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精霊《ルフ》と奏でるコンチェルティーノ  作者: 音虫
第四幕 精霊と奏でるカルテット 〜重なる音色は心を繋ぎ〜
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第四楽章 尻尾の生えた少女

四番奏者は紫色。

駆け抜く光は瞬きの間に

音を残して彼方へと。

遙かな先へ、力を称えて。



♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪



 ちらちらと雪が踊り、真っ白な太陽が六角形の結晶を煌めかせる。

 大小様々な民家が並ぶ通りを練り歩くのは、この場では少し珍しいヒト型の男女五人。その中でも特にご機嫌な心音とアーニエが軽やかなステップで足下の氷を砕く。


「ほんと暖かいわね、これ!」

「すっごくもふもふですっ」


 名誉獣族の証として贈与された火鼠の毛皮のローブ。その肌触りの良い着心地(きごこち)もそうであるが、やはり冬をそれと感じさせないほどの保温性には驚きすら感じる。


 季節的には一年間で最も冷え込む時期であるが、思いがけず快適な旅が送れそうであることに、はしゃいではいないがシェルツ、ヴェレス、エラーニュの三人も喜びが顔に滲み出ていた。


 獣族の国セイヴの町並みを、多種多様な獣族たちに紛れて歩みゆく。

 毛皮のローブから生えた耳がひょこひょこと揺れ、動物的な可愛さも醸し出されている。


 そんな五人が今向かっているのは、魔人族領につながる西門である。西門近くには魔人族が滞在する施設も多くあるらしく、魔人族とコンタクトをとりたいのであればもってこいの区画であると、酒場のマスターであるパンダのアダンから教えて貰っていた。


「俺、少し緊張してきたかもしれない。今まで会ってきた魔人族とは毎回厳しい戦いになっていたから、どうしても不安が拭えないや」

「シェルツさん、それはわたしも同じです。一人一人が一騎当千の魔人族、それが何人も滞在している区画に足を踏み入れるということを考えると……どうしても身構えてしまいます」

「そんときゃそんときだろ! オレたちは今までだって何度も危機を切り抜けてきてんだ、なんとかしてみせようぜ! がはは!」


 西門が近付くにつれ、街ゆく獣族の数が減っていく。獣族の国セイヴの中に在りながら、ある種、魔人族領との境界的な立ち位置にある区画なのだろう。


 獣影がまばらになった通りを進む。まばらであることがすれ違う者に対して目がいくことを手伝ってしまうが、その中でふと目に入ったヒト影から心音は目が離せなくなる。


「あれ、あの子の姿……獣族さん、なんですか?」

「あの姿は……あぁ、あれが獣人族ですね。だとすると、少し厄介な歴史的背景があると聞きました。積極的には関わらない方が良いでしょう」


 足を止めた心音の視線の先を追い、エラーニュが端的にコメントを残す。

 見た目は、ほとんどヒト種である。しかし頭上には狐のような三角形の耳が生え、その背中には白茶色の大きな尻尾が揺れていた。

 その少女の胸には両手で抱えられた(かご)が寄せられ、何かが幾つか乗せられているように見える。


「ぼく、ちょっと見てきたいです」

「あ、コトさん……。はぁ、まぁいつものことですが」


 エラーニュの制止をその場に残し、心音は獣人族の少女へ向かって駆けていく。

 近付いてみれば、彼女の後ろの路地にも幾人か同じように籠を抱えた獣人族の子供たちが隠れていた。


 そう身長差のない心音であるが、敢えて腰を屈め、目線を下げて少女に問いかける。


『こんにちはっ! それはなあに? お姉ちゃんに教えて!』

『わ、あの、えっと、これは木で作った装飾とか、お皿とか……』

『ちょっと見てもいいかな? わあ、かわいい! もしかしてこれはみんなで作ったの?』

『あの、えと、生活するお金、用意するために、みんなで作って売ってるの……』


 見れば、少女の尻尾に隠れている少年が小さな籠を持っている。代金を入れる籠のようだが、その中身には銅貨が二枚入っているだけであった。

 少女がもじもじしながら心音の頭上を見て、おずおずと口を開く。


『あの、お姉ちゃんは獣人族な――』

『コト、あまりあちこち行くと……おや、これは工芸品かな?』

『あ、シェルツさん! これ、この子たちの手作りみたいです! かわいいですよねっ!』


 心音に追いついたパーティの残り四人の登場に、少女は口をあわあわとさせる。


『わ、わ、大人の人がいっぱい……』

『お? なかなかおもしれぇもん作ってるな! しかしよく見えねぇな』


 ヴェレスが籠をのぞき込み、見るのに邪魔だと頭からフードを取り払う。途端。


『わああああ! ヒトだああああ!』

『連れて行かれたくないよぅ』

『早く逃げなきゃ!』


 蜘蛛の子を散らすように子供たちが路地裏に消えていく。状況が飲みこめない心音たちの前に残ったのは、心音と話していた狐耳の少女だけであった。

 目を白黒させながら、心音は独り言のように呟く。


『あれ? え? みんなどうしちゃったの?』

『……お姉ちゃんたちは、魔人族? 耳が尖ってないし……でも髪も光ってない』

『えーと、どっちでもないかな。ぼくたち、遠くからきた創人族っていうの』

『創人族……クゥ、聞いたことない』


 少女は戸惑いを瞳に映す。その揺れる瞳に向かって、心音は少女に問いかけた。


『もしかして獣人族のみんなは、ヒトから怖いことされたのかな?』

『えっと、獣人族は、ずっと昔に獣族がヒトに虐められて生まれたって教えられてるの。どうして虐められると獣人が生まれるのかは知らないけど……』


 少女には濁して伝えられている獣人族の起源。察するに、獣人族とは獣族とヒト種のハーフを祖先としているのだろう。

 通常であれば生物的に離れた種族同士で子が産まれるはずもない。それを可能せしめた手法があるとするならば、十中八九非人道的な実験や研究であろう。

 つまり、彼らは歴史に怯えているのだ。そう判断して、心音は優しく微笑みながら少女に伝える。


『大丈夫、ぼくたちは酷いことはしないよ。怖いヒトたちばかりじゃないから』

『……うん、知ってる。でも、魔人族の人たちは、クゥたちのこと〝忌むべき存在〟って言ってイジワルするから』

『そっか、昔話で収まる話じゃないんだね……』


 獣人族の存在を巡っては、現在進行形で差別問題があるようだ。特に魔人族にとって獣人族にまつわる歴史的背景は、汚点とすら感じてしまうものなのだろう。


 あまり彼女たちの営みを邪魔してもいけない。そう思い、何か工芸品を買って立ち去ろうかと心音が考えたところで、ぐぅ、という音と共に、少女が恥ずかしげに俯いた。


『お腹空いてるの?』

『うん。冬はあんまり食べ物ないから』

『蓄えもあまりないのかな? だからお金を稼ごうとしてたんだね』

『食べ物集めてた森の道、通せんぼされちゃったの。だから、獣族さんたちから買うしかないの』

『通せんぼ……? いったい誰が?』

『獣族さんたちなの。この森は獣人族の森じゃないって』


 きな臭くなってきた。差別問題がエスカレートしているのだろうか。

 心音が振り向き、パーティに目で訴えかける。アーニエが殊更に嫌そうな顔をする。が、パーティ全体の空気感としては、もはや心音のお節介は慣れたもの、といった様子だ。


 心音は少女に向き直ると、元気よく意向を伝えた。


『ぼくたちをその森に連れて行って! 何かぼくたちにできることがあるかもしれないから!』


 少女はピンとこない表情を浮かべながらも、小さく頷く。少女の案内を受けながら、路地裏を進み獣人族の集落へと向かい始めた。

いつもお読みいただきありがとうございます!

ブクマもいただけて、嬉しいです♪

さて、第四楽章の始まりです!

新しい種族との邂逅をお楽しみください♪

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