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精霊《ルフ》と奏でるコンチェルティーノ  作者: 音虫
第五幕 精霊と奏でるシンフォニエッタ 〜旅の果ての真実《こたえ》〜
158/185

第三楽章 故郷へ

 第三楽章は転がりゆく。

 流れる連符と弾かれるピッチカート。

 息継ぎの間など此処には在らず。

 技巧を重ね駆け抜ける。

 スケルッツオ。



♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪



 食料や飲み水、応急手当用の衛生品、そして精霊術で用いる触媒。

 旅の最中必要になる物資を一つ一つ確認し、確かに揃っていることに安堵の吐息。

 分類ごとに整理された棚を見て、新しい資材の携行手段となるそれに高揚感を覚える。


 確認を終え部屋に戻れば、冒険者の仲間たちは既に準備万端の装いであった。


「コト、準備はいいかい?」

「はい、シェルツさん! 旅の必要資材もばっちりですっ」

「よく食って寝て、体力も有り余ってるぜ!」

「ヴェレスはいつもそうでしょうに。エルはどう? 昨日も遅くまで準備してたみたいだけど」

「問題ありません、アーニエさん。薬の調合もしっかりと終え、むしろすっきりとしています」


 場所(ところ)は魔王城内に割り当てられた一室。この城に滞在すること十五日、あらゆる準備を整え、冒険者たちは遂に故郷ハープス王国へ向けての帰路につこうとしていた。

 室内に忘れ物がないか見回した後、シェルツがいよいよ出発の合図を口にする。


「さあ、最後に魔王様に出立の申告をしよう」




 もはや使い慣れた魔法回路を通した〝次元転移〟での移動を経て、玉座の間に通ずる扉の前へ。

 居住まいを正すこと数秒、自動的に扉が開き中へ招かれた。


『魔王様、これから出立する旨申告に参りました』


『うむ、今日であったか。お前たちの訓練に当たった精鋭隊から報告は受けている、十分な伸び幅であったとな。もはやお前たちそれぞれ単独であったとて、そこらの兵団では相手になるまい』


『まさか、作りたての七段位級軍用魔物と一対一で戦わされることになるとは思わなかったわ。けど、戦い方を考えれば案外なんとかなるものね』


『それに、限定的ながらわたしたち全員が〝次元魔法〟を戦術に組み込むことが可能になりました。既に会得していた〝重力魔法〟や〝迅雷魔法〟などとも組み合わせることで、数段上の戦闘能力を得たと自負しています』


『魔法が得意じゃねぇオレでも、工夫すればいろんな魔法を扱えるんだな。幅が広がると余計戦うのが楽しいぜ!』


 意気揚々とした面々を眺める魔王の表情も愉快そうに見える。魔王は足を組み替え、心音に向けて確認するように問いかける。


『コトよ、これまた随分と溜め込んだようだな。 次元魔法の扱いの方はどうだ?』


『この国は長い歴史の中で風化した純度の高い魔素がたくさんで、ぼくの中の精霊(ルフ)さんたちもおなかがいっぱいみたいですっ。あ、疑似魔法の方もばっちりです! 精鋭隊の方々のお力を借りなくても、ぼく一人で〝次元転移〟もできます!』


『上々だ。では首尾通り、お前たちは我が精鋭隊が各国に残した魔方陣を迫り、九日以内に〝次元転移〟を用いてハープス王国王都ヴェアンに到着せよ。その後更に五日の猶予を取る故、その間に我が組み上げた超遠距離転移のための魔方陣をハープス王城内に設置するのだ。まさに作戦の要だ、よく励めよ』


 魔王城滞在期間中に重ねた作戦会議、戦闘訓練、魔法指南、物資調達により心音たち冒険者たちの状態は対ハーブス国王に対する切り札といえるほどまで練り上げられた。

 ここからの作戦行動において、その成果が十分に試されることとなる。


 魔王が指を弾き、シェルツたちの側に〝次元転移〟の門を出現させる。これ以上の長い挨拶は不要、作戦に移れということだろう。

 その意図を汲み、シェルツは五人を代表して出立を宣言した。


『魔王直属特設隊、これより作戦行動に移ります!』



♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪



 〝次元転移〟の魔方陣は、アディア付近、トラヴの山岳、グリント近郊、そしてミルトの小島に設置してある。


 国境を越えての転移は各国の結界に引っかかり即国際問題となってしまうため、徒歩で国境を越える必要がある。

 それを加味し、獣族の国セイヴ、森人族の国エスフル共和国を徒歩で経由し、守智の森を抜けた先の集落で休憩と荷馬車の回収をした上で〝次元転移〟を行使する手はずだ。


 その〝次元転移〟であるが、発現には多量の魔力を消費する。

 心音はそれを自身に宿る精霊(ルフ)たちが蓄えた魔素を消費することで補っているが、これから決戦の地に向かうことを考えると決して無視できる消費量では無い。


 そのため、一度転移する度にインターバルを挟み、現地の魔素を取り入れ再度力を蓄えきったところで次の転移に移る予定だ。

 各地に漂う風化した魔素の量にも限度があるため、やはりこの作戦が最適解と言えるだろう。


 一連の作戦の流れを脳内で反芻しながら、心音は魔人族の国が首都デンキャストジークの空気を肺に取り込む。


 魔王城を出てしばらく、旅に出る前の最後の準備として、心音たち冒険者は目的地へと歩みを進めていた。

 ほどなくして辿り着いたのは、軍人向け武具の専門店だ。

 シェルツが迷うこと無く扉を開けば、魔人族にしては大柄な男が小さく笑みを浮かべて出迎えてくれた。


『おお、あんたらか。遂に旅立ちの時ってことかい。もちろん出来上がってるぜ、調子を見てみろ』


 店主であるその男が手招きするように手首を捻れば、商品が飾ってある壁の一角が回転し、裏から見覚えのある武具が現れた。


『要望通り、見たくれはほとんど変えてねぇ。だが性能は数段上がってるぜ。全ての武具に効果を引き上げる魔法回路を組んである』


 冒険者たちは表情に期待を浮かべ、それぞれが己の武具を手に取り確認する。


『こいつは……すげぇな、魔力を通すだけで〝武具強化〟が出来ちまうのか』


 ヴェレスの感嘆に、店主は嬉しそうに反応する。


『流石は一級の戦士だお客さん。その通り、全ての武具に強化を付与し、伴って武器の刃は極限まで鋭くしてある。普通だったら折れちまうくらいの薄さだが、常に強化して使うことを前提にすれば全く問題はない』


 説明を終えると同時、店主がシェルツに向けて鉄の塊を放り投げる。素早く反応したシェルツが手に持つ剣を一閃すると、まるで果物を切ったかのように鉄塊が真二つになった。


『これはすごい、余計な力が一切いらないね』

『うむ、やはり使用者が優れていれば鍛えた武器もよく映える。しかし創人族の鍛造技術はすごいな、魔人族じゃそこまで優れた剣は打てない』

『ありがとうございます。ですが逆に、創人族はあなた方ほど魔法技術に優れてはいません』

『それもそうか。ならさしずめ、これらは魔人族と創人族の最強合作武具ってとこだな!』

『違ぇねぇな! 今この世界でオレたちだけが持てる最強の武具だ!』


 ヴェレスが嬉々として装備で身を包む。それに倣い冒険者たちが身に馴染ませて装備の具合を確認していると、店主が静かに誰へとでも無く語りかける。


『詳しいことは知らされていないが、ノッセル様があんたら創人族の冒険者のために最上級の武具を、と依頼してくれたってことは、何かでかいことに臨むんだろう? きっとそれはこの世の中に変革をもたらす何かなんだろう。たのむぜ、存分にそいつらを使ってやってくれ』


 装備を整えた冒険者たちは力強く額く。

 次の予定も手配済みだ。静かに送り出す店主に背を向け、冒険者たちは武具店を後にした。




 デンキャストジークの郊外で手配していた運転手付きの魔導車に乗り込み、国境の街ロントジークへ向かう。

 到着次第、徒歩でロントジークの街を貫き国境の門まで辿り着けば、いよいよ緊張感が高まる。

 国境を越えれば、ついに本格的に作戦が始動する。


 シェルツは門の前で足を止め、仲間たちに視線を巡らせる。例外なく仲間たちの瞳は明るく輝き、自身と同じく決意を固めていることが感じ取れた。


 門に手をかけると、自動的に開き始め越境者たちを招き入れる。

 シェルツは一歩踏み出し、行動の証を示すように呟いた。


「まずは第一歩、獣族の国セイヴだ」

いつもお読みいただきありがとうございます!

ブクマもいただけて嬉しいです♪

今話から始まる第三楽章もゆるりとお楽しみください♪

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