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恋するバレンタイン・キック  作者: 三ツ星真言
23/50

季久美さんの母親に叱られる

 僕はホワイトデーの催し物がしている売り場に、屋上の

駐車場から直行した。エスカレーターを駆け下りたよ。

「スゲエ~、こんなにあるんだ。」

 生まれて初めて踏み入れた未知なる領域・・・・。

 彪君が言ってたっけ、バレンタインデー、ホワイトデーは

日本の企業の戦略で、営利目的、販売促進だと。飲食業界も

巻き込み、経済の活性化に繋がると。確かに、言わんとすること、

120%納得だ。

 僕は、季久美さんの好みがまったくわからないけど、気に入って

もらえる物を選ぶことが、こんなにもドキドキして楽しいなんて

思いもしなかった。清水の舞台から飛び降りるつもりで、これだと

思う物を買って、ラッピングしてもらった。

 そして、待ち合わせのブックオフの駐車場に走った。

「行けたら、行く。」と、あの日、お寺の大きな楠の木の下で、

言ってくれた。その言葉を信じて、正直、来ない確率の方が

高いけど、僕は走った。

 駐車場に着いたけど、やっぱりいない。まだ、3時にはなっていない。

時間が早いのかと思って、暫く待った。十分は待ったかな。

 そしたら、季久美さんがやって来たが、一人ではなかった。

 彼氏だった方が、どんなに良かっただろうと、今でも思うよ・・・・。

 お母さんと一緒だった。とても高校一年生の娘がいるようには

見えない、若くて綺麗な大人の女だ。すごく色気がある。

 妖艶っていうのだろうかな、でも、とっても気が強そうだ。

「おい、にいちゃん。うちの娘とは、二度と会わんといてくれんか。

一切、連絡とらんといてや。約束やで。」

 この一方的に高飛車に上から目線の母親にカチンとしてしまった。

 季久美さんも下を向き、辛そうな顔をしていたせいもある。

「あのう、理由を教えてもらえませんか。義理チョコのお返しで、何故、

そんなにきつく叱られなければならないのか、納得できません。」

「義理チョコでも何でも一緒やさかい、アカンもんは、アカン。」

「僕は、お母さんがどんな立場でも、季久美さんは関係ないと

思いますが。」

「ガキのくせに、知ったような口を聞きよる。えらい、生意気やな。

 じゃあ、はっきり言うたるわ。私は、おまえの父親が大嫌いや。

 ブチ殺したいほど、憎んどるんや。私の名前は、絵里香えりか

 詳しいことは、隆寛に聞いたらええわ。ほな、さいなら。」

 僕が答える暇も与えず、絵里香さんは、季久美さんの腕を引っ張るように

去って行った。季久美さんの何とも言えない辛そうな顔が、悲しかった。

「マジかよ。」

 恥ずかしい話なんだけど、駐車場の片隅で、座り込んで泣いてしまった。

「父親は関係ないだろう。」

 季久美さんのために買ったプレゼントを握りしめて、僕は泣いた。

 こんなにも泣いたのは、初めてだ。

「義理チョコのお返しだろう。僕、年下だよ。付き合いたいととか、

彼氏になりたいとか、そんな大それたことなんか考えてないし、只

お話をしたいだけなのに、何であんなにきつく、鬼のような顔で

叱られなければならないんだよ。酷いよ。」

 考えてみたら、それも初めての経験で、僕はまったく免疫がない。

 僕が生まれてすぐ、母親は亡くなったし、僕が生まれる前に、父親方の

祖父母も亡くなったらしい。僕は、幼い頃から、自分で言うのは少し

恥ずかしいが、聞き分けの良い、素直で大人しい真面目な子だったので、

保育所でも、小学校、中学校と先生にあんなにきつく叱られたことない。

 町の人も、お寺の子ってことで、みんな優しくしてくれた。

「連絡するなって言われても、僕、スマホ持ってないし、連絡先も

知らないし、元々無理じゃん。高校生になったら、スマホ買って

もらえるけどさ、馬鹿にするな。」

 自分でも何を言ってるのかわからないほど、心がグチャグチャだ。

 でも、何かを言ってないと、そのままズルズルと地獄に落ちて

しまいそうなんだよ。

「こんな時、お父さんならピッタリの御仏の教え、禅語とか

話してくれるんだろうけど、僕は頭に浮かばないや。」

 自分で自分を励ますことなんか、200%無理。

 残っている自由時間、何もする気にはなれず、こんな時に何をして

いいかもわからず、僕はそのままずっとそこにいた。

 暦の上ではもう春だけど、僕の心は吹雪で荒れていた。

 止まない雪はないと言うが、この吹雪は止みそうにないよ・・・・。




 

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