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精霊《ルフ》と奏でるコンチェルティーノ  作者: 音虫
第五幕 精霊と奏でるシンフォニエッタ 〜旅の果ての真実《こたえ》〜
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2-2 護国の魔殿

 〝護国の魔殿〟の中はタイル状の石床で敷き詰められ、暗い屋内を青紫の炎があちこちに浮かび照らしている。


 炎が照らす道を真っ直ぐ歩くと、直ぐに試練らしきものが見つかった。


「なによあれ、随分と大きな岩ね?」


 ヴェレスが両腕を広げても届かないほどの大岩が、台座の上に置かれている。正体を確かめようと近づいてみれば、突然音声が部屋に響いた。


「これは……魔人族の言語かな?」

「そのようですが、内容が分かりません」


 魔人族以外の種族が入ることが想定されていない施設であろうから、やはり創人族が試練に挑むという弊害に初っ端からぶつかる。

 パーティ皆が頭を悩ませる中、心音がゆっくりと単語を並べ始める。


「重さ……強度……持つ……岩……」

「コトあんた、もしかして意味が分かるの?」

「えと、断片的にですけど……。この国に来てから色々とお話してて、少しだけ単語を覚えたんですっ!」

「やるじゃない。さすが、短期間であたしらの言語を熟達(マスター)しただけあるわね!」


 心音の耳の良さと〝対外念話〟のメリットによる言語学習能力がここで生きてきた。

 試練の内容を読み解く希望が見え、エラーニュが情報を促し整理する。


「他に聞こえた単語はありますか?」

「後は……魔法、上げる、ボタン、だと思います」

「なるほど……直線的な推測ですが、あの岩を持ち上げる魔法強度の試練と言った所でしょうか」

「持ち上げりゃいいんだな? それならオレの出番だぜ!」


 意気揚々とヴェレスが大岩に向かう。そして〝身体強化〟を発現させ蘇芳色の魔力光を纏い、ガッシリと大岩を抱えて持ち上げた。


「うおぉぉぉ――――!!」


 ミシリと音を立て、大岩が浮き上がる。

 そのまま胸の上まで持ち上げ、腕に血管を浮き上がらせながらその姿勢をキープした。


「どうだあぁぁ! これで岩は持ち上げたぞぉ!」

「求められている魔法の強度とは少し方向性が違う気もするけれど……」


 恐らく想定とは違うとは言え、実際に岩は持ち上げられている。しかし、十秒ほど待っても何の変化も起こる兆しがない。


「やっぱり〝念動力〟で持ち上げる必要が――」

「あ、そうだ、ボタンですっ!」


 シェルツの疑念を遮り、心音が思い出したとばかりに駆け出してヴェレスが持ち上げる岩の下を探る。

 そして、すぐに明るい声が返ってきた。


「ありました〜! 押しますねっ」


 心音がボタンを押すと、すぐに変化が訪れる。

 青紫の炎が天井に向かってスロープ上に点火されていったと思えば、先程まではなかったはずの階段が現れていた。

 ズシンという重たい地響きの後、ヴェレスが勢いよく発する。


「よっしゃあ! これで試練は突破だな!」

「気が早いですよ、建物の大きさから推測するに、まだ幾つか試練は残されているはずです」

「それもそうか、簡単すぎたもんな、ガハハ!」


 意気揚々と階段を上るヴェレスに、エラーニュとアーニエも続く。


「シェルツさん、行きましょっ」

「あ、うん、そうだね」


 試練は果たしてあと幾つあるのか。

 大して時間はかからないと言ったノッセルの言葉を脳裏に浮かべながら、冒険者五人は次の階層へと登った。


♪ ♪ ♪


 次なる階層、炎の道標に従い進んだ先、模様が描かれた円陣の元に案内された。

 一定間隔で規則正しく記された模様にはどこか既視感を覚えるが、その正体は推察するに――――


「……これ、この国の時計盤かしら?」


 模様の数は創人族の国で見る時計盤のそれと同じ。

 模様――恐らく魔人族の文字であろう――の意味は分からないが、アーニエのその推測は遠く外れてはいないだろう。


「まぁ、とりあえず上に乗ってみましょ」

「そうだね、何かしら変化があるかもしれない」


 五人は大きな時計盤の中央に進む。すると、第一階層で聞こえたような音声が空間に響いた。

 声が収まるのを待って、シェルツは心音に尋ねる。


「知ってる言葉はあった?」

「えっと……

 炎、

 飛ぶ来る――飛んで来る、

 消す打った魔法――魔法で打ち消す、

 気配、

 暗い、とかでしょうか」

「要するに、この暗闇の中で飛んでくる炎を魔法で迎撃しなさいってことかしら? それならあたしの領分ね」


 アーニエが素早く詠唱し、身体の周囲に水球を展開する。

 それを待っていたかのように、アーニエの正面から赤黒く燃え上がる火球が飛来した。


「ほら来た! 〝水弾〟!」


 火球と水魔法が相殺して消える。

 予想通りの満足感も束の間――次々と火球が時計盤の中心目掛けて襲い始めた。


「ち、ちょっと、こんな数暗闇の中じゃ捌けないわよ!」


 赤黒い炎は暗闇の中では近づくまで視認出来ない。そんな中かなりの頻度で迫り来る火球を相殺しきれず、何発か時計盤に到達したものをエラーニュの〝防壁〟で防ぐ。


「おい! 時計盤に火が付いちまったぞ!」


 ヴェレスの方を見れば、まるで導火線のように時計盤を火がなぞっている。〝防壁〟にぶつかって弾けた火によって着火したのだろう。

 アーニエがすぐに水を射出して消化するが、その火が向かっていたはずの先を見てエラーニュは合点がいったように早口で流す。


「時計盤の中央に魔法回路が仕組まれています。きっとこれは炎からその回路を守る試練なのでしょう」

「はぁ? そんなこと言ったって、あたし一人じゃ防ぎきれないわ!」

「俺も〝水弾〟で応戦してるけど、悔しいけど火球の速度に間に合わないんだ」


 アーニエの魔法発現速度があってこそ、視認してからの打ち消しが可能なのだ。シェルツの水魔法発現速度では、それに及ぶことはできなかった。


 火球の飛来が一度止まる。

 嵐の前の静けさのような不気味さを感じ、アーニエが知恵を求める。


「あたしは打ち消しに専念するけど……何かもう一手手助けが欲しいわ。せめて少し視界が広がれば……」

「それならば、わたしの〝光球〟で」


 エラーニュが光の球を出し宙に浮かべる。しかし、その光は闇に吸われて視界を広げることはなかった。


「なるほどね、あくまで気配を探らせたいわけか。魔法的な探査が出来ればいいのかな?」

「水魔法と〝魔力視〟の同時発現なんてこの状況じゃあたしにはムリよ」

「あ! ならぼくが〝精霊の目〟で見て、それをアーニエさんに伝えます!」

「伝えるって手段は……なるほど、いいもんが下にあるじゃない」


 足元に広がる時計盤。これを利用しない手はない。


「……アーニエさん、そろそろ来ます!

 ――――――二時、九時、六時!」


 心音が示した方角に向け、アーニエが炎を視認する前(・・・・・)に〝水弾〟を飛ばす。

 弾頭面積を広げたそれは打ち逃すことなく炎を順々に消し、どこかリズミカルにも感じるテンポで打ち続ける。


「ハッ、ヤッ、ソレ! なんだかベジェビでの戦いを思い出すわ!」

「六時、八時、一拍置いて零時! ……あの時は音を頼りにしてましたねっ」


 暗闇の中、ベジェビを襲った魔物たちを心音の聴力を頼りに撃退した騒動。あの時は使えなかった〝精霊の目〟を活用することで、より暗闇の中での正確性が取れていた。


 舞うように炎を打ち消し続けること数分。速度を増していた火球の飛来がピタリと止まったと思えば、時計盤を囲むように青紫の炎が灯った。


「ふぅ、終わったかしら?」

「えっと……あっ、たぶんそうみたいです!」


 心音が指さす方を見れば、先のように炎が灯って次なる道を示していた。


「第二の試練、突破だな! さっさと上にあがろうぜ!」


 幅広の階段を示し、挑戦者たちを招くように炎が揺れる。

 功労者であるアーニエの息が整うのを待ち、五人は更なる試練へ向けて登って行った。


いつもお読みいただきありがとうございます!

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