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どうやら私、動くみたいです  作者: 長尾栞吾
第一章 ツクモノと轆轤首
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考慮と旅行

「こう見えてアタシはな、手先は結構器用なんだよ。だから昔はよく自分で着物を作ったりしたのさ」


 なるほどそう言う事でしたか。つまりは私の着物を天日干ししちゃった理由も、あの着物を私に諦めさせる為だったって事なんですね。

 だったらここで「自惚れるんじゃないよ、私はあの着物がよかったんだ!」なんて言っちゃったら、轆轤首さん絶対に悲しむなぁ……。


 わかりました。助けてもらった御恩もありますし、着物の件は轆轤首さんに任せることにします。


「じゃあ……轆轤首さん。着物の事、お願いしてもいいですか?」

「おう、このアタシに任せとけって。そうと決まれば早速作業に取り掛かるか!」


 すると轆轤首さんは走って玄関に入ってすぐにある暗い部屋へと行っちゃいました。

 にしても賑やかな人ですね、これでは返事をする暇も全くありませんよ。そんな彼女のペースにも、早く着いていけるようにならないと。


 でもこれで轆轤首さんとは仲直りは……出来たのかな。

 私ってこう言う経験がありませんので、少し不安な所もあるんです。もし轆轤首さんがまだ怒ってるんだったらどうしようとかって。

 ですが私は轆轤首さんじゃありませんし、他人の心が読める妖怪でもありません。それもこれから生きていく上でわかるようになるんでしょうか。いいえ、わかるようになりたいですね。


 何はともあれ、私から見れば仲直りは出来たように見えますので良しとしましょう。それもこれもあのお爺さんの助言のおかげです、もう感謝しても仕切れないぐらいですよ。


 思っていたより早く暇が出来てしまったのでお礼の言葉でも言おうかな。廊下とさっきの部屋はかなり近い距離にありますし。

 そう思った私は、すぐさまお爺さんの居る部屋に顔を出しました。


「お爺さーん」


 気味の悪いくらいの静けさに、虚しく響くまだ聞き慣れない私の声。大福の空き包装と湯のみはそのまま、そこにお爺さんの姿はありませんでした。

 トイレにでも行ったのかな、でもそれじゃあ轆轤首さんが見ていた筈です。どうやらお爺さんは私と轆轤首さんとが会話している間に、何処かへ行かれちゃったみたいですね。


 せっかくお礼を申し上げたかったのに……。この時の私は、何だか申し訳ない気分でいっぱいでした。

 でもまた、会えるといいな。そして伝えたいな、ありがとうの感謝の言葉を。


「お爺さん、また会え……」

「ツクモノ! リビングの引き出しに入ってるボビン取ってきてくれぇ!」


 そんな私の気持ちを考えもせず、轆轤首さんの声は家どころかこの建中に響き渡りました。私が言えた事じゃありませんが、ご近所迷惑も考えて下さい。

 全くあの人ときたら……。と言うかそもそもボビンって何ですか! 聞いた事無い物の名前を言われてもわかんないですよ!


「どれですかぁ轆轤首さん!」


 しかし声が出る事は素晴らしいですし、大声を出すのもこれまた気持ちがいい。御近所迷惑、やっぱり知ったこっちゃありません。


「これだよ。ここにあるやつ取ってくれ」

「ひゃっ!? ちょっと轆轤首さん、首伸ばしてこの部屋まで来ないで下さいよ!」

「悪りぃ悪りぃ」


 すると待ちくたびれたのか、轆轤首さんは自身の首を伸ばして私の部屋へと首を伸ばしてきました。

 自分の特徴を最大限に活かしてるなんて素晴らしい事ではありますけど、わざわざそれを私に見せつけるような真似はやめて欲しいです。昨日初めて轆轤首さんと出会ったので、まだ彼女の首が伸びる事に慣れてませんから。


 けどこう言う何気ない会話も、案外悪くはないですね。何だかここが私の居場所なんだなって実感が湧いてきます。

 出来る事ならお婆ちゃんともこんな会話をしてみたかったなぁ……。やだ、私ったら何を考えているのやら。


 *


『昨日未明、さいたま市雛形(ひながた)区の住宅から火が出て、この家の住人と見られる八四歳の男性が死亡しました。また今回の火災も前回同様何者かによる故意的な犯行と見て、警察はーー』


 たまたま轆轤首さんがつけたチャンネルが、昨日起きた放火事件のニュースを報道していました。


 雛形区は私達が住んでいる地区でもありますので、この出来事も他人事で見ている訳にはいかないです。しかもこの連続放火魔の犯人は高齢者の方ばかりを狙っているので、私も怒りを露わにしてしまいます。

 まぁ私がお婆ちゃんっ子だったからってのも、ありますけどね。


「もうこの放火で三件目だな。全く警察は何やってんだか」


 こればかりは早く犯人が捕まる事を祈るばかりです。もうこれ以上お年寄りの方が天命を全うせずに亡くなられるのは心が痛みますから。


 あの日からと言うもの、轆轤首さんの家での私の生活は百八十度変わりました。

 まず第一に、彼女は各部屋のドアに私専用の入り口を作ってくれました。それも県営住宅なのに無断で。

 流石に玄関のドアまでは貫通させませんでしたけど、過ごしやすくなった事に変わりはありません。感謝感謝です。


「ってかお前はせっかくアタシが休みだってのに朝からパソコン弄ってばっかりじゃねぇか」

「そうですか? 私はちゃんと轆轤首さんの話も聞いてるつもりですけど」

「本当かよ。じゃあこの前話した事だけどさぁーー」


 何よりノートパソコンなる物が手渡されたのは、私にとって一番大きな出来事でした。

 それによって轆轤首さんが仕事に出掛けた後の暇も解消出来ますし、更には自身の知識を深めるのにも役立っています。


 始めこそひらがな入力でしたが、今では毎日のように弄っているせいかローマ字もスラスラと打てるようになりました。

 私って熱中すると、自分でも恐ろしいぐらいの記憶力を発揮するらしいです。


 しかし結局の所私が一番調べたい事柄である「私が何の妖怪なのかと言う情報」は、三週間程経った今も見つかる気配はありません。

 そもそも妖怪がインターネットを使うってのも、おかしな話ではありますけどね。


「ーーおいツクモノ! アタシの話聞いてるか?」

「は、はい?」

「やっぱり聞いてなかったろぉ」


 いけないいけない、調べ物に夢中で轆轤首さんの話が耳に入ってきてませんでした。でもこんなに私を引き込んでしまうパソコンも悪いですよ、少しは自重した下さいパソコンさん。


「で、何の話でしたっけ?」

「ったくお前にパソコンなんか与えたらろくな事ねぇな。今週末の旅行何処に行くかって話だよ」


 そうでした。実はついこの間、轆轤首さんこんな事を言い出したんです。「少し休みが取れそうだから、県外に旅行でもしないか」ってね。


 そりゃあもう嬉しかったですよ、インターネットでも何処に行きたいのか県中の事を調べもしましたし。けれど私が住んでるこの街の事もあんまり知らないのに、いきなり他府県に旅行だなんて轆轤首さん早過ぎると思いませんか。

 私は少し早いと思いました。せめて段階は踏まないとってね。なので私はこう言いました。


『私この街の事を知りたいので、まだ旅行はいいですよ』

『はぁ? お前は市松人形なんだからこの町出歩かれるとバレた時大変なんだよ。せめて県外行こうぜ』


 でもあっさりと却下されちゃいました。当たり前です、轆轤首さんはもう二百年もこの町で暮らしてるんですから。そろそろ外の景色も観たくなってきた頃合いでしょうし、第一私がそれを拒む権利もありませんよ。


「轆轤首さんは何処に行きたいとか目星は付けたんですか?」

「おう、今回の旅はお前の手掛かりを掴む旅にしようと思っててさ、まぁちょっと貸してみな」

私は基本的に話は書き溜めをしているのですが、なんとこの物語の舞台としている都道府県にて、物語と類似した放火事件が発生してしまいました。


その為事件と物語との関連性が無い事を示すべく、小説の方にある注意書きを増やしておきました。

まぁ実在する地名を使っているので今まで増やさなかったのもおかしな話なんですけどね。


連続放火の犯人がいち早く捕まる事を、私としても深く願っております。

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