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新たな時代

 覆面男もとい、俺の親父が何か言い出したでござる。

 道三や美濃家臣たちとまたもめるかとも思ったが、道三は覆面男の正体が分かったのか、呆れたようにため息をついた。


「弾正忠、何故お主がこのような場所におるのじゃ。お主の様な立場の者が、敵国であるこの城にのこのこと出てくるとは……親子そろってやはりうつけじゃのぉ」


 疲れたように吐き捨てる道三。

 一方の親父は嬉しそうにニヤニヤとしている。


「何を言っておる。もうすでに同盟は成ったであろうが。であれば、ここはすでに同盟国よ。儂が出て来ても何の問題も無いであろう?」


 そんな厭らしい親父の言葉に、道三は眉間に皺を寄せる。

 が、諦めたように首を振り、ため息をついた。


「はぁ……儂はこんな阿呆どもと肩を並べねばならんのか。これは先が思いやられるわい」


 肩をおとす道三に、親父が豪快に笑いながら答える。


「がっはっは、まぁその様に難しく考えるでないぞ山城守。互いを知り尽くし、身を削り合うた同士であるからこそ、儂らは良き友になれるのではないか?」


 昨日の敵は今日の友、か。

 でもこの時代では中々受け入れがたい考えだろう。


「……随分と甘い考えじゃのう。儂の生き方とは全くの逆をいく考えよ。儂は行く手を阻むものは全て排除し、そして美濃の国主にまで成り上がった。が、おかげで今では周りは敵だらけじゃ」


 自嘲気味に答える道三。

 まぁ確かに、こんな時代じゃ綺麗ごとでしかなんだろうなぁ。


「儂も似た様なものよ。銭に物を言わせ、周りを押しのけてここまで来た。この戦国の世は綺麗ごとだけでは生きられん。しかしな山城守よ。儂らは三郎という稀有な存在を得た。であるからこそ、こやつを縁とし、その様な関係が一つぐらいあっても良いのではないかと思うておるのよ」


「……ふん、尾張の虎と呼ばれた男が随分と温いことを……が、そんな生き方に興じてみるのもまた一興やもしれんのう。弾正忠よ。わが子の幸せを壊さぬ様、せいぜい踏ん張ることじゃの」


「それはお互い様じゃて。先ずは足元をお互い掬われん様に、しっかりと地均しをせねばのう」


「ふむ、そうじゃのう。最大の懸念であったお主と縁が出来たのじゃ。これを機に、ちと本腰据えて地均しといこうかのう」


 いつの間にか、二人とも悪い顔をしながら笑っている。

 なんにせよ、話が纏まったようで一先ずは安心か。


 ……というか、地均しってそれぞれの国を治めてしまうってことだよな?

 そんな話、こんな場所でしちゃっていいのか?

 万一漏れでもしたら、それこそ敵だらけになってしまう気がするんだが……


 俺がそんな心配をしていると、親父たちが俺を見てニヤリと笑う。


「何を心配そうな顔をしておる、三郎よ。この同盟がなった事で、儂らは美濃と尾張最大の後ろ盾を互いに得たのだ。すなわち、国内に儂らに逆らえるものなど早々おらぬと言う事よ。今後やつらが選べる道は恭順か対立のみ」


「そうじゃのう。儂らが動かずとも、周りが勝手に動きよるわ。であれば、ここで内密にすることなど何もない。他国から要らぬ手が入らぬうちに、儂らから一気に仕掛けて食ろうてしまえば良いだけじゃ」


 俺を真っすぐと見つめながらそう言ってのける親父二人。

 戦国を生き抜いてきた男たちの迫力に、思わず気圧されてしまう。

 食わねば食われる。

 そう言外に言われている気がした。


 今まで史実に沿って生きてきた俺が、初めて大きく時代に干渉したのがこの同盟だ。

 それによって今、俺の知っている歴史が大きく変わろうとしている。


「そうか……ここから時代が動き出すのか」


 俺がポツリと零した言葉に、親父と道三が顔を見合わせる。

 そして――


「がっはっはっは! 時代か! 時代が動き出すか! くっくっく、また大層な言いようじゃのう」


「然り然り、流石はうつけよ。……しかし、そうじゃのう。儂らで時代のうねりを作り出す、と言うのも悪くは無いのう」


 親父たちが楽しそうに笑い出した。

 周りの男たちも、何やら高揚した顔をしている。

 

「なれば、本日は時代が変わる記念すべきめでたい日ということじゃ。どうじゃ山城守。同盟と新たな時代を祝って、今宵はぱぁっと飲むとしようではないか?」


「そうよのう。何やら儂も楽しゅうなってきてしもうたわい。ふむ、今宵はお主らの口車に乗せられてやるとしようかの」


 テンションが上がりだした二人に合わせて、周りの男たちも“おお”とどよめきだした。

 どうやら今日は、この城で宴会となりそうな様子だ。

 まぁ俺も色々と大変だったから、今日はゆっくり休ませて貰うとしようか。


 男どもがワイワイと騒ぎ出す中、帰蝶さんが俺をみてニコニコと微笑んでいる。

 親父たちが無事和解し、俺たちの婚約が確実なものとなったことを喜んでいてくれているのだろうか。

 

「帰蝶殿」


 俺は彼女の顔を見つめ、その名前を呼ぶ。


「はい、三郎様」


 彼女も俺を見つめ、俺の名前を呼んでくれる。


「これから、末永くよろしくお願い致します。何があろうと、あなたをお守りして見せますから」


 俺の真っすぐな言葉に、少し頬を赤らめながら顔を伏せる帰蝶さん。

 そして再び顔を上げ、“……はい”と眩しくなるような笑顔で応えてくれた。

 胸が熱くなるのがわかる。

 俺はこの笑顔を守れるよう、全力でこの乱世を駆け上がっていかなくては。


 俺たちのやり取りを見ながら、親父たちが何やらブツブツと言っているのが聞こえる。が、そんなことはどうでもいい。


 史実と違う世界に踏み出す恐怖は、正直今でも感じている。

 けれどどんな未来がこようとも、俺はこの笑顔を守るため、新しい時代を全力で切り開いていこうと心の中で決意を固めた。



☆★☆★




爺「あの野山を掛けずり回るばかりであった若が、あのようなご立派なお言葉を……爺は感無量にございまする!」


久秀「一時はどうなることかと思いましたが……いやはや、丸く収まって本当に良かった」


半蔵「ふむ、某の出番は一瞬でございましたな。若、まだまだ暴れたりませぬぞ」


長秀「新たな時代……流石は若。恥ずかしげもなくそのようなことを言ってのけるとは」


信広「父上も三郎も滅茶苦茶じゃのう。道三どのが話の分かる御仁で助かったわ」


勝三郎「帰蝶様……綺麗なお方じゃ……」


犬千代「わかー。おなかすいたー」




信長「うるせぇ!!」


これにて第二部終了とさせていただきます。


拙作ではございますが、いつもご愛読いただきありがとうございます。

皆様の応援のおかげで、ここまで書き続けることが出来ました。

これからも拙いながらも三郎たちの物語を綴っていきたいと思っていますので、温かい応援よろしくお願いいたします。


ご感想、ご評価等ありましたら、作者の励みになりますのでお気軽に宜しくお願い致します。


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