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親父にバレた

1546年(天文15年) 6月 那古野城 織田三郎信長


 先の評定から二か月が経った。

 常備軍の訓練が本格的に始まり、城の中も日に日に賑やかになってる。


 訓練開始当初は、余りの訓練の厳しさに皆が泣いた。

 一応俺がトップなんだけど、訓練の内容はほとんど半蔵と長秀が決めていた。

 こいつら俺が教えた筋トレやらなんやらの現代のトレーニング方法と忍の訓練をミックスして昇華させて、更にアレンジを加えてと、とんでもない内容を作り上げた。

 長秀に、お前もやるんだぞと伝えたら、顔を引き攣らせていたけどな。


 どんだけ苦しく激しい訓練でも、俺が付いている限りは動き続けられる。

 生き地獄とはまさにこれだ。


 25人を1小隊としてローテーションを組ませ、それぞれで常に集団行動をとらせている。休みは4日に1回だ。

 長秀が責任者となり、顧問役として半蔵が付いて、忍びの皆さんが指導役になりながら一緒に訓練に励んでくれている。

 最近忍びがあまり忍べてない気がするが、気にしない。



 そんな風に訓練に明け暮れていたある日、俺は久しぶりに那古野城を訪れた親父に呼び出された。

 なんとなく何を言われるか予想のついた俺は、半蔵のみを引きつれ親父の部屋へと向かった。


「オヤジ、入るぞ」


 中に入ると、親父がムスッとした顔で俺を睨んでいる。


「な、なんじゃ」


 久しぶりに見た親父の恐い顔に、思わず動揺してしまう。


「なんだではないわ。お主、儂に隠しておることがあるであろう」


 うっ、やっぱその話だよなぁ。まぁ城内で社を建てたり訓練でスキル使っているからいつかはバレるだろうと思っていたけど……一応人目に付きずらい場所を訓練場にはしているんだけどね。


「あー……すまぬ。いや、言おう言おうとは思っておったのだが……親父はその、熱田の神様に熱心じゃからのう……」


「ふんっ。全く……それとこれとはまた話が違うじゃろうて」


「そう……じゃな。すまぬ」


 少し悲しそうに話す親父を見て、俺は素直に頭を下げた。


「はぁ……まぁ良いわ。……それで? これからは儂もその悪だくみに混ぜてもらえるのであろうな?」


 先ほどとは打って変わって、ニヤニヤしながら話す親父。そんな親父を見て、俺は苦笑する。


「神の力を捕まえて悪だくみとは、またえらい言い様じゃのう」


「っは。神であろうと鬼であろうと、結局は人間が作ったもんじゃろうが。自分たちの力が及ばん存在で、都合が良ければ神、悪ければ悪鬼や妖魔の類。そんなもんじゃろうて」


 親父の言いように、俺は思わずため息をつく。この人は全く、考え方がとことんこの時代とはかけ離れている。


「そうか。……なら全て話すとしようかの」


 俺は親父に人払いをさせ、半蔵を見張りに立てて全てを話した。

 俺が転生したことも含めて全て。

 

 スキルについては呼び出された時から話すつもりではいた。

 しかしさっきの親父の話をきいて、俺はこの人には知っていてもらいたいと思ったんだ。


 俺の話を聞き終え、親父はため息をつく。


「はぁ……なんとも壮大な話じゃのう。400百年後の未来からか……それで? 儂はこの後どうなるんじゃ?」


「ワシが色々こねくり回しておるから、もうワシの知っている物と同じになるかは分からぬが……親父はこれから道三に負けて、今川に負けて、それから何年かしてから死ぬ。病気か毒殺かは分からん」


 正直に話した俺の言葉を聞き、親父はひと言、そうか、と呟き目を瞑る。

 そしてしばらくし再びこちらを真っすぐに見つめ、口を開いた。


「よう言うてくれた。まぁこんな世の中じゃ。そういうこともあるであろうな……」


 自分の死ぬ話を聞かされ、少し落ち込んだようにも見える。

 が、親父はあくまで気丈に話を続けた。


「まぁお主の話の中の儂は、運が無かったのであろう。しかし儂にはお主がおる。この話を儂にしたと言う事は、お主は儂に力を貸すつもりがあるのであろう?」 


「当たり前だ。いや、正直に言うと初めは切り捨てるつもりもあったが、親父の事が好きになってしもうての。やめた」


「そうかそうか、やめたか。ははっ。やはり、この世界の儂は運があるようじゃな」


 そう言って、楽しそうに笑う親父。なんと言うか、この人は本当にかっこいい考え方をする。

 でも俺は、もう一つどうしても聞いておきたいことがあった。

 

「運が良い、か。まぁ親父を生かせるという意味ではそうかもしれんな。しかし、ワシは元の吉法師とは違う存在じゃ。ワシが吉法師を殺したとは思わぬのか?」


 俺が一番気になっていること。それは俺が吉法師とは違う存在だと言う事だ。親父にとって見たら、実の息子に取って代わられた訳なんだから。


「なんじゃ、そんなことを気にしておるのか。お主は自分の中に吉法師はおらぬと思うておるみたいじゃが、ワシはそうは思うておらぬ。二年前にお主と対面したとき、儂はお主に幼き頃の吉法師の姿をみたぞ?」


「っ……でも、俺には吉法師の記憶がない。だから、俺の中に吉法師はもう――」


「お主は前世の記憶がはっきりせんのであろう? ならばどうして吉法師がおらぬと言い切れるんじゃ。お主がそう思い込もうとしているだけではないのか? ……まぁ例えそうであったとしてもじゃ。今のこの乱世、息子が親より先に死ぬなど珍しいことではない。だからな、信長。もう気にする出ない」


 目頭が熱くなるのを感じた。初めて、自分の事を許されたような、そんな気持ちになれた。


「かっかっ、何を泣いておる。情けない奴じゃのう……まぁそんなことよりもじゃ。さっさとこれからの悪だくみについて話すとしようぞ」


 ニヤニヤしながら俺に話を向ける親父。

 俺も笑って返す。


「うん、そうだな。……ありがとう」


 俺の呟いた言葉を聞いた親父は、嬉しそうにしながらニヤニヤと締まりのない顔で笑っていた。

 

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