VS道三
1546年(天文15年) 10月中旬 美濃国 稲葉山城
広間に着くと、美濃の皆さんが揃い踏みで俺たちを迎えてくれた。
正面の上段にいるのが斎藤道三。美濃のマムシと呼ばれた男だな。
油売りから裏切りや暗殺を駆使して、美濃の実質上の国主にまで上り詰めた男だ。
どんだけ恐い男なんだろうと、俺はそれなりに覚悟してここへやってきた。
いざとなったらスキルの力をフル活用して乗り切ってやろうと。
俺は腹に力をこめて挨拶をする。
「織田弾正忠家が嫡男、織田三郎信長にござります。この度の弾正忠家と斎藤家の同盟に当たり、山城守(道三)様にご挨拶に参りました」
俺の口上に美濃の家臣がざわざわと騒めく。
うつけと噂の俺が真面目に答えたのが意外だったのかな?
しかしそれにしてもちょっと雰囲気がよろしくない。
道三もどうも不機嫌な様子。
今回の同盟については親父や平手の爺がすでに根回しをしていてくれたはずなんだけど、まだ美濃方は納得してなかったのかな?
俺が疑問に思っていると、道三が口を開く。
「ふむ。長旅ご苦労であった。して三郎殿に一つ聞きたい」
一応俺を立てて丁寧な対応をする道三。
「はっ、なんなりと」
「お主はここ稲葉山城へたった百五十の兵でやってきたと言う。同盟をこれから結ぶとは言え元は敵であった相手。そのひざ元にたったそれだけで参るとは、些か不用心ではないかの?」
目を細めて俺をねめつける道三。
しかし俺はそんな視線は知らぬとばかりに言い返す。
「ふむ、おっしゃる意味が分かりませぬな」
「……なに?」
道三が俺をギロリの睨みつける。
「某、道三どのことを信用しております故、元々護衛など十五もおれば良いと思うておりました。しかしそれは流石にと家臣の者たちに止められましてなぁ。結局十倍もの兵を連れて参ることになってしまい申した。故に、不用心とおっしゃる意味が分からぬと申しておりまする」
「ほぉ……儂が同盟を結ぶ相手には手を出さぬ。そう信じておると言うのか?」
「いえ? まさか。山城守殿は、そこにより大きな利さえあれば平気で裏切るお方でございましょう。が、逆に利が少なければ裏切らぬ。私が信用しておるのはそういう所にございます」
「……其の方を殺さぬことの方が利が大きいと?」
少し値踏みをするように問うてくる道三。
「まぁそれもありますが、それに加え某を殺す労力に対する損害が大きすぎるのです。散々自らの兵を死なせた挙句、結局某を殺せぬというのであれば、そのようなことを試すのも阿保らしいという物でございましょう。そのような暴挙、賢き山城守殿がなさるとは思えませぬな」
俺の挑発に、道三の額に血管が浮き出る。
そして持っていた扇子をバキリとへし折って口を開く。
「……お主はやはりうつけであったか。儂とこの家臣たちを前にしてそのような戯言を申すとは……こやつらをひっとらえぃっ! このうつけの首、弾正忠に送り返してくれるわっ!」
「「はっ!」」
道三言葉に、家臣団が一斉に立ち上がる。
皆脇差を懐からだし、こちらに刃を向けた。
――が、次の瞬間。
――カラン、カラン、カラン……
半蔵の姿が消え、しばらくして再び姿を現す。
気づけば美濃家臣がもつ脇差は、皆刃の半ばから折れ床に転がっていた。
訳の分からない事態に唖然とする美濃家臣たち。
道三も口を開けて状況を飲み込めていない様子。
「そうそうそう言えば」
そんな美濃勢を見回しながら、俺は落ち着いた様子で話を始める。
「最近美濃では長槍の研究が進んでおるそうですなぁ。鍛冶師たちに新たな鎧も作成させているとか」
家臣たちが騒めき始める。
この情報は、まだ美濃でも極秘の案件だろう。
本来起こるはずであった来年の織田家との戦争で使うはずだったものだ。
しかし俺は半蔵達に裏を取らせ、確かな情報として知っている。
「聞くところに寄るとその防具、刀では簡単に傷すら付けることが出来ぬとか。全く羨ましい限りでござる。しかし……御嫡男との関係がよろしくないのはいただけませぬなぁ。噂では土岐の倅だなど言う話。しかし賢き美濃の皆さんが、その様な戯言を本気で信じておられるわけでもありますまい?」
俺の爆弾発言に、家臣たちのざわめきが更に大きくなってしまった。
この噂は、実はまだ全く上がっていない。
まぁ可能性としては無くはないレベルなんだけど、自分の主とその奥方、そして嫡男のゴシップなんて、中々噂ですら話せないよね。道三本人以外には。
その道三は、先ほどまで真っ赤にしていた顔を、今度は黒くしていた。
……だ、大丈夫か?
一応フォローしておいてやるか。
「あぁ、これはまだ公表しておらぬ話でしたかな? これは失礼。皆さま、この話は今しばらくはお忘れ下され。もう間もなく山城守殿の口より広まる話でございますので」
道三は嫡男を世継ぎにしたく無いと考えているようだ。そこで嫡男を土岐氏の子だと噂を流し、嫡男から外そうと考えている様だ。史実の知識と半蔵からの報告を元に行き着いた結論だが、どうやら図星だったようだな。俺の言葉に、道三がそのままフラフラと下がり、尻もちをついてうな垂れた。
「……お主は一体何者なんじゃ」
絞り出すようにして、そう問うてくる道三。
俺はそれに姿勢を正し、少し輝きをアップさせながら答えてやる。
「織田弾正忠家が嫡男、織田三郎信長。理大御神より神通力を賜り、天下に平穏をもたらすものにございまする」




