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精霊《ルフ》と奏でるコンチェルティーノ  作者: 音虫
第五幕 精霊と奏でるシンフォニエッタ 〜旅の果ての真実《こたえ》〜
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2-19 変革を齎す因子

 心音たち冒険者一行にあてがわれた部屋は、随分と調度品が充実していた。

 デザイン性はやや無骨ではあるが、どれも繊細に組まれた魔法回路が刻印されており、前回使用者の残存魔力からか淡い輝きを湛えている。


 紅茶は自動で淹れられる、

 衣服を洗濯し瞬時に乾かすクローゼット、

 熱いシャワーに冷たい飲み物。


 おおよそ快適に過ごすには十分すぎるほどの設備が整っており、またそれがすべて魔法回路によって組まれた機能であるというのだから、魔人族の魔法技術の高さには驚かされる。


 充実した衣食住の供給を受け、わずか一晩ではあれどすっかりと疲れをとった冒険者一行がくつろぐ部屋で、先日の魔王の予告通りちょうど時計が正午を示した頃に魔法回路を通した遠隔念話が起動した。


『あー、ノッセルだ。魔王サマがお呼びだァ。会合の準備は整ってっからよ、今から起動させる魔法回路に向かえ』


 ここまで案内してくれたノッセルであるが、会合の場にも同席するのだろうか。いいや、大して考えることでもないだろうと、心音は先に魔方陣へ向かった仲間たちを追いかける。

 一抹の疑問は、まばたきと共にはじけて消えた。



 次元魔法による転移の先、魔王が待つ玉座の間に出てみれば、堂々と上方から睥睨する魔王の下に五人の魔人族が控えていた。

 その中に見覚えのある半透明の頭を見つけると同時、五人の注意が一気に心音たちに向いた。


『ククク、なるほどお前が与える影響とは、かくなるものか』


 黒いローブの男が笑いを(たた)える。


『ああ? こいつらはグリントであたいを邪魔してきた奴らじゃないか!』


 濃緑色の女魔術師が憤る。


『へぇ、貧弱な創人族を登用すると聞けば、少しはマシな連中じゃないか』


 水色の髪の男が目線を流す。


『おや〜? こんなところでまた会うなんて奇遇だね〜』


 門番の男が小さく欠伸をする。


『はっ、こいつらの子守りも継続か。見返り分くらいは動いてくれよなァ?』


 ここまで案内してくれた男が溜息する。


 錚々たる顔揃い。冒険者たちの驚愕を、心音がまとめて口にする。


『起源派騒動の黒ローブさん、グリント王国を襲撃した炎の魔術師さん、アディアの砦で戦った大津波の魔人族さん、そしてハリュウさんに、ノッセルさん! みなさん面識がある人たちですが……どうしてこちらにお揃いなんですか?』


 長いため息。そして首を大きく横に二度振り、ノッセルが疑問に答えてくれた。


『あんたらの方が異分子(イレギュラー)なンだよ。オレ等は魔王様直属の精鋭隊だ。自分で言うのもスキッとしねえが、一人一人が一個師団に匹敵する戦力だ。にしても、全員に会ったことがあるってのは驚きだがなァ』


 一人で一個師団(千の兵団)に匹敵するだなんて、通常であれば到底信じられる話では無い。しかし、心音たちは過去の経験を以て、その話が真実たり得ることを確信していた。


『確かに、アディアで向けられた水魔法みたいな規模の攻撃をされちゃ、創人族の一個師団くらいじゃひとたまりも無いわね』

『そういうあんたたちも、限定的にならそれに匹敵する魔法行使もできるみたいだったけどね。……名はトノンだ。あんたたちの名前はいい、聞いているからな』


 アーニエが大規模魔法の暴威を回想すると、水色の魔人族トノンがそれに答えた。


『トノンが言うならそれなりの魔法士を要しているんだろうけど……あたいはアレで負けたつもりはないからね! まったく、長距離の次元魔法行使の直後でなければ……』

『何も恥ずべきことでは無い、クラミよ。彼らもまた、世界に対する確かな因子ということだ。吾輩、ノーナスーラはその潜在能力を見込んで彼らの芽を摘み取らなかったのだ』


 悪態をつく濃緑色の女に、黒いローブの男が低い地鳴りのような声で反応する。


『ん〜、この隙だらけな創人族たちが精鋭隊に迫る能力を隠してるだなんて、ちょっと想像できないけどな〜』

『はン、ハリュウてめェもこいつらがオレ様の攻撃を防いだのは見てたろうが。それに、こいつらは護国の魔殿の試練を抜けた。少なくとも魔人族の戦士と同等以上の実力があることは認めなきゃなんねェだろうよ』


 全員に快く受け入れられているわけではないようだが、思いの外、魔人族の精鋭たちから向けられる冒険者五人の戦力評価は高いようだ。


 階下でのやりとりを愉快そうに眺めていた魔王が、肘掛けを支点にした腕に顔を預け荘厳な声を落とす。


『どうやら自己紹介の手間は省けたようだな。ここに集いしは世界に変革をもたらす(かなめ)。その核たる我から、お前たちに勅命を下そう』


 瞬間、駆け抜ける魔力波。その勢いに思わず顔を背ければ、再び目を向けた玉座の前には魔王が堂々たる面持ちで仁王立ちしていた。


『機は熟した。今こそ変革の時である。我が統治に於いて練り上げられた戦士たちよ、その力で世界の敵を穿て。先祖代々の想いを継ぎ、積み上げられた魔力を革命の松明にくべよ。 

 ――――第二十代魔王ディスティラファニィ・マ・アーギスの名において告げる、混沌の王たるハープス国王ヨー・ジェルム・ヨシュカを打倒し、創人族の王国を墜とせ!』


 魔人族の精鋭五人が一斉に腕を一文字にし敬礼の構えをとる。


 一気に張り詰めた空気感から、心音は生唾すら飲み込めない。

 魔王の話を受けた時点で覚悟はしていたが、いよいよ故郷を相手にする戦争に荷担することとなる。


 故郷が戦火に包まれる覚悟も、

 多くの友が討ち果てる未来も、

 日常が二度と戻らない可能性も、

 全てを享受しなくてはならない。


 ――それでも、ぼくたちはこの世界の本当の平和を見てみたいんだ。


 この世界のことだけではない。魔王の話が本当なら、ハープス国王は心音の故郷地球にまで魔の手を伸ばそうとしている。

 地球にはない魔法技術をそこで奮われれば、どれだけの犠牲がでるか分からない。何においても、ここ(この世界)で阻止しなくてはならないのだ。


 仲間たちの視線が交差する。心音たち冒険者五人は小さく頷き合い、魔王に向かって敬礼の姿勢を向けた。


 これは祖国への謀反か、友や家族への裏切りか。いや、たとえ世界への反逆であろうと、この世界が間違っているのなら正しく叩き直してやらなければならない。


 されど、まだ魔人族の王に全面的な信頼を預けたわけではない。旅の終着点に向けた道程、その最中で確定させるべき結論は、きっとこの世界における分岐点となる。


 旅の果てに如何なる解えを得るか。まだ想像もつかないそれを自問しながら、心音は魔王の黄金の瞳に焦点を向け続けた。


いつもお読みいただきありがとうございます!

第二楽章はここまでです。

次回から始まる第三楽章もお楽しみください♪

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