破戒僧め
「おい、遅いぞ。親を待たせるとは、お前・・・・」
季久美さんと話し込んでいてすっかり遅くなった僕は、
父親と待ち合わせの場所、未来書房に行った。
よっぽど僕の顔が怖かったのか、心配になった季久美さんも、
僕についてきたんだけど、父親は時間に遅れた僕を怒るどころか、
季久美さんを見て、言葉を詰まらせた。
「エリカ・・・・」
その時、父親が呟いた言葉を僕は聞き逃さなかった。
「初めまして。不良に絡まれていた私をこの駆磨君に助けて
もらいました。どうか、叱らないで下さい。」
「へえ~、こいつがね。そりゃあ、どうもご丁寧に。」
この破戒僧め。若くて綺麗な女の子を見ると、途端に愛想が
良くなる。ちょっとは、息子を褒めろ。
心配だから、送って行くという父親の誘いを神対応というのか、
丁寧に断り、季久美さんは颯爽と去って行った。
そりゃあ、そうだろうよ。でも、ちょっと惜しいような気がした。
それから僕たちは、父親の運転する大型の四駆で帰ったんだけど、
上機嫌の父親に対して、僕はずっと助手席で黙り込んでいた。
今日はやけに猪鹿町への道のりが長い気がする。雪景色を見ても、
ちっとも胸が弾まない。
「おや、今日はやけに静かじゃないか。あの女の子のこと、
考えているのか。」
「・・・・・・」
何も知らない父親のイジリも無視する。僕は、ポケットの中の
季久美さんにもらった義理チョコを握りしめていた。
「今は、我慢だ。事故られても困る。うちに帰ってからだ。」
僕は、心の中で呟いた。