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どうやら私、動くみたいです  作者: 長尾栞吾
第一章 ツクモノと轆轤首
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目的地は決定した

 そう言うと轆轤首さんは、私から半ば強引にノートパソコンを奪い取って凄まじい速さのタイピングを始めました。

 カチカチカチカチーー。キーを押す音が陽の光をいっぱいに取り入れた部屋で大きく鳴り響きます。私と違って轆轤首さんの手は大きいので、キーを押すスピードもそれだけ段違いに速いのです。うぅ、ちょっとだけ羨ましい。


「ここだよ」


 そして青白く光る画面を指差す轆轤首さん。その覗き込んだ画面の先に書かれていた単語に、私はある疑問を抱きました。


「徳島県……ですか?」


 四国の東端に存在する県である徳島県。そこに彼女は行きたいらしいのです。

 徳島県の事は私もあまり詳しくは知らないのですが、日本一低い山がある事ぐらいはテレビでやってたので知ってます。確かに私達が住んでいる雛形区からも結構離れてますので、旅行に行く場所としては名所もあっていいのかも知れませんね。


 けれど名所ならば他の県にも有名な場所はあるでしょうに、何故また徳島県なのでしょうか。

 単に変わった山を観たいだけなら有名な富士山がある静岡県、日本のマチュピチュ(でしたっけ?)がある兵庫県の方が良いと思うんですが。


「お前……今徳島県の事馬鹿にしなかったか?」


 ギクッ……。何でこの人はこんな時だけ勘が良いのかな。どうせならその勘をもっと他の所で活かせたらいいのに。例えばそう、競馬とか。

 ええい、やっぱり前言撤回です、轆轤首さんが賭け事に手を出してしまったら考えるだけでもゾッとしますよ。何てったって、似合い過ぎて怖い。


 そんな事は置いておくとして、いつまで経っても轆轤首さんが質問の意図を教えてくれないまま、約二分程が経過しました。

 馬鹿にしなかったかなんて言われても、まず私自身徳島県の事を詳しく知らないから仕方ないでしょ。 もういい加減答えを教えてくれてもいいんじゃないですか、轆轤首さん。


「ツクモノ……お前まだわかんねぇみたいだな」

「わかんないです」


 ここはもう何も言う事が無いので正直に返事をしました。

 幾ら考えたってわかんないものはわかんないのですよ、だって無から有を生み出す事は出来ないんですから。


「この旅行はお前を探す旅でもあるって言っただろうが!」


 すると轆轤首さんは突然、頭がわんわんするぐらいの大きな声で発狂しました。それはもう耳がキーンとするどころではありませんよ、寧ろぶっ壊れちゃいそうです。突然叫ばないで下さい!

 そして彼女は徳島県に続けてスペースした後、「妖怪」と打ち込み検索エンジンにかけ始めました。何やってるんだろう、そう思ったのも束の間、そこでヒットするサイトの数は私の想像以上の物でした。


 私は知らなかったのですが、どうやら徳島県三好(みよし)市にある山城やましろ町と言う場所は、妖怪の伝承が数多く残る、言わば妖怪村と呼ばれているらしいのです。

 かの有名な妖怪漫画家、水木しげるの漫画に出てくる“児啼爺こなきじじい”と言う妖怪の故郷でもあるみたいですね。


「妖怪村……って、こんな場所があったんですか?」

「……お前あれ程パソコン弄ってたのに知らなかったのかよ」

「全く眼中にありませんでした」


 と言うかそもそも旅行に関して私が着目していた点と、轆轤首さんが着目していた点とはかなりのズレが生じていたみたいです。だって私旅行って聞いてたものだからつい、楽しい事ばかりのプラン立ててるのかと思い込んでましたから。

 けれど轆轤首さんは違いました。彼女はこんな時でも、私の正体を探る事を忘れてはいなかったのです。


 轆轤首さんが画面を下にスクロールさせていく内に、私は彼女が行きたがってそうな名所らしき場所を見つけました。


「それでこの“妖怪屋敷”ってわけですか」

「ああ。ここに行けば山城町に住む妖怪の情報が得られると思ってな」


 なるほど、先の話は読めました。妖怪村と呼ばれる山城町に住まう妖怪達、そんな彼らと出会う事が今回の旅行の目的なんですね。

 そうなってくると当然、ある疑問も自ずと浮上してきます。それは実際にその地に伝承通り妖怪が存在しているのかどうか、です。


「因みに確証の方は……」

「そんなものは無ぇ」

「ですよね」


 まぁ完全に予想出来ていた反応につい苦笑いをしてしまいましたよ。しかし他の妖怪の方とのパイプが皆無な轆轤首さんと、実質その轆轤首さんとしか繋がりを持っていない私とでは正直、その行き当たりばったりな勘に頼る他ないのです。

 もしあの時のお爺さんが、あともう少しだけでも家に留まってくれていれば……。そう考えるだけで気が重くなります。いいえ、過ぎた事をとやかく言っても仕方がないですね。


 しばらく妖怪屋敷及びその周辺の情報を眺めていると、轆轤首さんは急に私の前に手を合わせて謝罪してきました。


「最初に言っとくがアタシも仕事があるからよ、日数は一泊二日で我慢してくれ。これだけは勘弁な」

「あ、そこは別に気にしないで下さい」


 彼女は私が旅行日数の少なさにガッカリしないかどうか心配だったようですけど、私は旅行に連れて行ってくれるだけでも十分嬉しいんです。日にちが少しぐらい少なくたって、文句は言いませんよ。

 それにさっきも轆轤首さんは言ってましたけどこの旅行は彼女が私を探す為に組んでくれた計画なんですから、私もしっかりそこで自分を見つけられるように一生懸命に頑張ります。


「じゃあ行き先の方は徳島県で決めていいな、ツクモノ」

「はい!」


 私は出来る限り声を張って返事をしました。そりゃあもう楽しみで仕方ありませんからね、元気な返事をするのも無理ありません。


「よし、ならお前は山城町で他に行きたい場所でもあるか調べておいてくれ。その間にアタシは今日の晩飯でも買ってくるぜ」

「わかりました」


 ここで再びノートパソコンが私の前に手渡されました。轆轤首さんは自炊しないので、またいつものように晩御飯を買ってくるみたいですね。ならその間に旅行に必要な物でも調べておくとしましょう。


 第一に着物の変えやお洋服は轆轤首さんが(こしら)えて下さったので安心です。

 本人が豪語した通り、轆轤首さんの裁縫の腕前はかなりの物でした。前の着物も私の中ではかなり気に入っていた物なんですけど、今私が着ている着物もそれに劣らない程の出来なんです。


 しかも彼女は着物だけに飽き足らず、私サイズのお洋服まで作って下さいました。中でもパーカーは特に愛用しています、私は汗を掻きませんので尚更です。

 あ、でもそれじゃあそんなに着替えなんて持っていっても意味ありませんか。


 結局何が必要なのかを考えた結果、食事をしなくてもいい私には何も必要ない事がわかりました。私って馬鹿だなぁ……。

 そうなると着替えが必要で、尚且(なおか)つ私を運ぶ為の大きなバッグも持っていかなければならない轆轤首さんは、大変どころの騒ぎじゃないですね。何だか申し訳ない気分でいっぱいです。


「ツクモノ! じゃあ行ってくるなぁ!」


 すると何故か玄関の方から轆轤首さんの声が聴こえてきました。えっ、あなたまだ家を出てなかったんですか。


「何処までもマイペースな人だなぁ」


 あまりの彼女のマイペースさに、私はつい声を漏らしちゃいました。けど轆轤首さんらしいと言えば轆轤首さんらしいですけどね。

 とにかく旅行、楽しみです。

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