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精霊《ルフ》と奏でるコンチェルティーノ  作者: 音虫
第四幕 精霊と奏でるカルテット 〜重なる音色は心を繋ぎ〜
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4-6 静謐なる湖

 木々が拓け、視界いっぱいに広がるのは湾と見紛うほどの湖であった。

 静かに波が打ち寄せ、岩石質の水際に当たり穏やかなリズムを奏でている。


 そして、注目すべきはその中心、湖に浮かぶ小島である。

 外界から隔離されているようなそこには巨大な岩石があり、その周りをスイセンに似た青い花が飾っている。

 岩石には簡素な装飾がなされた洞穴があり、何かしらの儀礼的な雰囲気を感じる。


 伝承にある青い花。遠くに見えるそれに確証めいたものを感じ、心音はクゥに喜びの声をかける。


『やったね、クゥちゃん! きっとあれが〝青い花〟だよ! 早く採って来なくちゃっ』


 飛び跳ねはしゃぐ心音に対し、ヴェレスが首を捻る。


『でもよ、どうやって取りに行くんだ? 結構距離あるぜ?』

『泳ぐのだ。ここでは魔法も使えない』


 間髪入れずにバサりと言い切ったヴルの言葉を聞きアーニエが手のひらを掲げる。米粒大の水滴が弾けたのを確認し、眉を顰めて上げた手を下ろす。


『本当ね、少なくとも対外的な魔法は霧散するわ』

『〝身体強化〟もほとんど強度を保てないね。どうやら身体的な力だけで辿り着かなきゃいけないみたいだ』


 対内的な魔法を試したシェルツもため息混じりに報告する。

 体調に不調もない。〝対外念話〟も使えている。とはいえ、ごくわずかな魔法の行使しかこの場では叶わないらしい。


『この感じ〝凪の森〟に似てます』

『コトと俺たちが出会った場所……たしかに、魔法が上手く扱えない森っていうのには共通したものを感じるね』

『あの森にも、こんな空間があったんです。湖の周りには、不思議と魔物が寄ってこなくて……』


 心音の話を聞いて、シェルツは周りを見渡す。たしかに、あれ程多くの魔物がいる森にもかかわらず、この広い湖の周りには一匹たりとも魔物の気配がなかった。


 この湖が魔物避けの結界に似た効果を生んでいるというのだろうか。知的好奇心が刺激されるのを感じつつも、今大事なのはそのことではないと、シェルツは頭を振って方針を打ち出す。


『なんにせよ、湖を渡らなきゃだね。ヴルさんの言う通り、泳いでいくしか無さそうだれど……小島まで結構な距離があるね』


 心音も(くだん)の小島に目を向ける。凡そ目測で五百メートルくらいはありそうだ。

 泳ぎに慣れていない者にとって、その距離を泳ぎ切るのは容易ではない。同じことを思ってか、ヴェレスが意気揚々と肩を回す。


『それならよ、オレとシェルツが行ってまとめて採って来ようぜ! オレらならこれくらい余裕だろ!』


 名案だとばかりの発言に、シェルツは首を横に振る。


『いや、その間ここで待機してもらう皆が心配だ。魔法が上手く扱えないここで万が一魔物に襲われたら、基礎身体能力に差があるヒトじゃ容易にはあしらえないからね』


 冒険者たちが頭を悩ませる中、変声期前のあどけない声が会話の中に飛び込んできた。


『クゥも、がんばって泳ぐの。獣人族、げんきいっぱいあるの』


 言いながら、着ていたワンピース状の簡素な衣服を脱ぎ出す。

 この場で一番小さな彼女が決意を見せるのならば、大人たちがそれに応えない訳にはいかない。


『それじゃあ、みんなで渡っちゃちましょーっ!』


 心音の元気な声が木霊する。目標を確かに見据えて、一行は準備を始めた。


 武具や荷物をまとめ、衣服を脱いで綺麗に畳む。全員下着姿の軽い装いである。


 下着と言っても、冒険者が通常身につけるそれは機能性を重視し、運動性や速乾性に優れる。麻製のそれは見た目もシンプルで、下着姿になったところでそれほど羞恥を感じない文化が冒険者の間にはあった。


 とは言え、日本で育った心音にとっては些か布面積が少なすぎるようには感じてしまう。多少の恥ずかしさは覚えるが、今はそんなことは言っていられない。


 随分と軽装になった面々を眺めつつ、心音も湖畔に並ぶ一行に加わる。


 そして水面に右足を恐る恐る近づけ――


『つめたっ!』


 ――弾かれたようにその足を引っ込めた。


 その様子にアーニエが腰に手を当て笑いを飛ばす。


『っふふ、そりゃあんた、冬の湖よ? 冷たいに決まってるでしょ』

『そうですけどっ、思ってたより何倍も冷たかったです! 風邪ひいちゃいますよぅ』


 そうしてる間にも冬の大気は容赦なく素肌に吹き付ける。

 突き刺す寒さにじっと耐えていることほど辛いことは無い。すぐにヴェレスが小島を指さして声を上げる。


『どうせ冷たいことには変わんねぇんだからよ、さっさと行っちまおうぜ!』

『そんなぁ、でも、えーっと……あっ』


 引腰で悩みを転がしていた心音が、名案とばかりに表情を明転させる。


『そうだ、準備運動をしましょう! 身体が暖まれば、乗り切れるかもです!』


 その明るい声を受け、エラーニュが『そうですね』と引き継ぐ。


『冷水に体力が奪われることの危険性(リスク)は感じていました。ここはコトさんの考え(アイデア)に乗りましょう』

『たしかにそうだね。少しでも不安は潰しておこうか』


 聞きに徹していたヴルとロウが一瞬鼻を合わせ、意見を確認したのか心音たちの方を向いてヴルが口を開く。


『ならば、この湖の周りをひと周りしてみるのはどうだろう。外側からあの小島を観察することにも意味はあろう』


 たしかに、これから向かう先の情報を少しでも得ることは有意義になりえる。

 ナイスアイデアとばかりに、心音は元気にそれに乗った。


『それじゃあ、湖ツアーにレッツゴーですっ!』

いつもお読みいただきありがとうございます!

ブクマもいただけて、嬉しいです♪

少し短くなってしまいましたが、この後はボリューム増しでお送りします!

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