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精霊《ルフ》と奏でるコンチェルティーノ  作者: 音虫
第三幕 精霊と奏でるグラントペラ 〜広がる世界、広がる可能性〜
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4-11 闇に浮かぶ

 満身創痍での帰国。

 戦果は上げられなかった。

 たった一人に半壊させられ、圧倒的な力量差により犠牲を出してしまった。


 得られたものは、魔人族の膨大な魔力量を体感したことと、何故今まで前線には魔物を送るだけで魔人族本人たちが参戦しなかったのかという疑問だけだ。

 その気になれば、いつにでもヒト族の砦など落とせていたように思える。


 暗い絶望感の中アディアの砦に辿り着いた将軍ラネグを待っていたのは、報告を求める国王からの招集である。当然であろう。出発したかと思えば、その数時間後には統率もない疎らな兵が帰国してきたのだ。


 ありのままの報告をするべきだろう。その為に複数人の証人が必要であるが、最後まで魔人族と相対したのはラネグと心音たちパーティメンバーだけだ。将軍たっての希望で、心音たちも国王への報告に同行することとなった。


 決して華美すぎず、周囲の様子と比べて初めて国王謁見の間と判別できる程度の扉を、城務めの兵士が両側に開く。


 入室する前に、各人が武器を兵士に預ける。今回は臣下ではない心音たちもいるため、暗殺の類を警戒してのことだ。


 ラネグを先頭にイダと心音たち合わせて七人が入室すれば、国王の不機嫌さが滲む顔が待っていた。

 国王の両側には宮廷魔導師が心音の身の丈ほどの杖を片手に控えている。


 ラネグたちは国王の手前まで歩を進め、膝をつく。


「将軍ラネグ、魔人族領への侵攻から帰国致しました」

「随分と早い帰りだったな、将軍よ。まさかこれ程の好機に戦果も上げられず尻尾を巻いて逃げ帰ってきたとでも言うんじゃなかろうな?」


 冷たく重い声音がラネグにのしかかる。

 その重圧にやや眉を寄せつつ、より深く頭を落とし返答する。


「にわかには信じ難いことかとは思いますが、ありのままを報告致します。我々侵攻軍は、たった一人の(・・・・・・)魔人族に半壊させられました」

「.......なんと申した。この場で虚言の類は許されないぞ?」


 眉を釣り上げラネグに鋭い視線を向ける国王に対し、ラネグの後ろに控えていた心音が臆すことなく彼を援護する。


「本当です、王様! 魔人族の持つ魔力はすごく大きかったんです。一人だから助かりましたが、複数でこられていたらぼくたちも.......」

「そのような話信じられるか! たった一人の魔人族相手に我が国の精鋭部隊が壊滅状態だと? それでは今まで戦線が拮抗していたことの説明がつかないではないか!」


 激昂する国王に対し、明確な反論の言葉が思いつくものはいなかった。その事はまさにラネグたちも疑問に感じていた事だからだ。

 杖を床に強く突き立ち上がった国王であるが、彼とて愚王ではない。すぐに冷静さを取り戻し、ラネグに詳しい話を促す。


「しかしまぁ、将軍が嘘をつく利点もない、か。帰国した疎らな兵だけが事実であるな。将軍、ことの次第を申してみよ」

「はっ。順調に進軍していた我が軍ですが、魔人族領に近づくと設置型の遠隔魔法が多数敷かれており――――」


 ――――突如、辺りを暗闇が支配した。


 謁見の間を照らしていた照明器具が割れる音を遅れて認識する。窓も暗幕に覆われたように光が遮断されている。


「――っ、魔法が発現しません」


 焦りを滲ませたエラーニュの声が心音の耳に入る。ここに来て、謁見の間では古代から伝わる魔法陣によって魔法の使用制限がかかっているとラネグが言っていたことを思い出した。


「静まれ、慌てるでない!」


 国王の一括と共に辺りが照らされ、光る杖を掲げた国王の姿が現れる。魔法の制限は特定の人物を除外しているらしい。


 皆が国王に注目する中、黒ずくめの影が国王に迫り来るのを見てラネグが駆け出す。


「国王陛下!! 暗殺者です、光をお納めください!!」


 国王も暗殺者を視認し、光を消してその場を飛び退く。刃が空を斬る音が場に響いた。


「宮廷魔導師たちよ、奴を始末せよ!」


 国王はこういった時のために控えさせておいた宮廷魔導師二人に指示を下す。しかし、帰ってきたのは困惑の声だった。


「へ、陛下。魔法が発現しません.......!」

「さっきから幾度も対応しようとしているのですが、何故か魔法が使えないのです!」


 この場で魔法が使える特例である宮廷魔導師が戦力にならない。不測の事態にさしもの国王も焦りの色を強める。


「将軍よ、そなたなら対応できぬか!」

「先の戦いで魔力が枯渇し魔法が使えませんが、この身に変えてでも拘束してみせます。しかし陛下、今は私の後ろに」


 国王の傍で返された声。国王の身を第一に案じ既にラネグは国王の元に駆けつけていたが、正直なところ魔法も使えない暗中で武器を持った相手を丸腰で組み伏せられるかは確実なものではなかった。


「シェルツ、やれるか?」

「気配だけを頼りに接近しての肉弾戦なら.......危険性は高いけどやるしかないね」 


 シェルツとヴェレスが苦肉の策を打ち出し気配を伺い始めたところで、トーンの高い桜色の声が彼らを制した。


「ぼくの〝精霊の目〟が暗殺者を捉えました! それが使えたということは、精霊を介した擬似魔法なら使えるみたいです!」


 その声を残し、風を切る音。心音が〝身体強化〟を施し暗殺者の元へ急行したようだ。


 国王はラネグの後ろに隠れ、またシェルツたちも近い距離で警戒していることから、いくら事前に目を慣らしていたとて暗殺者も対象を決めかねる。

 それほどの暗闇の中、〝精霊の目〟で視界が確保できている心音は正確に暗殺者へ向けて攻撃を仕掛けられる。


(火魔法なら暗殺者を中心に灯りを作れるよね。――〝炎斬〟!)


 心音は奇襲を狙い、無詠唱で魔法を発現させた。移動する暗殺者を狙い撃つよりも、接近して注意を集めつつ確実に攻撃を当てるために選んだ近接魔法だ。


 突如闇から現れた炎に暗殺者は足を止め距離をとる。回避され振り抜かれた〝炎斬〟が消えると同時、今度は飛び退いた暗殺者へ向けて心音が〝炎弾〟を飛ばした。詠唱破棄により威力も速度も落ちたそれは余裕を持って避けられるが、着弾地点で爆発を起こし敷物に燃え移ったことで、暗殺者を中心として辺りを照らす灯りとなった。


 ここに来てようやく、騒ぎを感じ取った兵士二人が謁見の間の扉を開き中へ入ってくる。同時に流入した光により全容が映し出され、暗殺者の姿が露になった。


「わ、忍者!」


 目以外のすべてを黒い布で覆ったその姿はまさに忍者と形容できるものであったが、暗所での襲撃に最適な衣装と考えれば合理的であり、心音の故郷のそれとは関係がないだろう。


「ちっ、簡単な仕事じゃなかったのかよ」


 謁見の間の外で控えていた兵がラネグたちの武器を持って駆け寄ってくるのを尻目に暗殺者は部屋の奥へ駆けだす。その先は国王の私室となっているが、なにか算段があるのだろうか。


「逃がしませんっ!」


 心音は柏手のように手を合わせて音を響かせる。得意とする音響魔法で増幅したその音は暗殺者の目の前で破裂し、さらに〝永響〟により頭の中で響き続ける破裂音に暗殺者は思わず耳を抑えてしゃがみ込む。


 その一瞬の隙があれば充分であった。暗殺者へ向かって踏み込んだシェルツとヴェレスが両サイドから抑え込み、落とさせた武器を蹴り遠ざけた。


 国王暗殺という一大事件は、ここに未遂で終結した。


いつもお読みいただきありがとうございます!

ブクマもいただけて、嬉しいです♪

第四楽章も大詰め。着地点は何処へ.......。お楽しみください♪

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