髭のマッチョと決闘する
答えを出すことができないまま、毎月二回、恒例の
父親と買い出しに行く日を迎えてしまった。
行きの車の中で、父親に紅樂の件はどうなったと
聞かれるが、答えようがなくて困ってしまう。
そんな僕を父親は、面白がり、イジルから、ウザい。
「絶対に、高校生になったら、父親より強くなって、
ぶっ飛ばしてやるからな。覚えておけよ。」
僕は、心の中で呟いた。
蝶塚市は、もう春爛漫って感じだ。イオンモールの
玩具売り場では、もう五月人形になっている。
僕と父親はいつもの通り、買い物を済ませ、屋上の車に
積み込み、自由時間となった。
「いつも通り、未来書房で待っておれ。もし、前みたいに
遅れるようなら、館内放送をお願いするからな。」
「館内放送か。微妙だね。」
「もし、絵里香か季久美ちゃんに会ったら、宜しく。」
父親は、僕にそう告げると、去って行った。
本当に、病院に行っているのか、疑ってしまうし、本当に
行ったとしても、美人の看護師さんをナンパしているのでは
ないかと疑ってしまうんだな。
そんなことより、僕はどこへ行こうか、悩んでしまった。
「よし、ブックオフに行こう。うん、そうしよう。」
猪鹿町に住む者は、どうしても生活圏内が同じになり、
生活パターンも似たようになってしまう。イオンモールから
とにかく離れることにした。
久しぶりにブックオフに来てみたが、ここはやはり楽しい。
僕は、古着とか靴とかには興味がない。もっぱら、フィギュアを
見るのが好きだ。人並みに、ドラゴンボールやワンピースのキャラが
好きなんだけど、正直、萌え系の妹キャラには興味がなく、強く清く
美しいお姉さまキャラが好きなんだけど、僕のハートをキュンキュン
させるものは見当たらない。見つけたとしても、めっちゃ高くて
手が出ません。ゼロが、一つ多いかも。
「へえ~、そんなもの好きなんだ。」
後ろから声がかかった。僕は、嬉しくなった。振り返ると、やっぱり
季久美さんだった。
「はい、強く清く美しいお姉さまキャラが好きなんだけど、最近、
季久美さんを知ってからか、胸がキュンキュンしないんです。」
「お主できるな。」
「そうか、その侍言葉、五歳の時、・・」
季久美さんが、慌てて僕の口を塞ぎに来た。
「こら、それを言っちゃダメよ。まったく、母親のおしゃべりには
困ってしまう。」
その仕草が可愛くてしょうがない。髪の匂いも、体臭も、その
大人びた服装も、全部素敵だ。こんな女の子が僕と血がつながった
お姉さんかと思うと、凄く嬉しい。
「あのう、相談があるんですが。」
「いいよ、暇だし。どこで、話す。」
僕の申し出に、即答してくれた
二人でブックオフを出て、近くのモスバーガーに行くことにした。
禍福は糾える縄の如し。
この前、季久美さんに絡んだ二人組が、めっちゃ体格が良くて
強そうなマッチョを連れているのに、出くわしてしまったではないか。
「ビンゴ。今日は、兄貴を呼んだかいがあるぜ。」
「兄貴、こいつですよ。生意気な小僧は。」
「何だ、おまえら、こんなお子ちゃまにやられたのか。情けない。」
マッチョは、僕を見て、不敵に笑う。
「ヤバイ。こいつ、できる。打撃系だな。」
僕は、股間につり下がっているものがキューと縮上がるのを感じた。
絶対、こいつ高校生じゃないぞ。髭が濃すぎる。
「兄貴、油断しないで下さい。この小僧、何かやってます。」
「まあ、フルコンタクト空手の黒帯の兄貴の前では、お遊びでしょう。」
「ふふふ、まあ、見ておれ。」
マッチョは両手を高く上げ、フットワークを使いだした。
「大丈夫、警察呼ぼうか。」
「季久美さん、僕にもしものことがあったら、店内に逃げ込んで下さい。
警察もありです。」
「うん、わかった。」
季久美さんが後ろに下がると、僕は体が一番馴染んでいる少林寺拳法の
構え、一字構えを取った。お遊びと舐められたら、父親に申し訳ない。
「何だ、少林寺か。」
僕の構えで見破るとは、只のマッチョではないな。
しかも、左足を素早く踏み込み、右足でローキックを僕の左足に
ぶちかましにきた。バット二本くらい折る勢いでスピードがありすぎ。
十字受蹴には低いし、金的蹴膝受波返をしようとしたら、僕の
足が折れるだろう。僕は、どうしたらよいかわからなかったが、
体が勝手に動いていた。
内歩進の浪返しの要領で、ローキックを躱し、
そのまま、マッチョの右背後の死角に入り込み、入り身投げを
しようとした。
「させるか。」
マッチョは、僕を引きはがすかのように、右の裏拳で僕の顔面を
打とうとする。
ズバン
かろうじて両腕でブロックしたものの、圧倒的なパワーで、
頭がクラクラする。その隙を見逃すようなマッチョではない。
「沈みな。」
左の回し蹴りが、僕の右わき腹を襲う。十字受蹴を試みたが、
衝撃を吸収しきれず、蹴れない。腕が折れたかと思ってしまう。
「しぶといじゃねえか。」
猫がネズミをいたぶるような残酷な笑みを浮かべたマッチョは、
調子に乗る。左ジャブからの、右ストレート、左フック。
かろうじて、ブロックするも衝撃を吸収しきれず、ダメージが
蓄積してしまう。反応が遅れる。とうとう、右のハイキックが僕の
左後頭部に当たってしまった。左腕でブロックしてクリーンヒットを
さけたものの、一瞬、気を失いかけたが、本能的にマッチョの右足を
両腕でつかみ、巻き込み投げを試みた。
ズガン ドサッ
マッチョは投げられながらも、右手で受け身を取りつつ、左肘で
僕の後頭部を攻撃した。これは、利いた。視界が暗く、しかも星が
たくさん飛んでいるが、それでも立ち上がる。
マッチョも、受け身を取り損ねたのか、頭を振りながら、立ち上がる。
「まだ、続けますか。これ以上、やるってことは、殺し合いを
望むってことですよね。」
「だとしたら、どうする。」
「正直、僕はアナタに勝てません。でも、ムザムザ殺されません。
目ん玉の一つでも、もらいます。」
「・・・・・・・・」
後ろの季久美さん、高見の見物をしている二人組の顔色がさっと
蒼くなった。それほど、僕は、本気だった。その気迫が十分伝ったのか、
マッチョは構えを解いた。
「やめた、やめた。こんなことで、俺様の経歴に傷をつけたくねえ。
おい、小僧。なかなか根性あるじゃねえか。気に入った。一つ、
聞かせてくれや。その女は、お前の何だ。」
「はい、僕の大切な姉です。」
「そうか、大事にしろや。行くぞ。」
「あ、兄貴。」「え、えつ・・・」
二人組は名残惜しそうに季久美を見ながら、マッチョとともに
去って行った。
それを見届けた瞬間、僕は意識を失った。




