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どうやら私、動くみたいです  作者: 長尾栞吾
第四章 花子と恩返し
34/47

感想はそれぞれに

 ここからの展開はまさにあらすじの通り、花子が男の子に学校の七不思議を見せていくと言うものでした。

 なのでその後の展開については、ご想像にお任せします。


 映画が終わると、何やら人の名前がいっぱい流れてくるシーンへと切り替わりました。

 黒いバックに白い文字が淡々と流れていく光景は、中々にシュールですね。おそらくこれは、この映画の制作に関わった人達の、名前を刻む石碑のようなものなんでしょう。多くの人がこの映画に携わっている、そう思うと少し胸が熱くなります。


 大方人の名前が流れ過ぎた後、最後にはこの映画を制作したらしい会社の名前がアップで出てきました。

 この会社の名前には何処か聞き覚えがあるな、なんて事を考えていると、突然天狐さんはリュックサックから飛び出していた私の頭を、焦るようにして押し込みました。


「ちょっ……天狐さん?」

「もうすぐ部屋が明るくなるのを忘れておった。誰かに見られると厄介じゃからのう」


 私達以外にお客さんは居なかったと思うんですけど……。それに天狐さん、あなたが私の頭を出した時、まだ部屋は明るかったような気もしますよ。

 すると天狐さんはまたもやその考えを読み取ったのか、補足するよう「それもそうじゃな」と呟きました。しっかりしてるんだか抜けてるんだか、だんだん彼女の性格がわからなくなってきましたよ。


 上映場所から出た天狐さん達は、エスカレーターを下りながら今回の映画の感想について話していました。

 誰かと映画に行くと、自分の感想と相手の感想を共有出来るのはいいですね。一人で映画を観る時には無いメリットですよ。まぁ映画は今日初めて観たんですけど。


「あの『HANAKO』って映画、流石は不人気映画って感じのものでしたね」


 加胡川さんは今回の映画はあまり気に入らなかったみたいでした。対する天狐さんはと言うと、かなり高評価のようです。


「そうか? ワシはああ言う始めから目的がはっきりとした映画は好きじゃぞ。物語の進み方もグダグダしておらぬしな」」


 私の意見としてはどっちもどっちって感じですかね。

 確かに天狐さんの言う通り、今回の映画は始めから目的がはっきりと定まっていたものでした。けれど、よくも悪くもその通りに事が進んでいっていたので、加胡川さんの意見に同意せざるを得ないのもまた事実です。

 だって最もハラハラした場面が、花子が出てきたシーンだけってのは結構致命的でしたから。これには、万人ウケしない映画ってのにも納得です。


 でも映画を初めて見た私としては、思い出補正も合わさってかかなり有意義な時間が過ごせました。

 最後に花子が男の子に言った、「私達はずっとここにいる。だからいつでも遊びに来てね」と言うセリフも、七不思議はずっと存在し続けるって事を意味している気がして良かったです。まるで現代の妖怪みたいな感じがしました。


 大方この思考も天狐さんは覗き見済み、私にはこの話題が振られる事が無いだろうとは思っていました。この感覚は慣れてはいけないんだろうけど、もはや覗かれ過ぎちゃって慣れちゃいましたよ。

 けれど加胡川さんは違いました。彼は階級的に言えば天狐さんよりも下、神通力ってものもあまり多くはコントロール出来ないが故、私の心を読む事が出来なかったみたいです。


「ツクモノはどう思ったんだい?」

「わ、私ですか?」


 急に話を振られてしまい、つい動揺してしまいました。何から話せばいいのか戸惑っていると、天狐さんは私の感想を代弁して言ってくれました。


「お二人の意見とおんなじです、らしいぞ」

「君は今回の映画とおんなじで、口ははっきりしないのかい、ツクモノ」


 余計なお世話です、寧ろあなたにそんな事言われる程、私も落ちぶれちゃいませんよ。全く、加胡川さんの発言はいちいち気に触っちゃうな。

 リュックサックの中は彼には見えないので、思う存分あっかんべーをかましてやりました。自分が目の前で馬鹿にされてるのに気付かないなんて、ざまあみやがれです。

 すると私のすぐ上から「程々にしておけ」と聞こえてきました。


 今思えば加胡川さんにも他人の心を読む能力があったら、一体私と轆轤首さんはどうなっていたんでしょうか。

 妖狐の中でも天狐の位だけがこの力を使えるのはわかるんですが、もし今の加胡川さんでもその力が使えるようになったとすれば……。考えるだけでもゾッとします。


「ではワシらも、昼食と夕食の材料を買って家に帰るかのう」


 映画館を後にした天狐さんは、この階に来る時にも乗ったエレベーターと言う物の中に入りながら、ふとそんな事を口にしました。


 この地に来る途中、映画の半券で食事が安くなるとかなんとか加胡川さんが言っていたので、私はてっきりお昼ご飯はここで食べるのかとばかり思っていました。けれど今の天狐さんの気分は、加胡川さんの料理の気分みたいです。

 どうやら加胡川さんも同じ疑問を抱いていたらしく、困ったような表情で天狐さんの方へと振り返ります。


「お昼はここで食べないんですか?」


 まるっきり私と同じ疑問でした。もしかすると、いいえ、もしかしてであって欲しいんですけどね。私と加胡川さんって、案外気が合うのかも知れません。

 さっきは気に触るとか言っちゃってましたけど、やっぱり加胡川さんはそう言う方だから、ある意味仕方がないとも思います。私の彼に対するイメージは、嫌な人で定着しちゃってますし。


「でないとツクモノが飯にありつけんじゃろう?」


 加胡川さんの問いに一切の間も空けず、天狐さんはあたかも当然のような口ぶりで答えました。

 私の事は別に気にしなくてもいいですよ。だって朝ご飯でお腹いっぱいになってますからね。


 彼女に心を読み取ってもらえるよう、何度も何度も同じ事を考えてみましたが、今回に関しては全く読み取ろうとしません。心を読んで欲しい肝心な時に、天狐さんは心を覗きませんね。

 まぁ彼女の気持ちは嬉しいですし、ここは素直にその気持ちを受け取っておくのが吉でしょう。


「またツクモノですか。はいはい、どうせ僕なんかあなたにとってツクモノ未満の存在ですよ!」


 しかしそんな気持ちに遺憾の意を唱える方がここに居ました。そう、このかまってちゃんです。そっぽ向きながら加胡川さんがぼやきました。どうやら彼、私にヤキモチ妬いちゃってるらしいです。


「そんな事ないぞぅ。ワシはお主の手料理が食べたいだけじゃからのう」

「嘘ばっかり。ほんと、師匠はいつだって自分勝手なんだから」


 チンッーー。私達を乗せた小さな個室は、食品売り場のコーナーへの到着を知らせる合図を示しました。それと共にエレベーターのドアも、また私の足を運んだ事の無い世界への扉として開いていきます。


 そこは映画館の階とは違って、人が色々とごった返している空間でした。

 ここが人間達の栄養を摂取する為の行為、食事に必要な材料が売っている食品売り場と言う場所なんですか。とてもあの映画館と同じ建物にあるとは思えない場所ですね。


 言ってもここに今居る方々の多くは、高齢者の方でした。おそらく定年とやらを迎えた高齢者の方々は、映画に行ったりお買い物などをしたりして、老後生活を楽しんでいるのかも知れません。


「ツクモノはお昼と晩、何が食べたいんだい?」


 何やら豆腐やらうどんなどの麺類が置いてあるコーナーで、ふと加胡川さんが言いました。

 前から思ってたんですが、彼のこう言う素直じゃないところ、天狐さんと良く似ています。やはり師匠と弟子は良く似るものなんでしょうか。

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