泰平の世の為に
この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、宗教、神は現実とは一切関係ありません。
また主人公の思想についても、あくまで物語上の意見であり、現実を否定するものでは一切ありません。
これはパラレルワールドを舞台としています。
あの村の名前を山間村と名付けました。
1544年(天文13年) 10月中旬 那古野城近郊山間村 吉法師
収穫が終わりしばらくした頃、俺はあの山間村に招かれた。天気は快晴。少し肌寒くなってはきたが、風が心地いい。今回の俺のお供は久秀、八兵衛、信広兄、正種、お道ちゃん。正種と信広兄は覆面を着用済みで、俺は平手の客人という体で平手家を出発した。まぁこの設定も色々無理があるからそのうちバレちゃうんだろうけど、銭と護衛が何とか形になってきたから、俺はそれほど焦ってはいない。尾張にも間諜は入り込んでいるが、半蔵達が積極的に狩っているから漏れも少ないだろう。特に聴覚と視覚の強化が役に立っているらしく、三河にいたころよりも狩りの具合が良いらしい。忍って恐いね。
村に着くと、先振れを出していたためか庄屋や大勢の村人たちが迎えてくれた。村人の中にはあの離れにいた元病人たちや、服部の配下たちと思われる人たちも混じっている。どうやら村との付き合いも上手くやっているようだ。
「お社様、ようこそおいでくださいました」
庄屋が皆を代表して俺たちに挨拶をしてきた。俺は適当に発光しながら、久秀に返答させる。
「うむ。出迎えご苦労。収穫の方はどうであった?」
「はい。お社様のおかげで、今年は例年より2割ほど多く収穫がございました。みな本当に喜んでおります」
そうかそうか、いや安心した。これでこの農法を他の村にも広げやすくなったな。穂発芽や苗代をやればもう一か月ほど早く田植えが始められるはずだから、来年はそのようにしてもらおう。そうすれば寒くなる前に収穫出来て、量ももう少し多くなるだろう。と言う事を久秀に伝えてもらう。
「おぉ、誠にこざいますか。では来年は早速そのようにさせていただきます。しかし、本日は遣いの方々と共に過ごされると言う事で、特に何も用意は必要ないとのことでしたが……本当によろしかったのでしょうか」
庄屋が申し訳なさそうに尋ねてくる。祝いの席とか用意されても、俺が顔を出せないからね。今日は半蔵配下の人たちと少し挨拶をして、そのまま帰る予定だ。っとその前に。
「そちらは問題ない。あまり長いもできぬ故な。それよりも本日はお社様がお姿をお現しになり、この村で直々に社をお構えになりたいとのお申し出があった。庄屋よ、構わぬか?」
久秀の申し出に、目を見開いて驚く庄屋。周りで聞いていた村人たちも、おぉと色めき立つ。
「それはそれは。もちろん結構にございます。して、どちらに構えさせていただきましょうか」
「ふむ。この村にはお社様の遣いの者たちもおるのでな。あの離れとこちらの村との間が良いであろうとのお申し出だ」
「なるほど。ではそのように」
話がまとまったな。よし、では早速作成するとしようか。
俺は久秀に移動するように伝え、良さげな場所を探す。村人たちも俺が姿を見せるのが気になるのか、ぞろぞろと付いてきた。別に見ても楽しいものではないと思うけどな。まぁみんな俺の姿が見られると聞いて、じっとはしていられないのだろう。
しばらく移動すると、離れと村のちょうど中間あたりに開けた場所を見つけた。よし、ここがいいかな。俺は駕籠を下ろしてもらい、久秀に合図を送る。
「ではお社様がお現れになられる。皆の者も平伏する必要は無いが、お社様を直接目にせぬよう頭を下げておくように」
久秀に言われて頭を下げる村人たち。しかし中には、俺の姿を覗き見ようとチラチラこちらを見ている奴もいる。ま、そんな奴に姿を見せるようなへまはしないけどね。
俺は御簾を上げ、姿を現す。発光を最強にして。覗き見てたやつらも、うわっ、と怯む声が聞こえる。うむうむ、予定通りだ。
俺はそのまま適当な場所まで進み、ステータスブックを片手に最初のページを開く。まぁ特に必要は無いが、何となくそれっぽくしているだけだ。因みに俺も目を瞑っています。眩しいからね。
準備が整った。
俺は天を仰ぎ、心の中で唱える。
――【社作成】――
すると俺から何かがゴッソリ持っていかれるのを感じ、目を瞑っているにも関わらず瞼の裏にまばゆい光を感じた。そしてしばらくして光が収まるのが分かると、俺は自分の発光を抑えながら薄っすら目を開けてみる。すると目の前には、一つの小さな光の玉が浮いていた。
……え? 社ってこういう感じなの? 俺はてっきり、建物がどーんと建ってくれると思ったんだけれど……
正直肩透かしを感じつつ、俺は周りを見渡した。すると周りの者たちは皆いつの間にか平伏し、頭を地面にこすりつけている。余程あの光が恐ろしかったのか、中にはブルブルと震えている奴までいる。というか、俺のことを知っているはずの久秀たちまで、皆と一緒になって平伏しているってどういうことよ。
ま、まぁいいか。それよりもこの事態をどうにかしなければならんよな。社を建てるとか言いながら、実は光の玉でしたー、なんてちょっと笑えないし。上手いこと言ってこの場を収めよう。あ、そうだ。この前お道ちゃんの話を聞いて、俺が考えついた神様の名前も、この場で発表してしまうとしようか。
――ゴホン
「皆の者、そのまま決して顔を上げることなく私の言葉を聞き届けよ。只今我らの神【理大御神】様より、その現身をお分けになった社を賜った。理大御神様はこの世全ての理をお創りになられた始まりの神であらせられる」
うん。神様が自分の体を分けて、この光玉を依り代にして現世に姿を現したよってことにすれば、光玉が社であってもおかしくないだろう。そして俺が考えた神、理大御神。現代科学も物理法則も何もかもが、この神様が言ったことにして言い訳が出来てしまう。うむ、知識チートが捗るな。
「理大御神様は今、この世の人間の理が冒されていることを嘆ておられる。人間の理とはすなわち、人間皆が互いに手を取り合い助け合い、泰平の世を築くことである。理大御神様はこの理に遵い皆を救いたいと御思案され、私の体を社として現身をお分け下され力をお与え下さった。理大御神様がお望みになられる天下泰平の世を築くため、私は動き出す。皆の者、確と心得よ」
「「ははー」」
うむうむ、詐欺師&暴君の誕生だ。
先ずは物理法則なんかの理を説く。俺には未来の知識があるので、その理は当然正しい。そこへ道徳や価値観などの理を混ぜて説く。するとその価値観も物理法則同様当然正しいかのように思えてきてしまう、といいな。かなり詐欺臭いけど、泰平の世を作ること自体は悪いことでは無いからいいとしよう。
俺は、泰平の世がこの世の理であるとし、戦争を否定する。しかしその一方で、協力しない奴は神敵として戦争で叩きのめす。もう矛盾が酷い。神敵を倒すのはこの世の理ですよ、とかきっと言い出すんだぜ、俺。
理屈として、理大御神はこの世の理を作ったけど、理大御神自身はその理の外の存在である。だから理大御神はこの世の理を冒しても問題ない。そして俺は理大御神の化身でもあるんだから、同様に理を冒しても問題ない。なんていう暴論も考えているけど、敵からしたらたまったもんじゃないだろうな。
言っていることは屁理屈を捏ねたただの暴論だけど、俺はこれが泰平の世を築くための近道になるんじゃないかなぁと思っている。
平和な世を作る方法って、俺は二通りしか思いつかなかったんだ。複数の力の均衡による平和か。圧倒的な力を持つ個の支配による平和か。
未来の世界だって、平和とか言いながらどの国も戦争できる準備はばっちり整っている。互いのパワーバランスが保たれているから為された平和だ。どっかの国が核のボタン押せば、それに対抗しようとして余所の国もボタン押して、それが続いて地球が滅ぶ。でも滅びたくはないからボタンは押さない。そう言う緊張状態が続いた上で平和を享受する。だったら核を捨てろよって話だけど、それが出来ないのが人間の弱さなんだろうなぁ。
全ての人間が武力を放棄するって話も聞いたことあるけど、それはダメかな。人間が武力を放棄しても、この世には獣という生まれながらにして武力を持った存在がいるもんな。そんなことが例え実現できたとしても、人間は滅ぶだけだろう。人間は滅んだ方がこの星の為になる、ってのも却下で。だって俺人間だし。生きたいよ。
俺はこの世界でスキルと未来の知識という圧倒的な力を手に入れた。だからそれを使って宗教という形で人々を導き、この世界に平和をもたらす。
詐欺師上等、暴君上等。誰が俺をこの世界に送り、力を与えたかは知らないが、まぁ見てろ。俺がこの世界のルールになってやって、みんなが心から笑って暮らせる世の中を作ってみせる。
馬鹿な夢物語だと笑う奴もいるだろう。まぁそれでもいいさ。なんてったって俺は織田吉法師。尾張の大うつけだからな。
これにて1章完結とさせていただきます。
1章は主人公の下準備と、彼が何の為に天下泰平を目指すのか、というテーマについて描いてみました。
色々と物足りない部分もあったかもしれませんが、温かい応援を頂き本当にありがとうございました。
さて、2章からはいよいよ物語が加速し、1章で蓄えた力を使い主人公を動かしていきたいと思っています。
が、周りがリアルチートだらけなので、苦戦必至です。
これからも吉法師や信長の成長を温かく見守って頂けたら幸いです。
最後に、いつもたくさんのご感想ありがとうございます。
1章に関しまして、ご指摘ご感想等ありましたらお気軽によろしくお願いいたします。
また、ブクマ、ご評価も頂ければ執筆の励みになりますので、良ければ併せてよろしくお願いいたします。




