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精霊《ルフ》と奏でるコンチェルティーノ  作者: 音虫
第五幕 精霊と奏でるシンフォニエッタ 〜旅の果ての真実《こたえ》〜
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4-2 決戦の門へ

 人目を避け大聖堂目掛け疾走。

 未曾有の事態による城内警備の薄さは、不気味なほどの静けさとして如実に表れていた。

 それでもまばらな人影を警戒し、慎重かつ速やかに目的地までの距離を埋めていく。

 そうして辿り着いた誰もいない大聖堂に忍び込み、羽のように屋上への階段を駆け上った。



 曇天の空、冬の小雨。

 物理障壁により雨すら弾かれている中、露台だけが雨露に濡れている。


 魔王から預けられた遠距離転移の魔方陣が込められた羊皮紙を取り出し、露台に陣を転写することで高次元とこの(・・)場所を紐付け定着させる。


 予め魔王が込めた魔力により、陣は淡い金色の光を湛えている。

 (じき)に魔王一行と冒険者の仲間たちが転移してくるはずだ。


 心音は〝亜空庫〟を開き戦闘用の装備を身につける。聖歌隊のローブは大切に収納し、気を引き締めその時を待つこと幾許か。間もなくして、魔方陣の起動と共に転移の門が開き、次々と人影が飛び込んできた。

 その姿を確認し、心音は声を抑えて喜びを示す。


「みなさん! よかったです、無事に転移できましたねっ」

「俺の部屋に設置した魔方陣は問題なく起動、転移先指定もバッチリだね。さすがだよコト」

「待ってる間にちょっと魔方陣を解析してみたけど、コトあんたよくあんな複雑な陣を構築できたわね。概念理解の補助(バックアップ)があるとは言え、正直かなり驚いてるわ」

「えと、それは魔王様の教え方がすごく良かったというか、用意していただいた公式に変数を入れただけみたいな感じというか……。でも頑張りました! えっへん!」


 馴染みの五人が揃い、ちょっとした万能感すら覚える。

 これからやろうとしていることの困難度は今までの比では無いが、この五人なら為せないことはないと、心音には確信めいた自信があった。


 喜びの再会も束の間、心音が設置した魔方陣が再び反応する。そうして現れた六人は、煌びやかな金色のオーラを中心に、辺りに警戒を向ける。


『〝走査〟〝魔力視〟〝解析〟如何なる障害もなく』

『重量だ、ノーナスーラ』


 その黄金たる魔王の周囲に控える魔人族の精鋭部隊五人。彼らから放たれる威圧感に味方ながら萎縮しかけていると、心音の姿を認めた魔王が口角を釣り上げる。


『一片の曇りもない〝次元転移〟であった。コトよ、大義であった! お前の働きにより本作戦の成功は約束されたとも言えよう』

『ありがたきお言葉です……っ!』


 目の前にする魔王一行こそ、この世界最強の戦力。彼らの実力の一端を知っている心音たちであるからこそ、魔王のその言葉が誇張表現ではないことが理解できた。

 作戦の要はここに揃った。ここからはもう一仕事、心音が担う役割を果たすべく宣言する。


『では、ハープス国王の居場所まで案内します!』


♪ ♪ ♪


 何かが、通り過ぎた。常人が知覚し得ないと理解できるその異常を、なぜ自分が捉えられたのか。


 静けさの中たたずむ少年は、たった今視覚を刺激した直感に惚ける。

 胸騒ぎを感じ一人城内散策に繰り出していた聖歌隊ルターヴィレイス奏者のテンディは、ぽつりとその感覚を言語として落とした。


「今の、コトだよな? たぶん……。一瞬だったけど、時間がゆっくりになったみたいに……。あれは武装なのか?」


 明るさと優しさの象徴のようだと思っていた少女。その彼女が戦闘衣装を身に纏う様を、彼は初めて目にした。

 本来認識し得ないはずの一瞬がもたらした直感は、胸騒ぎをより強める。


「大聖堂、大聖堂にいかなくちゃ」


 感じた想いに突き動かされ、テンディは空虚な廊下から駆け去った。


♪ ♪ ♪


 人影がほとんど見当たらない王城の通路を、通常目に止まらないほどの速度で迷い無く駆けていく。


 何度もシュミレートした経路をしっかりとなぞり、心音は戦士たちの先頭を引いていく。

 途中何度かすれ違うヒトも居たが、〝何かが通り過ぎた気がする〟ほどの認識しか得られていないはずだ。


 そうしてあっという間にハープス国王が控える謁見の間の門に至ると、一度通路の角で静止する。


『到着しましたっ。でも、側に衛兵さんがお二人、かつ、側の部屋に八人が控える詰所があります』

『なるほど、騒ぎを起こして増援を呼ばれたら厄介だね』

『それによ、あの二人かなりデキる(・・・)ぜ。一方的にカタを付けるのはたぶんムリだ』

『長引けば詰所の衛兵以外も駆けつける危険性がある、か』


 冒険者たちが交わし合う意見を静観していた魔王が小さく嘆息。


『もうよい、このような些事に策を巡らすのも煩わしい』


 彼らを手で制し、一見無防備なまま衛兵の前に躍り出た。


「な、なんだおま……え…………」


 魔王がたった一度指を弾く。それだけで二人の衛兵はその場に倒れ込んでしまった。


『えと……魔王さま、死んでませんよね?』

『殺すか、たわけ。軽い脳震盪を与えただけだ』


 最小の手数で問題解決を果たしてしまった、魔王が持てる手札のバリエーションに対し驚く。この人物を敵にしなくて本当に良かったという安堵は胸の中だけに秘め、心音は先ゆく仲間たちの後を追った。


 門前に至れば、門に手をかざした魔王が顔を正面に向けたまま全員に通達する。


『今更準備は良いかなどとは聞かん。各個持てる能力を遺憾なく発揮し、ヒトの未来に尽くせ』


 ヒト族、否、創人族の営みを魔人族の魔の手から守るために始まった旅路。

 その中で始めに出会ったのは魔人族が生んだ軍用魔物の驚異、抗う創人族の力、そして魔人族その身が放つ魔力の暴威。


 時に刃を交わし、その足跡を追いながら、気づけば物語の中でしか知らない森人族や獣族の国々。

 徐々に重なりゆく〝この世界の本当のこと〟に揺り動かされ、果てに辿り着いたのは悪の権化であったはずの魔人族の営みと、真のこの世界の歴史と姿。


 シェルツたちはより高名な冒険者になるため、心音にとっては元の世界に帰るためだけの旅であったはずのそれは、今や世界の命運を賭けた戦いとして燃え上がろうとしている。


 覚悟はとうに決まっている。

 瞳に希望を宿し、心音は魔王の掌の先を見据える。


 万感の思いを込めた戦士たちの無言の領きと同時、扉は静かに開け放たれる――――。


いつもお読みいただきありがとうございます!

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