精霊術工房のピッツ」

『ピッツさん! ぼくです、心音です!』

『おぉ! コト君! 実に久しいではないか。息災か?』


 伝話に応対したのはピッツであった。心音の名前が聞こえた途端、彼のテンションが一気に上がるのを感じ、心音も嬉しくなる。


『実は今、お城の中からかけています。王国聖歌隊に入隊したんです!』

『なんと、大出世ではないか! 生き方を見つけることが出来たのだな』

『えへへ、毎日音楽が出来て、すごく充実しています!』


 親戚のおじさんと話しているような気分である。ピッツには本当にお世話になったし、彼も彼ですごく気を掛けてくれるから、心音がそういった感覚になるのも無理はなかった。


『ところでコト君。その後、精霊術の具合はどうかね? 問題なく生活出来ているかな?』


 心音は、少し「う〜ん」と唸ると、返答する。


『問題ないといえば問題は無いんですが、イマイチ魔法との関係とか、魔力とか魔素とか、ごちゃごちゃになって分からなくなっちゃって』

『ふむ。コト君の場合かなり特殊であるからな。限りなく魔法に近い精霊術を扱えるわけだから、混同してしまうのも仕方がない』


 ここで一つ息をつき、ピッツは語り出す。


『では、久しぶりに講義といこうか。私が直々に解説してしんぜよう』

『わーい!』


 パチパチと、心音しかいない室内に拍手の音が響く。


『では、まず〝魔力〟についてだが、これは生物の体内の〝彩臓〟で生成される。魔力は人それぞれ指紋のように特徴があり、このエネルギーを使って様々な現象を発現させるのが魔法だ。ここまではいいね?』

『大丈夫です、先生!』


 ノリノリな心音である。

 対するピッツも満更ではない。


『うむ。そして〝魔力〟は常に体内で作られ続けるが、身体の内に保有しきれず溢れた魔力は、外界へと漏れ出す。

 そして時間が経ち風化することで、その個体特有の魔力の特徴が薄れていき、最終的に自然に溶け込んだものを〝魔素〟という。この状態になると生物にはもう扱うことが出来ないエネルギー体となっている』


 心音は、父親から教えて貰った、生分解性プラスチックを思い出す。加工した状態では様々な用途に使えるが、微生物により分解されると、それは水やガスとなり、本来の用途では使えなくなる。環境のために敢えてそうしてるのであるから、語弊があるが。


『それでだ、我々精霊術士は、精霊を誘導して色々な現象を発現させている。精霊は魔素を活動源としているから、我々は間接的に魔素を使ってると言えるかもしれないね』


 あくまで間接的に、である。直接魔素を扱えないのは、精霊術士も同じだ。


『魔法を発現する時は、明確なイメージ力を以て魔力を操作し、目的の現象を起こす。魔法を発動する時の詠唱も、特別決まった言葉を言わなければいけない訳じゃなくて、イメージを固めるために規模や対象を定める意味で唱えるね。

 対して精霊術は正しい手順さえ踏めば、そこにイメージ力が介入する余地はない。特定の儀式で精霊を誘導しているわけだからね』


 ここで、心音は納得しつつ、どこか腑に落ちないものを抱えた。

 それをピッツがすかさずフォローする。


『しかし、ここにイレギュラーな存在が現れた。コト君、キミだ。キミは、体内に精霊を宿すという、前例のないかな〜り特殊な存在であるから、今まで話した前提には当てはまらない点が出てくる』


 心音が聞きたいのはそこである。相槌を打ちながら、先を促す。


『コト君は、体内の精霊に対しては、〝想い〟を伝えることで精霊術を行使できるようだ。傍から見たら、まるで魔法を使っているかのように見えるそれは、擬似魔法とも呼べるだろう。つまりそこには、精霊術でありながら〝イメージ力〟が介入してくる』


 ここで心音は、自身が躓いていることを打ち明ける。


『ぼく、擬似魔法の練習もしてるんですけど、さっぱり上手くいかないんです。やっぱりイメージ力が不足しているんでしょうか?』

『おや、そうだねぇ。魔力が自分の一部を扱うのに対し、コト君は精霊に想いを伝えるという段階を一つ挟む。より明確で、強力な意思、イメージ力が必要なのかもね』


 工房からの帰り道に、光の精霊術を使った時は強力な効果が出た。正規の精霊術の手順さえ踏めば、イメージ力でその補正が強く働くらしい。その先の段階に進みたいのだが、まだまだ修練不足のようだ。


『そう言えば、もう一つ聞きたいことがあります。王国聖歌隊に入って、音響魔法の〝概念〟と言うのを、古代の魔導具を使って理解しました。魔法の概念なのに、ぼくはそこそこ上手く扱えるみたいです。どうしてでしょう?』

『なんと! それは貴重な経験をしたね。魔法の概念とは言うが、実際はイメージする際に必要な材料、その魔法に係る原理、仕組み、法則を理解させる、ということなんだ。

 擬似魔法的に精霊術を扱う時は、イメージ力が介入するため、その概念を精霊に伝えることでコト君にも音響魔法が使えるわけだ』


 ようやく、心音も腑に落ちたようだ。魔法も精霊もない世界から来たのである。ここら辺の仕組みは中々ストレートには入ってこなかった。


『しかし……古代の魔法の概念だなんて、中々おめに書かれるものじゃないよ。まさに国宝中の国宝さ。王国聖歌隊に入らなければ、一生理解できない世界だったろうさ』

 

 その特別さを聞き、そんな凄いものを修得していたのかと、口を半開きにして固まってしまった。

 せっかくそんな素晴らしい概念を手に入れたのだ、より音楽活動に生かしていきたいと、心音は思った。


『いやぁ、随分一方的に話してしまったが、理解出来たかな?』

『はいっ! すっごくよく分かりました! さすがピッツさんです、ありがとうございますっ!』

『ははは、喜んでくれてよかった。いやぁ、長話してしまったね、そろそろ伝話の魔力が切れるよ。また、遠慮せず伝話をかけてくれ』

『きっと、またかけます! それで』


 ピッ ピ――――――


 伝話が切れてしまった。心音側の機械で魔力が底をついてしまったようだ。


 それでも、ニコニコとした笑顔を浮かべる心音。今日ピッツと話せたことで、これからはより明確に精霊術や擬似魔法を扱えそうだ。


 そして心音は扉へ(きびす)を返し、部屋を出ようと……


「ちょっと、誰ですかー? 無許可で伝話を使ってるのはー?」


 入口の透明な扉が開かれ、女性の声が飛び込んできた。

 咄嗟に隠れようとした心音であるが、その姿はハッキリと捉えられていた。


『あぁぁ、あの、ごめんなさい、つい出来心で!』


 気分は犯罪者である。


『おや、対外念話……って、あなたは聖歌隊新隊員の、えーっと、コトさんでしたっけ』

『あ、はい、そうです。あなたは、たしか身分証の手続きをしてくれた人!』


 くせっ毛が特徴のその女性は、初めて王城に来た日に会った者であった。

 彼女がため息混じりに言う。


『来たばかりで知らなかったと思いますが、伝話は使用申請がいるんですよ。でないと、機械内の魔力が切れちゃっても、気づけませんからね。次から気をつけてくださいよー?』

『すみません、気をつけます』


 なんとかお咎めなしで済んだようである。

 心音は胸を撫で下ろし、先程の伝話の内容を思い出す。しっかりと考え方をものにして、次にピッツと伝話する時には、もっと踏み込んだ話もしてみたいと思い、部屋を後にするのであった。

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