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精霊《ルフ》と奏でるコンチェルティーノ  作者: 音虫
第四幕 精霊と奏でるカルテット 〜重なる音色は心を繋ぎ〜
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4-4 危険地帯を進む

 再び訪れた〝剛秘の森〟の入口には、番犬のように控えていた狼の獣族たちの姿は無かった。

 首を傾げるクゥに対して、シェルツが腕を組みながら推測する。


『たぶん、俺たちが滞在している限り、見張りをすることは意味をなさないと判断したんだろうね』

『或いは他の事情か……。どちらにせよ、今は他に優先すべきことがあります』


 エラーニュの補足に頷き、六人は森の奥を見据える。


 クゥの先導に従い先へ先へと進むと、次第に木々の密度は濃くなっていく。

 用材林としての機能も果たしているのかと思われるが、奥に進めば運搬などの都合からほとんど伐採もされないのだろう。


 同時に歩きづらさを感じてきた真っ白な獣道を踏みしめることしばらく、心音の腕ほどの太さがある縄が横一線に張られているのが目に入った。


『嬢ちゃんに言われなくても分かるぜ、これが結界だな?』

『うん、怖い魔物はここからこっちには来たがらないの』

『そして、こっから先は魔物がうようよしてる危険地帯、ってことね』


 ヴェレスとアーニエの二人が背に担ぐ大きな得物をその手に移す。残る冒険者三人からもすぐにでも戦えるような気配が立ち上がった。


『クゥちゃん、探してる匂いは感じる?』

『うん、やっぱりここから向こうなの。まだ遠くだけど、近くなってきたと思うの』

『クゥちゃんのこと、絶対守るからね! 案内お願いっ!』


 やる気に満ちた心音の瞳に頷き、クゥは先陣を切って縄を跨いだ。遅れて冒険者五人も結界を抜ける。


 明らかに変わった空気感などは無い。しかし、辺りを見回すエラーニェが警戒を潜ませた声音を発する。


『コトさん』

『はい、今〝精霊の目〟を……。※五十(六十)歩圏内に大きな魔力の影が八つ、魔物だと思います!』

『かなり多いね。この人数で身を隠しながら進むのは至難の業だ』


 木々が多くすっきりとは見通せないが、肉眼でも幾つかの影が潜んでいるのが確認できる。

 まだこちらに気づいた素振りを見せる魔物はいないが、時間の問題にも思えた。


『極限まで気配を消して進むべきでしょう。一度戦闘になれば、一気に周りの魔物に知れて囲まれかねません』

『いいやエラーニェ、そうとも限らねぇみてぇだぜ。向こうを見てみろ』


 ヴェレスが指し示す方角を注視してみれば、大型トカゲ大の影がこれまた大きな一角兎の影に襲いかかっているのが見えた。


 トカゲによる空気を裂きながらの激しい攻撃に一角兎も抵抗するが、飛び退いた先にトカゲの鋭い尻尾回しが炸裂し、一角兎の絶命と共に背の高い樹木が一本なぎ倒される。

 それほどの激しい攻防にも関わらず、周囲の魔物は我関せずを貫いているように見えた。


『……なるほど、これがここの日常風景ですか』

『そういうこった。気を付けていれば、すぐに囲まれるなんてことは避けられそうだぜ』

『仮に戦闘になっても、長引かないようにすれば進んでいけそうですねっ!』


 小声でやり取りを交わし、静かに示し合わせて進行を再開する。


 木々がカモフラージェとなり、思っていたよりは魔物たちに気づかれずに進むことができていた。されども如何せん魔物の数が多く、戦闘を迫られる場面はすぐに訪れた。


 間合いを計りつつ、シェルツが六人を繋いだ魔力線(パス)を介して意思を伝える。


『(魔物同士の距離を考えて、左右を迂回するのは難しい。最も安全な経路は正面の虎を狩ることだけど……)』

『(近くには同型の魔物。吠えられたりしたら厄介ですね、仲間意識があるなら集まって来かねません)』

『(それなら、ぼくが〝音響魔法〟で声の響きを止めます! 音で気づかれることは無くなると思いますっ)』

『(いいわね。それじゃあ、あたしとヴェレスで仕留めるわよ。相手の硬度が分からない以上、高い斬撃の強度が出せるヴェレスのハルバードを喰らわしたいわ。あたしが目を潰すから、アンタは首を落としなさい)』


 作戦が決まり、各人が無詠唱で魔法を練り始める。

 心音、アーニエ、ヴェレスの三人がそれぞれ目配せし、示し合わせて作戦が執行された。


(消音(ミュート)しちゃえっ! 〝断音〟)

(超速で飛んで行きなさい! 〝水刃〟)

(〝身体強化〟! 一撃で仕留める!)


 射出された〝水刃〟は瞬きの間に虎の眼前に到達し、その視界を断ち切った。同時に虎は痛みの中で声を上げるが、それは少したりとも響くこと無く静寂が保たれる。

 視界が奪われ、聴覚にも異常を感じ虎が困惑しているところへ大上段にハルバードを構えたヴェレスがそれを叩き下ろし、音も無く虎は絶命した。


『(良い連携だよ、三人とも。さぁ、血の臭いが広がる前に先を急ごう)』


 とどめを刺したのを確認し、シェルツが待機組を引き連れ虎の横を抜ける。

 戦闘は最小限に抑えたい。

 この場に他の魔物が集まってくることを危惧し、六人は警戒しながら探索を再開した。


『(クゥちゃん、匂いの方角はこっちであってる?)』

『(うん、近くなってきたの。たぶんもう少しなの)』

『(よかったぁ、それじゃあもう一息だねっ!)』


 森の屋根から覗く日差しも、だいぶ傾いてきた。

 魔物が蔓延る森林地帯、夜間の移動はかなりの危険を伴う。若干の焦りを滲ませながらも、目的へ向けて足を前に運んで行く。


 幾分か、幾十分か。歩みを進めるうちに、〝精霊の目〟を発現させていた心音が小さな違和感を捉える。


『(……あれ、魔物の数が急に少なくなりました)』

『(言われてみれば、ほとんど気配を感じないね。縄張りか何かなのかな?)』


 心音の意志を受けシェルツは感覚を研ぎ澄ませるが、やはり張り詰めていた気配の網はどこかへと消えていた。


 疑問に思いながらも、進むしかないと歩みを続けていると、心音がハッとして意志を伝播させる。


『(前方(百二十)歩、すごく大きな魔力が見えます! やや小さな魔力も、近くに二つ!)』

『(密集した魔力反応……。争ってるのかな? 様子を伺いながら、迂回しようか)』


 報告を受けてシェルツが淡々と方針を伝えると、クゥが少し困惑した顔で心音を見上げた。


『(コトおねえちゃん、クゥが知ってる匂いなの。ちゃんとは思い出せないけど、コトおねえちゃんが言った方向から、知ってる匂いを感じるの)』

『(え!? つまり、クゥちゃんの知り合いってこと!?)』

『(分からないけど、たぶんそうなの。魔物じゃないの)』


 冒険者たちは顔を見合わせ、〝対外念話〟の特性を生かして瞬時に意見をまとめる。


『(魔物が蔓延る結界の外にわざわざ足を踏み入れる者がいるとは考えにくいね。でも……)』

『(クゥさんが知っている匂いということは、獣人族の人かも知れません)』

『(なによ、青い花を探しに来た人が他にもいるってこと?)』

『(その可能性が高ぇだろ、助けに行くぞ!)』


 進路を変更し、大きな魔力の元へ全員で直行することとした。

※約百メートル


いつもお読みいただきありがとうございます!

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本年もよろしくお願いします……!

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