1ー3 森の国観光
鼻歌交じりに元気に歩くフーリィについて街を往く。
ティネルが心音たちを紹介したあの場に居なかった者たちが創人族がこの場にいることに好奇の視線を向けるも、フーリィが楽しげに彼らを引き連れていることを確認すると納得したように顔を綻ばせた。
少し歩いた先、フーリィが腕を後ろ手に組みながら振り返り、心音たちをその瞳に映す。
『あらためまして、わーはフーリィって言うの。今の森人族の族長は、わーのお父さん!』
『わ、フーリィさんはお姫様なんですね!』
『ふふふ、この国に王様は居ないから、ちょっと違うかな。族長はみんなの意見を集めて決めるの!』
思わず驚きの声を返した心音と同様に、パーティ五人はそれぞれ驚きを示した。
国の長が世襲ではないことについてもそうであるが、国家元首の娘が護衛もなしに出歩くなど創人族の国では考えられなかったからだ。森に守られたこの国ではその常識は通用しないのだろう。
『そうそう、あなたたちのお名前を教えてちょーだい!』
この都市に着いてから、まだ一度も自己紹介をしていなかった。シェルツから順に、五人は順番に自己紹介をした。その流れで、ハープス王国から旅をしてきたことも伝える。
『わー、勉強したから知ってるよ! ハープス王国って大陸の東端の辺りだよね? すっごく遠くだぁ』
しみじみとその距離に思いを馳せるように頷き、フーリィは続ける。
『それじゃあ、せっかく来てくれたんだからきちんと案内しなくちゃね! わー案内好きなんだ〜』
楽しげにくるりと回るフーリィを見ていると、気持ちが明るくなる。案内役がフーリィみたいな人で良かったとそれぞれ感じていると、心音がその気持ちを代弁する。
『フーリィさんのおかげで、この国の旅も素敵なものになりそうですっ! それに、同年代の人の案内で、話しやすくて嬉しいです!』
ピクリと、フーリィの長い耳が動く。
『ふふふ、若く見られるのは嬉しいけど、わーはたぶんキミたちの誰よりも年上だよ』
イタズラっぽそうな笑みを浮かべてこの国の民について説明してくれる。
『森人族はね、あんまり日常的に魔法は多用しないんだ。だから創人族のキミたちより多めに作られる魔力は、ほとんど身体の活性化に使われて、創人族のみんなよりも長く若く生きられるんだよね』
初めて来た他種族の国。種族による違いを目の当たりにして、いよいよ異文化交流の実感が湧いてきた。
『.......あ、着いたよ! ここがファイェスティアで一番おっきな畑! 驚け驚け〜!』
『えぇ〜!? これが畑なんですか!?』
目の前にそびえ立つそれは、心音たちが想像する畑とは似ても似つかない、まるで塔のような出で立ちをしていた。
その全容を驚きと共に観察し、エラーニュが思考を流し、シェルツも反応を返す。
『これは.......各層が大きな植物の根で繋がっているのでしょうか? 天頂部に生い茂る樹木、もしかするとあれが全層繋がっているのですか?』
『つまり、最上階でまとめて光合成して、各層に栄養を送っているってことかな?』
二人の考察に、フーリィは目を丸くする。
『すっごーい! 初めて見たのにそこまで分かっちゃった人なんて、今までいなかったよ! キミたちは特別頭がいいんだね!』
より畑に近づき、その様子を観察する。土は湿っており、どうやら上の階層から水が滴り落ちてきているらしい。フーリィが土を掘り返してみると、大きな芋が顔を出した。
『ここで育ててるのは、わーたちの主食なんだ。美味しいんだよ〜! 大きな根っこが地下から天頂まで水を吸い上げてくれるから、水やりも要らなくて楽ちん!』
見たところ大きすぎないこの都市の人口を考えるに、食糧問題が一気に解決できそうな作物である。創人族の国にいては想像すら出来なかったであろうその様相には圧巻されるばかりだ。
『あとは〜、狩りで使う武器庫とか、集会所とか、加工屋さんとかお食事屋さんとか見て回らなきゃ! 着いてきてね〜!』
次の目的地へすっと切り替えるフーリィは、やはり案内慣れしてるみたいだ。
最初から大きな衝撃を受けた心音たちは、これから見る異文化に気分を高鳴らせつつ、軽い足取りでフーリィに続いた。
♪ ♪ ♪
弓矢や短剣が収められた武器庫、藁が敷き詰められた自然の香りがする集会所、狩った獲物や採集物を煌びやかな装飾品や生活品に仕上げる加工屋などを見て回った後、少し遅い昼食にとフーリィと心音たちは小さな食堂に腰を落ち着かせた。
注文をフーリィに任せ十数分、六人がけのテーブルに乗せられたのはエスニックな風情が漂う肉料理であった。
『おぉ、いい分量じゃねぇか! 美味そうだぜ』
大食らいのヴェレスが嬉しそうに口の端を上げる。
鳥の肉であろうか、大きな骨が突き刺さったままの肉塊の周りに、色とりどりの野菜が飾られている。各人に配膳された主食は、勿論あの畑で見た大きな芋を蒸かしたものだ。
各々が料理を口に運び、異文化の味を楽しむ中、アーニエの率直な感想が飛び出る。
『あら、香辛料が効いててなかなかいけるわね』
『そうなの! エスフル共和国の料理は香辛料の文化だからね!』
香辛料には食欲を促進させる効果もあり、山のように盛り付けられていた料理もあっという間にその量を減らしていった。
食卓も落ち着いてきた頃、アーニエがちょっとした疑問を投げかける。
『この国って、やっぱり自給自足が基本なのかしら? 交易もあまりなさそうだけど』
『そうだね〜。作物は畑で作ってるし、お肉は森に出て狩ってくるんだよ!』
フーリィの口から出た狩りという言葉に、ヴェレスが反応する。
『お、野生動物を狩るのか? 森人族たちはどんな狩りをするのか気になるぜ!』
『ふふふ、それじゃあ午後の狩りについておいでよ! ラネグもそんなことを言ってたなぁ。彼は飲み込みが早かったよ!』
多彩な植物が生い茂る〝守智の森〟での戦い方は、きっと他の森林戦とは違ったものになるだろう。それすらも楽しみだと、ヴェレスは両の拳を打ち付ける。
『それじゃあ、わーは武器庫に弓を取りに行くけど.......キミたちも弓を使う? それとも慣れた武器で挑戦してみる?』
『弓は使わねぇ、オレのハルバードは身体の一部みてぇなもんだ。お前らはどうする?』
弓を扱えるものはこのパーティにはいない。不慣れな武器で右往左往するよりは、環境に合わないとしても扱いに長けた戦い方で臨んだ方がいいだろうと、満場一致で決定した。
『ふふふ、初めてで一体でも仕留められるなんてことも中々ないんだから、気楽にね!』
狩りで貢献出来たら少しは案内の恩返しになるかな、等と考えるメンバーも少なくなかったが、それは取らぬ狸の皮算用というものだろう。
初めて見ることになる森人族の戦い方に期待を寄せつつ、五人はフーリィに続き席を立った。
いつもお読み頂きありがとうございます!
ブクマも頂けて、嬉しいです♪
森の国の物語、ゆるりとお楽しみください!