伊賀忍
1547年(天文16年)2月下旬 那古野城 織田三郎信長
雪解けが始まった2月の終わり。
半蔵が俺に会わせたい者たちがいると言う事で、俺たちは今場を用意し集まっている。
「して、儂に挨拶をしたいと申しておるのは其の方らか」
俺の目の前に座り頭を下げている男二人。
二人ともわざわざこの場のために用意したのか、少し小綺麗な格好をしている。
「はっ。伊賀百地家当主、百地丹波にございます」
「同じく、伊賀藤林家当主藤林長門守にござりまする。半蔵殿よりお声かけ頂き、この度若様の下へ馳せ参じさせていただきました」
「うむ。半蔵よりお主らの話は聞き及んでおる。其方らの顔が見たい。2人とも、面をあげよ」
俺の言葉に、“はっ”と声を揃え顔を上げる二人。
百地丹波の方は、30代の壮年の男だ。
半蔵よりは若々しい感じがまだ感じられるが、真面目そうな印象を受けるな。
一方の藤林長門守は、細目で表情の印象に乏しい感じだ。
何というか、若いようにも見えるし、年を食っているようにも見える。
わざとそういう表情を見せているんだろうか。
「ほう。2人とも半蔵とはまた違った印象を受けるな。特に長門守は印象が掴みづらい。それは術か何かか?」
俺の言葉に、長門守がにこりと笑って応える。
「いえ。術という程大したものではございません。私は他のお二人ほど体が丈夫ではございませんので。その分、人に紛れる術を磨いた結果にございます」
「なるほどのう。確かに足は付きづらそうではある。変装の類も得意なのではないか?」
「はい。また機会がございましたら、是非お目におかけいたしましょう」
そう言って、細い目を更に細めてにこりと笑う長門守。
「うむ、楽しみにしておるぞ。半蔵をはじめとした服部家の者たちは、少々脳筋が過ぎるのでな」
俺の言葉に、家臣たちが思わず笑いを零す。
流石の半蔵も苦笑いだ。
しかしそんな中、百地丹波が俺に真面目に聞き返してきた。
「若様、申し訳ございません。その“脳筋”というのは如何なる意味にございましょう」
「あぁ、すまぬ。脳筋とは、脳味噌まで筋肉で出来ておる様な者たちの略称じゃ。こやつらは始めこそ忍んでおったが、最近は表で暴れまわることを好む様になってきてしもうたからな」
俺の言葉に、百地が“なんと”と眉を寄せる。
あぁ、こいつは真面目だからもしかしてこういう冗談が通じないのかな?
「丹波よ、勘違いするでないぞ。こやつらは忍の務めは十分に果たしてくれておる。ただ、少々趣向が変わって来ておると言うだけの話じゃ」
「はぁ……」
俺のフォローに、納得しかねつつ頷く百地。
うーむ、どう言えば分かってもらえるのか……。
そう俺が悩んでいると、長門守が笑いながら助言をしてくれた。
「丹波殿。おそらく半蔵殿は主が出来て、少々やり過ぎておるだけにございましょう。半蔵殿ほどの方が、忍びの本分を忘れるとは思えませぬよ」
「……ふむ、なるほど。確かにそうやもしれぬな。半蔵殿が箍を外してしまう程の主。ふふっ、お仕えするのが益々楽しみになってくるのう」
長門守の言葉に、丹波の真面目な顔が少し崩れる。
二人とも、俺に仕える気は十分にあると言う事みたいだ。
「そういうことじゃ。して二人とも、此度は儂に仕える為に参ったと言う事で良いのじゃな?」
俺の言葉に、改めて姿勢を正す二人。
「はっ。若様は我らを破格の禄で召し抱えて下さるとお聞きしておりまする。また半蔵殿より、下賤な我らを蔑むことなく扱ってくださると言う事も聞き及び申した」
丹波の言葉に、俺はしっかりと頷いて返す。
「うむ。忍の役目は極めて重要な物じゃ。それに対して相応の対価を支払うのは当然。ましてや蔑むなど、もっての他じゃ」
俺の返答に、丹波は安心したように頷く。
するとそれに呼応するように、長門守が続いて口を開く。
「現在我らが住む伊賀の里は、土地がやせ、食うに困る者まで出る始末にございます。伊賀の者たちをまとめるのに少々時が掛ってしまいましたが、伊賀者全て、若様にお仕えするとの総意でまとまりました。これより粉骨砕身、若様にお仕えしたく存じます」
そう言って、二人が頭を下げる。
うーむ。伊賀全員か。一体何人くらいになるんだろう。
まぁ銭の方はかなり余裕が出てきたから、食わすくらいであれば問題は無いだろう。
あとは本当に全員信頼できるかどうかだが……
まぁそれは追々考えていくしかないな。
とりあえずは、動かせる手ごまが増えたことを喜んでおこう。
「うむ。其方らを始めとして、伊賀の者らの働きに期待しておる。くれぐれも半蔵の様に箍を外し過ぎぬ様頼むぞ」
「ははっ」
畏まって頭を下げつつ、肩を震わせる二人。
うん。こいつらは信頼できそうだな。
青ポイントも30弱と高評価だ。
先ずは人員整理や役割分担なんかで考えることも山積みだけど、半蔵達同様、しっかりこき使ってやるとしようか。
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