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精霊《ルフ》と奏でるコンチェルティーノ  作者: 音虫
第五幕 精霊と奏でるシンフォニエッタ 〜旅の果ての真実《こたえ》〜
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2-15 シェルツ

 ――――仲間に恵まれた。心からそう思っている。


 並外れた力と戦闘感覚を持つヴェレス。

 魔法技術と魔法強度に優れたアーニエ。

 治癒と守り、知恵を備えるエラーニュ。

 そして、唯一無二の精霊術を扱う特別な女の子、コト。


 近接戦闘も魔法の行使もそつなくこなせた俺にとって、彼らの存在は常に高みを教えてくれるものだ。


 ……同時に、従来の俺が持っていたはずの自己肯定感は、彼らの前では声を上げることができない。

 彼らよりも優れている特技というものを、俺は持ち合わせていないからだ。


♪ ♪ ♪


 ――――恵まれた家庭に育った、のだと思う。


 父リッツァーは学者としてはそこそこの地位にいるらしい。それもそうだ、一定の功績を残さないと家名を貰えない国で〝ヴァイシャフト〟の姓を科学の分野で受けたのが父方の家系だからね。

 母ティリアも優秀な人だ。治癒士の資格を取るだけでも凄いのに、民間の病院だけでなく軍属病院からも評価されている。


 そして二人とも、人間的にも本当に尊敬できるんだ。理不尽な叱り方はされたこともないし、常に家庭には笑顔があった。


 妹ティーネも俺と同じくその愛を一身に受けて育った。明るい性格でいつも楽しそうにしていながらも、魔法技術は俺以上に卓越していて、学生の身ながらも優秀な冒険者だ。


 ……そういえば、ティーネが冒険者になったのは俺の影響だったね。

 ヴァイシャフト家は冒険者や軍人の系譜は引いていない。だから家庭内で冒険者を勧めるような声は無かったのだけれど……俺が冒険者を志したきっかけは些細なことだったと思う。


 教養学校の同級生の中で、冒険者の話題が上がることはしばしばあった。力を奮い民を守るために魔物を討つ、そんな仕事は当然のように男の子たちの憧れだったんだ。

 当時、俺はどちらかと言えば、学者の仕事に興味があった。あまり主流(メジャー)ではない学問だけれど、科学はとても面白く、魔法の発現にも強く関わっていることもまた好奇心をくすぐられた。


 民を守る仕事なら他にも、ハープス軍や首都警察がある。でも、統率の中で一員として闘う軍隊や、ヒトの犯罪者を制圧する警察よりかは、己の力を自由に行使する冒険者に人気は集まったようだ。


 そういった流行だったから、休憩時間には運動広場に出て冒険者の真似事をするのが専ら人気の遊びだった。授業で教わるのは生活で用いる魔法だけだったのに、彼らはどこから学んできたのか、課外の魔法を用いてその優位性を証明しようとしていた。

 最もかっこよく戦える者が、お遊びの階級(カースト)の上位に立てたのだ。


 俺はそれを見ていて、好奇心を抱いてしまったんだ。

 父さんの影響で同級生たちとは比べ物にならない科学(魔法)知識を持っている。

 運動だって得意で、体力検査ではいつも上位の成績を残していた。


 その力を、試してみたくなったんだ。


 彼らの遊びに混じってみれば、瞬く間に俺は階級(カースト)のトップに上り詰めた。元々勉強も得意だった俺は、学生たちからの評価を一手に集めた。

 ……いいや、こうして客観的に回想してみればもっと的確な言葉が浮かぶ。そう、俺は皆の羨望を集めることに喜びを得ていたんだ。


 その充足感をもっと続けるために、皆の期待に答える形で俺は冒険者認定試験を受けた。初段位認定試験は、俺にとってあまりに簡単に思えてしまった。


 でも、その試験で出会ったのがヴェレス、アーニエ、エラーニュの三人だったんだ。

 彼らは、他の受験者たちとは一線を画す実力を持っていた。


 彼らなら、俺を理解してくれる(俺にふさわしい)と思った。周囲から抜きん出た実力と、裏付ける精神性を持ち合わせていたからだ。

 試験の合格認定通知を受けるなり、俺は早速彼らに声をかけた。奇遇なことに、三人とも俺と同じように、この四人でパーティを組みたいと考えていたらしい。

 とは言え、打算の上でのパーティ結成である点も、四人の中で共通していたように思える。


 最初から仲が良いわけではなかった。

 深く考えないヴェレス、当たりのキツいアーニエ、一歩引いて見るエラーニュ。

 パーティを維持するには、彼らを繋ぐ役割が必要だった。


 幸い、俺は近接戦闘、魔法、治癒術それぞれに心得があった。彼らの技能や性格に寄り添い仲を取り持つうちに、自然とパーティの先導(リーダー)的な立ち位置となっていった。

 同時に、傲慢になっていた俺自身の考え方も、パーティの一員として活動するうちに落ち着いていった。


 自分より優れた存在を身近に感じることとなったからだ。


 皆には誰にも負けない〝何か〟があった。

 対して、俺には唯一無二が無かっんだ。


 何でもできるのに、何にも秀でない。気づけば俺は自身にそんな烙印を押して、パーティの均衡を秤るために立ち回っていた。


 幻想のように抱いていた万能感は、泡のように消えていった。


 今至ったこの地まで、ハープス王国からの長い旅路の中でも、幾度となく無力感は感じてきた。

 遭遇してきた強敵たちは、どれも仲間の力が無ければ打倒しえなかった。俺にできるのは、力を添えることだった。


 極めつけは護国の魔殿で経験した試練だ。次元魔法の会得のために魔人族の戦士に課せられる試練、その数々を目の前に、俺の力は全く及ばなかった。


 何も、出来なかったんだ。


 四人の仲間たちが、それぞれ力を重ね試練を突破するのを、素直に喜べない自分がいた。そんな自分が嫌になる。


 力ではヴェレスに敵わない。

 魔法強度はアーニエに及ばない。

 エラーニュほどの治癒の知恵も持ち合わせない。

 コトのような規模で魔法を発現させることもできない。


 ……魔法は〝想い〟の力だ。

 皆詳しくは話したがらないけど、仲間たちは何かしらの重い過去を抱えているみたいだ。

 きっと、その経験が彼らの強さを裏付けているんだろう。


 俺には凄絶な過去はない。何かを乗り越えることも無く、ただ色んなことが人並み以上にできただけで持て囃されて生きてきた。


 そんな俺が彼らと一緒に居てもいいのか?

 これから更に苛烈化するであろう戦場で?


 力がなければ生き残れない。

 力がなければ守ることもできない。

 俺のせいで仲間が傷つくことになったら?

 仲間の期待を裏切って守るべきものを取りこぼしたら?


 分からない。俺は何を依り代として戦えばいいのか。

 恐ろしい。大切な人を危険に晒すのが。


 過去を抱えない俺は、〝今〟が怖い。



 ――――――

 ――――

 ――



 なるほど、シェルツ・ヴァイシャフトという男の根源は〝今〟に有り、か。

 越えるべきは今この時。何かを得るか潰れて凡夫と成り下がるかは当人次第。

 あまり悠長に待ってはいられない。失望はさせてくれるなよ。

いつもお読みいただきありがとうございます!

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