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精霊《ルフ》と奏でるコンチェルティーノ  作者: 音虫
第五幕 精霊と奏でるシンフォニエッタ 〜旅の果ての真実《こたえ》〜
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2-16 加撫心音

 三分間ほど、目を瞑っていただろうか。

 静寂の中、きっと何かが起こるのだろうとじっとしていた心音は、一向に変化が訪れないことに首を傾げる。

 いよいよしびれを切らし、心音はこっそりと目を開いてみた。


『……わっ、魔王さま』


 途端、魔王と目が合う。じっと心音を見つめる金色の瞳孔は全くの揺らぎを見せない。


『やはり覚醒状態のままか。お前、彩臓が欠損しているのか』

『えと、はい。欠損というか、そもそもぼくが生まれ育ったところではみんな持ってない器官というか……』

『〝創られし者〟でもないと。なるほど大精霊の興味を引くわけだ』


 一度言葉を区切り思案する魔王の前で、ようやく心音は周囲に意識を向ける。

 冒険者の仲間たち四人はそれぞれ、椅子にかけたまま眠りに落ちているようだ。

 なるほど自分が起きたままなのは想定外なのだと、心音は置かれている事情を把握し始めた。


『彩臓に宿る魔力の記憶を読み取ることは叶わぬな。ならばよい、語り部はその身に任せるとしよう』


 言葉の意図を計りかねていると、魔王との間に魔力線(パス)が繋がったのを感じた。この感覚は……〝対外念話 〟に近い。


『何も口にせずともよい。ただ胸の内で、ここに至った経緯を回想するのだ。我はそれを汲み取ろう』


 心音は無言で頷くと、再び目を閉じて記憶を巡らす。シェルツたちが眠り続けているように、自分自身のことを魔王に伝えることがきっと未来のために必要なことだと信じながら。


 ――――――


 ぼくにとっての旅の目的は、ほくが元いた世界に帰ること……です。

 突拍子もない目的に聞こえちゃうと思いますけど、ぼくが別の世界からやって来たって言っても……やっぱり信じてもらえないでしょうか?


 ある日、突然この世界に落とされちゃったんです。

 ふと気分が向いて、学校の裏山で楽器を吹いていたら、突然身の回りにひびが入って。気がついたら大火事の街の中でした。


 そこから人里を探して彷徨っていら……シェルツさんたちに会って……ヴェアンに行って精霊(ルフ)さんたちと仲良くなって……聖歌隊に入って――――


 ――――えっと、なんだっけ。

 ぼくの、生い立ち、元の世界――――

 日本での暮らしのことなら……うん、魔物の脅威に溢れたこの世界と比べたら、すごく平和だったかな。


 戦いや争いなんてぼくにとっては無縁のことだったし、日々は楽しい音楽であふれてた!

 小さい頃から毎日歌って、ピアノも弾いて、素敵な奏鳴曲(ソナタ)を聴いて、とってもキラキラした日常。


 小学校に慣れた頃にはパパからトランペットを教えてもらって、いろんな曲が吹けるようになってきたら、ママの伴奏でコンクールにも出場して。

 賞を取ることはそんなに意識してなかったけど、最高金賞(グランプリ)を貰えたときは、ぼくの音楽を聴いたみんながすごいって言ってくれてるみたいで嬉しかったなあ。


 お勉強も楽しかった!

 昔のすごい人たちが積み上げてきた知識を覗くのって、とってもワクワクしたし、いろんな法則が組み合わさって人の生活を形作っているんだなあって、知れば知るほど面白かった。


 パパは理科の先生だったから、おうちにはたくさんの科学の本があって、そこから飛び出す学校では勉強できない知識が、ぼくの世界を広げてくれたの。


 ……そうやって広がった世界が、疑似魔法の発現にも役立ってるのかな?


 身体を動かすことは苦手じゃなかったけど、スポーツが得意って感じでもなかった。

 やっぱり、スポーツはルールとかコツがあるから、ちゃんと練習しなきゃうまく出来ないよ。

 ぼくはその分、ずっと音楽の練習をしてたからね。


 もちろん音楽が大好きな自分のことは好きだよ!

 だから、未来は音楽を奏でる仕事をしてみたいなって。

 オーケストラのトランペッターだったり、ブラスバンドのコルネッティストに、ピアニストも楽しそう!


 でもそれに限らず、きっとぼくにはたくさんの可能性があると思うんだ。

 楽器の演奏を教えたり、楽器を直したり売ったり、音楽を創ることだってできるかも。


 はたまた科学者になってみたり?

 パパみたいな理科の先生とか、食品の会社の化学技術者とか、大学ですごい技術を研究したりとか!


 その気になったらスポーツだってできたりしないかな。冒険者になってみて、意外とぼくも運動できるかもって思ってたり!


 未来には、無限の可能性が広がってると思うの。

 それはぼくに限った話じゃなくて、今を生きるどんな人にも……ううん、この世界だって、どんな風にも変わっていけると思うんだ。


 例えば、ずっと街の人とうまくいってなかった起源派の人たちも、きっかけがあって考え方を変えることができた。

 山間の集落べジェビのティスちゃんも、一歩踏み出して素敵な笛吹きになれた。

 グリント王国のテレーゼさんを取り巻く関係性だってガラリと変わったし、トラヴ王国では長く続いた魔女さんの確執も一つの終わりを迎えてた。

 森人族の国エスプル共和国や獣族の国セイヴに獣人族の集落でも……世界って、日々変わっていくんだなあって、この旅を通してすっごく感じるんだ。


 この世界に、不変なんてない。どんなものも常に変化し続けているんだから、やっぱりぼくは変わることを楽しみたいな。

 どんな変わり方だってできるんだから、未来は無限に広がってると思うんだ。それはぼく自身にだって、もちろん世界にだって!


 今ぼくの中でのトレンドは、やっぱりこの世界のこと。

 もちろん故郷に帰ってからのこともたくさん夢見てるけど、その前にこの世界をもう少し明るくしてから帰りたいなって思ってる。


 だって、ぼくはこの世界のことも好きだから。


 そしてきっと、この世界のためにぼくができること、まだあると思うんだ。


 ぼくには、無限の可能性があるんだから。

 だからぼくは、未来を夢見てる――――

いつもお読みいただきありがとうございます!

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