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精霊《ルフ》と奏でるコンチェルティーノ  作者: 音虫
第五幕 精霊と奏でるシンフォニエッタ 〜旅の果ての真実《こたえ》〜
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2-9 返す答えと対価

 衝撃的に過ぎる真実に畳み掛けるような、魔王の宣戦布告。とても冷静ではいられない状況下、魔王の指示により冒険者たちに相談の時間が設けられた。

 ノッセルの転移魔法により別室に案内され、冒険者五人は気持ちに整理をつけながら意見をまとめる。


「……魔王の話を、どこまで信じるべきだろう」

「為政者として、当然自国の有利に働くようなことを述べてはいるでしょう。しかし――」

「ああ、わかるぜ。魔王は嘘をついていない。大精霊(ルフ・アジマ)の言葉と見せられた光景が、本当のことだって証拠になるだろ」

「あとは、その大精霊の言ってることが本当かってところでしょうけど……コト?」

「はい、大精霊さんたちは嘘を言っていません! ぼくの中にいる精霊さんたちの気持ちは、〝想い〟として伝わってくるので」


 導かれる信憑性と、受け入れ難さとの葛藤。

 世界を戦禍の混沌へとおとしいれていた元凶が、生まれ育ってきた国の王であることを認めるのは、決して容易ではない。


「みんなの気持ちは、俺自身がそうであるようにすごく分かるんだ。でも、今知った真実と旅の中得た感覚を照らし合わせると、悲しいほどに整合性が取れてしまわないかな」

「ええ、わたしも同感です。ここは、考え方を中立的(ニュートラル)に持ってくるべきかもしれません」


 アディアの前線、種族間の交易、ハープスでの情報や文明のチグハグさ。

 皆一様に考えを巡らすのは、長い旅の中で見てきた〝真実〟。


「すぐに完璧に考えをまとめて、打倒ハープス国王! なんてできる気はしないけど、少なくともあの魔王の考えに乗って事の運びを見てから判断するくらいならできるんじゃないかしら?」

「えっと、つまり……味方になったフリをするってことですか?」

「まぁ、そう言うことになるわね」

「魔王さまに嘘は通じないってノッセルさんが言ってました。たぶん、すぐバレちゃう気がします」

「いや、それでも嘘に乗るぜ、あの魔王様は」


 ヴェレスが確信したように言い切る。

 その意図を心音が訊ねようとすると、質問を投げる前にシェルツの同意が重ねられた。


「たしかに、ね。あれだけの自信と実力に満ちた王なら、俺たちがまだ疑心に囚われていると知った上で利用するくらいはしそうだ」


 こうなってくると、次に定めるべきは、自分たちがどうしたいか――何を目的とするか、だろう。

 当初の旅の目的はなんだったか、そして旅の果てに何を望むか。各々が自問自答する。


「……元々は、国を守るための旅だったよね。創人族の国の平和を脅かす魔人族の動向調査、そのための遠征だった」

「アディアまで行って帰ってくる、くらいのつもりだったのに。払いの良い指名依頼が、とんだ面倒ごとになったわ」

「ぼくには、元の世界に帰るための情報集めという目的がありました。でも、今ではそれと同じくらい、この世界を平和にしたいって思ってます」

「焦点となるのは、その点でもありますね。わたしたちは国の現状を守りたいのか、国に住む人々に平和でいてほしいのか」

「なんだ、簡単じゃねぇか。顔も知らねぇ王様より、よく知ってる街のみんなを守りてぇだろ!」


 案外、すんなりと結論に至る。

 選ぶべき道は、自ずと見えてきた。


「魔王のやろうとしていることが俺たちにとっても真に正義たるのか、それはまだ分からない。でも、この歪んだ世界を変えるための大きな一手になるということは、確かに感じるんだ」


 それぞれが頷き返す。

 パーティの総意は決まったようだ。

 誰からでもなく立ち上がり、ノッセルが残した玉座の門へ通じる魔法回路を見据える。


「魔王に俺たちのこたえを返しに行こう」


♪ ♪ ♪


 魔王が待つ玉座の間へ戻ると、そこに先程までいたノッセルの姿はなく、魔王がただ一人足を組み、じっと階段の先を見下ろしていた。

 静寂に緊張感を覚えながらも、心音たちは魔王の視線の先に跪き発言の許しを待つ。


『意思は定まったか。ならば言の葉に乗せて思いを告げよ』

『……はい。俺たち五人は、ハープス王国の冒険者であり、そしてこの旅は国からの勅命でやってきた遠征でもありました。ですが、その旅の目的は、元来世界の平和を望んでのものであったはずです。ですので、俺たちは真実の平和のために、魔王様が指揮を執る国落としの作戦に協力します』

『ほう、よく言った。決して安い決断ではなかったであろう。そう述べるに至った決意は称賛しよう』


 魔王は華美な玉座から立ち上がると、一瞬にして階下の心音たちの前に現れる。

 スラリと引き締まった長身を見上げる心音を一瞥、冒険者たち全員の顔を順に観察し、魔王は静かに問うように言葉を紡ぎ始めた。


『貴様らを作戦に加えるならば、我も相応の信頼を寄せなければならない。しかし、貴様らの為人(ひととなり)を知るには余りに浅い関係だ。よって、貴様らには抱えている深淵を開いてもらおう。我に貴様らの根源を見せよ』


 聞きなれない言葉に、シェルツはおずおずと訊き返す。


『根源、ですか……?』

『そうだ。貴様らの心の核を形作る礎となっている憧憬を、今から開く。なに、貴様らはただじっとしていれば良い』


 悠々とした振る舞いのまま魔王が腕を一薙ぎすると、心音たち五人の背後に作りのしっかりとした椅子が現れる。

 座れ、ということだろう。無言の促しに従い深く椅子に腰掛ければ、魔王は手をかざして静かに述べる。


『これから発現させる魔法は、被術者との意思が合致して初めて成立する。我が触れるのは貴様らの根源。拒絶が先行するのは至極当然だが、一切の抵抗を捨てよ。なに、これは我にとって必要なことであるが、同時に協力を申し出た貴様らへの褒美でもある』


 自分たちにとっての褒美……?


 冒険者たちがその疑問を口にすることは叶わない。急速に意識が遠のき、心の底に深く深く沈んでいく。


 椅子に深く腰かけたまま沈黙した冒険者五人の姿を確認し、魔王も玉座に収まり瞼を落とす。

 静寂が降りた玉座の間で、冒険者たちはそれぞれの根源を辿り始めた。

いつもお読みいただきありがとうございます!

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