表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊《ルフ》と奏でるコンチェルティーノ  作者: 音虫
第五幕 精霊と奏でるシンフォニエッタ 〜旅の果ての真実《こたえ》〜
135/185

1-2 結晶の道

 獣族の国セイヴと魔人族領を分かつ関所。その巨大な門を抜けた先に広がるのは、凡そ自然のものとは思えない異様な光景であった。


 心音たち五人の冒険者が呆気に取られている中、彼女らの数歩先で面倒臭そうに振り向くのは、関所にいた魔人族の一人である薄紫色の男だ。


『あ〜、まぁ気持ちは分からなくもないけれど、おれも早く仕事は終えたいんだよね。歩きながら驚いてちょうだい〜』


 少し掠れた声で促された心音たちは、言われるがまま驚きと共に彼について行くとする。

 目の前に広がる景色をどうにか言語化するべく、心音たちは方々に意見を交わす。


『何だこりゃ、でっけぇ柱だらけじゃねぇか』

『国防のための防護柵? にしてもこの規模は……』

『そもそも何よコレの材質は』

『透明でキラキラしてます! イルミネーションみたいですっ!』

『……もしかすると、これらは全て魔素の結晶ですか? ハリュウさん』


 最後のエラーニュの台詞(セリフ)に、ハリュウと呼ばれた魔人族が薄紫色の瞳を向ける。


『へぇ〜、創人族って中々鋭いんだね。さすが、弱いながらも千年間敵対し続けているだけある』


 ヴェレスの表情が明らかにムッとしたものに変わるが、それを制するようにエラーニュが続ける。


『推察の域を出ませんでしたが……。と言うのも、わたしたちの国では有り得ない規模と純度です。似た現象と言えば、精霊が少ない洞窟の奥地で長い年月をかけて小さな結晶群ができるくらいでしたので……』

『それはまぁ〜そうでしょ。東方には大した力も持たない生き物たちしか棲んでいないんだから、自然に結晶が生まれたところで大したものにはならないよね〜』


 一々鼻につく物言いだが、ここまで来て争っていても仕方が無いと、エラーニュは努めて冷静に返す。


『とすれば、強大な魔力保有量を誇る魔人族や、ここで暮らす生物たちから溢れた魔力が風化したもの――その魔素が実体化したものがこれらの結晶群ということですか?』

『半分正解だね〜。自然に結晶が形成されるのを待ってもいられないから、人為的に結晶を生成しているんだ〜』


 〝待ってもいられない〟……。わざわざ人為的に結晶を作り出さなければならない理由。それはシェルツが言ったような国防の意味もあるのだろうが、心音は『そっか』と呟くと彼女だからこそ分かる気付きを発する。


精霊(ルフ)さんたちがすごく少ないから、魔素が身体に良くない濃さのまま残っちゃうんですね。創人族の国だとたくさんの精霊さんたちが魔素を食べちゃいますし!』


 ハリュウが足を止め、眉間に(しわ)を寄せる。


『よくもまぁそんな台詞を……。いいや、歪みきった中で育ったあんたたちじゃ知るわけもないか』


 期待するだけ無駄というように顔を背けると、ハリュウは進行を再開する。


 やり取りの中分かったことは、魔人族領では何かしらの事情で精霊の数が減ってしまったこと。ただでさえ多い魔力量によって生み出される大量の魔素の中生きる知恵が、今心音たちの周りに広がる魔素の結晶群なのだろう。


 光が乱反射し、様々な色で煌めく。大氷原を連想させるその美しさは、何も知らないものから見れば魅力的な造形物にも見える。

 興味をそそられるのも当然か、心音はそっとその輝きに手を伸ばし――


『あ〜、やめといた方がいいよ。怪我したくなかったらね〜』


 触れる直前、ハリュウからの忠告を受け伸ばしていた指を引く。

 角張ってはいるが、そこまで鋭いものには見えない。その真意を問うべく心音が傾げた首をハリュウに向けると、そんな反応も慣れたものか、端的に解説してくれる。


『それ、魔素の結晶だからさ〜。ちょっとでも指先切っちゃったりすると、中々治らないよ。汚染されちゃうし、痛みも普通の比じゃないんだよね〜』

『わぁ……。ありがとうございます、危なかったですっ』


 尚更、国防的な側面も現実味を帯びてきた。今歩いている道もそう広くはないため、軍隊を率いてここを抜けるなんてことは不可能に近いだろう。


 そうこうしているうちに、道の先に営みの気配が感じられ始める。いよいよ街が近づいてきた。


 ふとハリュウが足を止め、街に入る前に、と忠告するように告げた。


『あ〜、そうだ。創人族なんて、魔人族の手にかかればひとひねりだってこと、忘れないでね。所詮あんたたちは進化を止めた劣等種なんだから』

『なんだと? それなら試……むぐ』


 今にも殴りかかりそうなヴェレスの口をシェルツが塞ぐ。そうする彼の目も笑ってはいなかったが、パーティとしてここで騒ぎを起こすリスクは負いたくない。


 見下すような視線をヴェレスから逸らしてハリュウは再び街へ足を向ける。


 魔人族領での第一印象は最悪である。

 やはり創人族の伝承にあるような野蛮な民族なのではないかという疑いが心音の胸の内に浮かび、押し殺して首を振る。ここに来た目的は果たさねばならないと、結晶群の先を目指した。


♪ ♪ ♪


 開けた視界に現れたのは、長大な城壁と一定間隔で突き抜ける(やぐら)。創人族が作るそれと比べて無骨に感じる造形をしているが、機能としては確かなものがあるとその規模が物語っている。


 国境沿いの軍事都市という言葉が似合うその外観に圧倒されていると、ハリュウが肩越しに振り返り薄紫色の瞳を流す。


『見ての通り、おれたちの関所を抜けた人はそこに見える軍事都市ロンドジークを迂回することはできないからね〜。だから、本当は行先がハッキリしている入領者にここまでついてきたりはしないんだけど〜……』


 ゆっくりと顔の向きを都市の方へ戻し、ハリュウは続ける。


『あんたたちは例外だからさ〜。軍の治安部に連れてくから、彼らに監視されながら国を歩いてちょうだい〜』

『そうですね、それも当然でしょう。俺たちも無用な争いは起こしたくはありません。相応しい処置に従います』


 ハリュウの言も尤もであろう。シェルツが代表して了承を示し、一行は都市へ向けて歩みを再開させた。




 巨大な城門の横に設けられた小さめの門。それでも十分な高さを誇るそれは開け放たれており、人通りの無さから退屈そうにしている番兵が二人両端に控えている。


 一直線にぐんぐんと先導するハリュウに付いていけば、番兵二人はハリュウの顔を見て少し驚いた顔をした後、後ろに続く心音たちを確認して眉を(ひそ)めた。

 ハリュウと番兵が何やら魔人族の言語でやり取りを交わす。そして再び心音たちに目を移すと、今度は〝対外念話〟を用いて会話を再開した。


『なるほど、それで創人族であるこの者たちを我らアーギス帝国に入国させる、と』

『そうそう〜。まぁ、ちょっとにわかには信じられないけど、その資格は持ってるみたいだからね〜』

『王家の血筋により正規に作成された手形と〝守り人の証明〟か。それならば我々で拒むこともできないな』

『まぁだいじょ〜ぶだよね。治安部にさえ連れて行ければ、軍としても安心でしょ〜』

『そうだな。それにハリュウに任せておけば、それまでの間に遅れをとることもないだろう』

『もちろん任せてよ〜。それじゃあ、通してもらうね〜』


 番兵が塞いでいた道から退く。

 いよいよ魔人族が暮らす都市に踏み入れる時が来た。

 緊張に喉を鳴らし、創人族の冒険者五人は境界たる門を潜った。


ブクマにポイントもいただけて、嬉しいです♪

いつもお読みいただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ