オヤジ
爺とこれからの方針を話し合った後、俺は父親である織田信秀に呼び出された。
父親ならこっちに見舞いに来てくれればいいのにと思ったりもするが、まぁ仕方が無いか。
「オヤジ、入るぞ」
平手の爺さんから、普段吉法師が信秀にどんな態度をとっていたかを確認した。
まぁ概ねこんな感じで砕けた感じだったらしい。
流石信長というかなんというか。
信秀には俺がスキルを手に入れた事なんかは伏せておくつもりだから、今まで通りに対応する必要がある。
ここで俺が変なことをして、史実が変わってしまうのは色々とマズい。
今の俺には足りないものが多すぎる。
まずは金と、信頼できる人材。
これらをそろえるために、時間が必要なんだ。
史実では、俺は1546年に元服し、信長と名乗るようになっていたはず。
そして桶狭間の戦いが1560年。
それまでの間に、美濃とのいざこざや、織田信清、信友辺りとの決別など色々あったはず。
元服後はフラフラとほっつき歩いたりは出来ないだろうから、それまでの間に金と人材を出来るだけ集めておきたい。
それに一番の問題は弟の勝十郎だ。
勝十郎自身には俺はまだ会ったことが無いから何とも言えないが、あいつを持ち上げる家臣は問題大ありだ。
特に史実の林兄弟に、俺は良いイメージを持っていない。
その辺を一気に粛清するためにも、勝十郎には謀反を起こしてもらわねばならない。
だから信秀にも、俺を変に持ち上げたりしない様、これまで通りに過ごしてもらう必要があるのだ。
信秀に打ち明けたうえで事を進めるという手もあるんだが……
いや、もしかしたらこの父親を切り捨てなければならなくなる可能性もある。
深入りは今は止めておこう。
「きたか。どうだ体調は」
整った顔をしつつも、威厳のある風体に厳しい視線。
これが織田家現当主、織田信秀か。
「あぁ、問題ない。少し頭を打っただけだ」
「そうか。平手が騒いでおったが問題ないのであればよい。これに懲りたら少しは嫡男としての自覚を持て」
「自覚はあるぞ。が、態度を改める気もない」
尾張の大うつけと呼ばれている吉法師。
彼が何を思ってそんな態度をとっていたのかは知らないが、俺もそれに便乗させてもらうつもりだ。
「ふん、まぁよい。この城の主はお前だ。好きにしろ」
「あぁ、ありがとう。これから色々と動くつもりだ。が、出来るだけ外に情報を漏らしたくない。オヤジに知らせがいっても、そこで止めておいてくれ」
金稼ぎや人集めで俺が動けば、信秀に完全に隠すのは無理だろう。
であれば、先に保険をかけておいた方が良いだろう。
「……」
じっと俺の目を見つめるオヤジ。
「ん?」
「いや、なんでもないわ。いいだろう。情報はこちらで上手くやっておく。好きにしろ」
「……あぁ」
ばれたか? いや、ぼろは出してないはずだが……
少し冷や汗をかきつつ、俺は部屋を後にした。




