3バカ
1544年(天文13年) 那古野城城下近郊
親父との会談を終えた翌日、城の事を爺さんに任せ、俺はとある3人と城下町へと繰り出していた。
「若、今日は何をして遊ぶんですか??」
「ばっか、遊ぶんじゃねぇ。訓練だって毎回言われてるだろうが」
「えー、でも、川で泳いだり、相撲をとったり。わし、いつも楽しいですよ?」
「犬千代の言う通り、いくら訓練と称していても、周りからは遊んでいるようにしか見えないでしょう。まぁ、それが若の狙いでもあるのでしょうが」
横でワイワイと騒がしのが、前田犬千代(史実では後の利家)8歳、池田勝三郎(史実では後の恒興)9歳、丹羽万千代(史実では後の長秀)10歳だ。
数え年なので、現代で言うと7歳、8歳、9歳。小学校低学年集団だな。
こんな幼いメンバーを集めて、訓練と称して集まっていたなんて、信長はやはり幼いころから頭がおかしかったらしい。
俺が倒れた時も見舞いに来てくれていたらしいが、目が覚めたとの知らせを聞き、改めて俺の下にやって来てくれたんだ。
俺にはこいつらの記憶が無いから、どうやって接したものかと考えていたんだが……
「若、元気になったんなら早く行きましょうよ!!」
と犬千代にグイグイと手を引かれてここまでやって来てしまった。
犬千代は吉法師の事が大好きみたいだな。
あと、ちょっと空気が読めないというか馬鹿というか我慢が効かないというか。
まぁ小学1年生ならこんなもんか。
勝三郎は、ガキ大将みたいなイメージかな。
体もがっちりしていて、吉法師の乳母兄弟で俺の小姓として仕えてくれている。
なんか史実を知る限りもっとまじめなイメージだったから、かなり意外だ。
そして最後が万千代。こいつはイメージ通りのインテリ君だな。
親は尾張守護である斯波氏に仕えているはずだけど、こいつは何故か俺たちとつるんでいる。
真面目なくせにやってることは破天荒な点を考えると、こいつも大概なのかもしれん。
「あー、聞いているかもしれんが、頭を打った衝撃で記憶が混乱してるんだ。変なことを言うかもしれんが、まぁ適当に流してくれ」
「はーい! あ、でも、若っていつも結構変なこと言ってますよ? だから気にしなくて大丈夫だと思います!」
元気よく笑顔で抉ってくる犬千代。
「ばっか、おめぇ、そう言うことは思っても口にしてんじゃねぇ! 若は意外と傷つきやすいんだぞ!」
犬千代に拳骨を落としつつ、更に抉ってくる勝三郎。
「ふっふ、私は若のそういう所も魅力の一つだと思いますよ」
真面目にフォローしているつもりなんだろうが、今一つズレている万千代。
今までの会話からも、三人とも俺とかなり距離の近い仲間であろうことが感じられる。
言ってることはメチャクチャ失礼だけどな。
信仰度確認をしても、みんな青が30P代と高ポイントだ。
「お前ら、言いたい放題言いやがって良い度胸してんじゃねぇか。こりゃ今まで以上に激しい訓練が必要みてぇだなぁ」
とは言え、ここで笑って流していては舐められてしまうからな。しっかりと躾はせねば。
ガキに馬鹿にされて腹を立てているわけでは決してない。
「わ、わか? やだなぁ、冗談じゃないっすか。本気にしないでくださいよぉ」
勝三郎がびくびくしながらこちらをうかがっている。
体はでかいくせに、意外と小心者なのかもしれん。
「はははっ! やーい、怒られてやんの!」
「ばっ、おめぇのせいじゃねぇか!! 若はこういうの結構根に持つんだぞ! あ、いや、若? 今のはそう言うことじゃなくてですね」
「ほっほっほ」
犬千代の無邪気さと勝三郎の墓穴の堀っぷりが酷い。
「うるせぇっ!! とりあえず三人とも俺が良いって言うまで全力走だ!! 手ぇ抜いてんじゃねぇぞ!」
「はーい!」
「は、はいぃ!!」
「ほっほっほ」
返事を合図に、三人ともトップスピードで走り出す。
小さいころから鍛えているだけあって、三人とも結構なスピードだ。
しかしこいつら個性強すぎだろ。
まぁこれから一生一緒にいる奴らなんだ。
これぐらいの方が楽しくなるかもしれないな。