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精霊《ルフ》と奏でるコンチェルティーノ  作者: 音虫
第四幕 精霊と奏でるカルテット 〜重なる音色は心を繋ぎ〜
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2-3 探索と異変

 族長への謁見から一夜明け、朝日が街並みを優しく照らし出す中、心音たち五人は広場で二十人ばかしの森人族と対面する。


 森人族の中でも魔法の扱いに長けた者を相手に、心音たちは魔法の指導をすることとなった。

 午前午後と二組みに分け、そこから更に五つのグループに別れて心音たち五人が指導にあたる段組だ。


 魔法を得手としないヴェレスが「教えるだなんてオレにはできねぇよ」とボヤいていたが、エラーニュの見立てではヴェレスが戦闘でよく用いる土魔法なんかは、森人族から見れば高度な魔法に見えるだろうとの事である。要は、難しい応用を教えるのではなく、基本的な考えを伝えられれば良いのだ。


 定刻を迎えたのを確認し、シェルツが代表して声を発する。


『改めて、俺たちは創人族の国から旅をしてきた冒険者です。魔力保有量の少ない俺たちが高い強度の魔法を発現させるために行っている工夫を、今日は皆さんにお伝えしたいと思います』


 心音たちが分散すると、森人族たちは嬉嬉として予め決めていたグループ単位になる。

 時間は限られている。早速、創人族による魔法の授業が始まった。


『つまり、魔法ってのは確かな理論の元に成り立ってるのよ。何に魔力を干渉させて、どうしてその現象が発現して、どういう作用を起こすのか。それを明確に想像(イメージ)できるかどうかで、魔法の強度は格段に変わるわ』


想像(イメージ)の固定化が大事なんだ。思い描いた事象が確実に顕現するという信念があれば、魔法は安定化に繋がるよ』


『魔力の放出量は一定に保つべきです。放出量が不安定だと、その分発現した魔法は揺らいでしまいます』


『あー、想像(イメージ)を補強するためにオレは武器を使ってるな。叩き下ろした武器が〝大激震〟を引き起こすって信じてるから、やっぱりすげぇ〝大激震〟が起きんだよ。ほら、魔法士が杖で対象を定めるのと同じだ』


『魔法は〝想い〟で補強されますっ! 誰かが強くかっこよく戦っていることが強く想えれば〝他者強化〟は強くなりますし、熱い炎やたくさんの水が本当に怖いって理解出来ていれば、その分魔法は強くなるんですっ!』


 各々のグループで指導が行われ、それは実践とともに形になっていく。

 身体の活性化にそのほとんどが使われているとはいえ、森人族が保有する魔力量は創人族よりも多い。正しい教えさえ受ければ、それが形となるのにはそう時間を要さなかった。


 昼時を迎える頃には、各グループとも達成感から来る笑顔で溢れていた。森人族たちの満足度は高く、対価として充分果たされるであろう。


「魔力を扱う器用さはあたしたちの方が上だけど、魔力量が多いってのはズルいわね。みんなきっとすぐにものになるわよ」

「そうだね。長い間中立でいられるわけだよ、持っている潜在能力が違うね」


 解散する午前組の森人族たちを見送りながら、アーニエとシェルツが感想を口々にする。

 魔人族といい森人族といい、彼らと渡り合うために創人族がどれだけ工夫してきたのかという事をヒシヒシと感じた。


 少し離れたところで森人族と話していた心音が、何かを受け取って駆け戻ってきた。その手に持つ籠から芋を取り出して高々と掲げる。


『お昼ご飯にどうぞって貰っちゃいました! これを食べて午後もがんばりましょーっ!』


 森人族の主食にも慣れ親しんできた。良い塩梅の丸太に腰掛け、五人は午後へ向けての英気を養った。


♪ ♪ ♪


 翌早朝、心音たち五人の姿は〝守智の森〟を目の前にした街外れにあった。


 〝重力魔法〟の概念を封じた魔法装置は森の奥深くで管理されているらしい。そこで〝大いなる意思〟に認められれば重力魔法の会得が許されるとのことである。

 魔法装置を内包する遺跡までの案内はフーリィが買って出てくれた。今は彼女を待ちながら各々が身体を動かしているところだ。


 武器の具合を確かめていたヴェレスが待ち時間を埋めるように話題を投げかける。


「 〝大いなる意思〟に認められれば、って言ってたけどよ、やっぱり何か試練とかあんのか?」

「どうだろうね。可能性としては実力を試されるか、知識を試されるか……」

「あるいは人格を見極められるか、でしょうか」


 シェルツに続けてエラーニュが予想を提示する。重ねて、心音が疑問を連ねた。


「そもそも、“大いなる意思。ってどんな存在なんでしょう? すっごく長生きしている森人族さんとかでしょうか!」

「その辺りもはぐらかされちゃったよね。そういう存在なのか、抽象的な表現なのか」


 族長やフーリィに質問しても、詳しくは教えて貰えなかった。言えないしきたりでもあるのか、それすらも試練の一部なのか。


「まぁ、考えすぎても仕方が無いわ。その時に考えられる最善で動くだけよ」


 アーニエがそう言い身体の周りで遊ばせていた水球を霧散させると、ちょうど街の方からフーリィがやって来た。


『みんなおはよ〜! お待たせしちゃったかな?』

『大丈夫ですよ! よろしくお願いしますっ!』


 その明るい声に注目すれば、弓と短剣で武装していた。これから入るのは危険な獣もいる森林であるから、当然といえばそうであろう。


『さ、いこっか! 結構歩くから、迷子にならないようにね〜!』


 〝守智の森〟ではぐれてしまっては一大事だ。元気よく森に足を踏み入れるフーリィを見失わないよう、一定の緊張感を保って心音たちは後に続いた。


♪ ♪ ♪


 繰り返し聞こえる多様な生き物たちの鳴き声。

 木々を縦横無尽に駆け回る動物や虫たち。

 見渡す限りの緑、緑、緑。


 街を出てから約二時間。安定しない足場に疲労が溜まってきた頃ではあるが、一向に到着する気配がない。

 パーティ内ではもっとも体力がない心音が案外平気そうな顔をしているのは意外であるが、それもそのはず、ベジェビの山道での教訓を生かし、今回は初めからしれっと〝身体強化〟を施していた。


 とはいえ、身体的負担と、同じような景色が続く精神的疲労は別である。いよいよシビレを切らしたアーニエが悪態をついた。


『あーもう! どこ歩いてるかもさっぱり分からないし、いつまで歩けばいいのよ!』

『ふふふ、焦らない焦らない。でもおかしいなぁ、そろそろ聞こえて(・・・・)きてもいい頃なんだけど.......』


 フーリィは窘めつつも、少し困ったように首を捻る。何かしらの目印が得られてもいい頃合であるらしい。


『んー、とりあえずもう少しだと思うし、そろそろ前もって説明しておくね! これからたぶん――』


 言葉を切り、振り向きざまに弓を番えて放つ。

 フーリィが放った弓矢は飛びかかってきていた大型の虎の腹部に命中し、怯ませた。


『みんな気をつけて! エスフル大虎は群れで行動するの!』


 短く注意喚起し、再び弓を番える。

 彼女に従い、心音たち五人も臨戦態勢を整えた。


 周囲を見渡し警戒する。鬱蒼と生い茂った木々のせいで視界が悪く、また元々生き物が多く生息しているここでは気配も察しかねる。

 先程飛び掛かってきた虎と睨み合いが続く中、〝精霊の目〟を発現させ周囲を探っていた心音がやや焦りを見せる。


『既に囲まれています! 数は六、七……合わせて八頭です!』

『ひぇ~困ったなぁ。わーだけなら木の上を走って逃げられるんだけど……』


 ちらりと後ろを見てはにかむと、フーリィは弓を構えなおして問いかける。


『キミたち、すごい冒険者なんだよね? あれを八頭相手にして切り抜けられそう?』

『ハッ、当然。オレらは今まで何度もこれよりやべぇ死線を潜ってきたぜ!』


 返答と同時にヴェレスが腰を落としハルバードを腰溜めに引き絞る。

 他の面々の回答も、それに準ずるものであるようだ。誰一人として弱音を吐かないパーティ五人の様子をみて、フーリィは安堵に口角を上げる。


『ふふふ、森人族の戦士たちでも少しは身構えるんだけどなぁ。頼りにしてるよ、冒険者さん!』


 フーリィが引き絞っていた弓を放った。それは睨み合っていた虎の額に吸い込まれ一撃のもとに葬り去る。

 同時。

 七方向から一斉に虎が現れ鋭い爪を振るうも、エラーニュが全方面に張った〝防壁〟に当たって弾かれ、その隙に飛び出したシェルツとヴェレスが二頭ずつ、アーニエと心音が射出した〝水槍〟でそれぞれ一頭ずつ仕留めた。

 残る一頭は後ずさり、びくりと身体を震わせた後に身を翻して逃げていった。


『おやおや? エスフル大虎が背を向けるだなんて珍しい。例え仲間がやられても絶対にひるまない種なんだけどなぁ』

『それだけオレらの実力が圧倒してたってことだろ、ガハハ!』


 首を傾げるフーリィに、ヴェレスが胸を張って笑い飛ばす。

 張っていた空気が緩む。

 気を取り直して進行を再開しようとしたところで、心音が足を止める。


『……コト? どうしたの?』


 シェルツの声がけに、心音が青ざめた顔を向ける。


『えっと、嫌な音を感じます。たくさんの動物の足音がドドドって……こっちに向かってきてますっ‼』


 それを聞いたフーリィがトントンと木を蹴り上がり登ると、遠くを見渡す。


『あちゃー、ヌシ様が暴れてるね。ここ何十年も無かったんだけどなぁ。さっきの虎はこれから逃げてたんだね。大丈夫、落ち着いてわーに付いてきて。進行方向と垂直に逃げれば大丈夫だから……わわっ』


 先頭グループから抜きんでて走っていた大型の猪がフーリィが登っていた木に激突し、折れた木は心音たちから離れるように倒れていった。


『やっばい! みんな! できるだけこの辺りから動かないで! 絶対に迎えに来るから!』


 フーリィが叫んだその言葉は心音たちに届くことなく、間髪入れずに押し寄せた動物たちの大群の足音によりかき消され、両者の間を分断していった。

 やむを得ず後ろ後ろへと退避し距離を取る。木々が視界を埋めつくす中、心音の〝精霊の目〟が最後に捉えたのは、木々をなぎ倒しながら駆け抜ける二階建ての家屋ほどの体躯を誇る何かの影であった。



いつもお読みいただきありがとうございます!

ブクマもいただけて、嬉しいです♪

別名迷いの森で案内を失った心音たちはどうなるのか……。

次回もお楽しみ下さい♪

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