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服部半蔵

「服部半蔵保長にございます」


 夜中、俺の寝室に服部半蔵が忍び込んで来たでござる。

 いや、半蔵の態度で緊張が解けてしまったけど、冷静に考えてこれは本来マズいよな。俺は慌てて【信仰度確認】を行い、半蔵に害意がなさそうな事を確認しホッと息つく。しかし、隣の部屋に見張りがいるはずなんだが……何をしているんだろう。


「隣の宿直は眠っておられます」


 俺の視線に気が付いたのか、半蔵が答える。マジか。何か薬でも使ったのか?

 俺の顔が引き攣ったのがわかり、半蔵がまた困ったように答える。


「元々眠っておられました」


 ……見張りの意味ねぇじゃん。多分俺の顔はさらに引き攣ってしまっているだろう。俺の周りに配属される人間は、爺が手配してくれて俺の事情を知るやつばかりだ。結構信頼できる奴らだと思ってたんだが……もしかして俺の能力知ってるから安心してんのかな? 


「そうか、疑ってすまなかった。して、こんな場所に忍び込むとは一体どういう了見だ?」


 これでも俺は一城の主だ。評判は最悪だけど。そんな人間の寝室に忍び込んだことが公になれば、ただ事では済まない。


「吉法師様と直接お話がしたく、無礼を承知で参りました」


 吉法師、ねぇ。


「話がしたいのであれば、繋ぎの者を頼れば良かったのではないか?」


「いえ、本当の・・・あなた様とお話がしたく」


 半蔵の言葉に、一瞬息が止まった。


「……何を知っている?」


「あの空に閃光が走った日の前後で、あなた様は明らかにお代わりになられた。まるで別人のように」


 まじか。確かに俺の周りも多少の違和感は感じているだろうけど、それでもみんなうつけのすることだからと放置している。しかもこいつは三河に居たはずだ。なぜ俺が入る前の吉法師のことまで知っているんだ?


「俺を監視していたのか?」


「はっ」


「松平殿の命か?」


「尾張への間諜を放ったのは主君の命でしたが、吉法師様を監視させておりましたのは、私の独断です」


 ん? どういうことだ。こいつは元々松平清康(史実では徳川家康の祖父)に仕えていたはずだ。いや、もうすでに清康は亡くなっていたんだったか。いやまて。


「お主は今誰に仕えておるのだ?」


「それが……」


 詳しく話を聞いてみると、半蔵は現在松平宗家の当主である広忠に仕えてはいるが、かなり不遇な待遇であるらしい。尾張に間諜を放ったのは前当主である清康の命だったらしいが、彼の死後は待遇が極端に悪くなり、半蔵独自でも動くことが多くなったという。


 彼は元々伊賀にある、千賀地、百地、藤林という三家の内の千賀地家の当主だった。しかし伊賀の土地は貧しく、三家が生活するには厳しい状態だったらしい。そこで彼は一族を引き連れ伊賀を出て、室町幕府の十二代将軍である足利義晴に仕えた。しかしその幕府もすでに衰退しており、一族の生活をみるのも心許ない状態であったらしい。そんな時、三河の松平清康に誘われ三河に赴き彼に仕官した。


 しかしその清康も、9年前に清康の叔父である信定の策略によって殺されてしまう。現在松平宗家の当主は清康の子である広忠だが、彼はあまり半蔵たちの事を信用していないらしい。というのも、広忠の父を嵌めた信定に、半蔵たちが協力していたのではないかと疑っているようなのだ。


「実際の所、どうなのだ?」


「我らから主を裏切ったことなどございません!」


 俺の疑問に、感情を露にする半蔵。おいおい、忍ってもっと感情を押し殺すもんじゃないのか? ここに来てからの半蔵が感情豊か過ぎて、忍のイメージがすごい勢いで崩れていく。


 清康が殺されたのは、9年前にここ尾張に進軍していた時だ。清康の家臣であった阿部定吉が、敵である織田信秀(俺の父親)に内通しているという噂が出始めた。清康はこの噂を信じてはいなかったようだが、周りの家臣たちはこれを咎めた。そして清康が定吉を粛清するかもしれないという話が上がってしまい、この話が定吉の嫡男である阿部正豊の耳にも入ってしまう。正豊は本陣が騒がしくなったのを聞きつけ、自分の父親が清康に殺されたと勘違いをし、そのまま清康を殺害してしまう。そしてその正豊も、すぐにその場で切り殺されたらしい。


 何というか、勘違いでここまで酷い結果になるものなんだろうか。この話の裏には松平信定がいると言われているが、確かに俺でも半蔵達の影を感じてしまう。しかし語ってくれた半蔵を見てみると、声を震わせ本当に悔しそうにしている事が伝わってくる。俺には、この半蔵が嘘をついている様には全く見えなかった。


「我らは阿部殿の裏切りが偽りであることを掴み、主にお伝えしました。主もその情報を信じ、阿部殿を信頼しておられたのですが……」


「周りの声が大きくなり過ぎたか」


「はい……」


 なんとも切ない話だな。半蔵達は、情報収集や破壊工作などの裏方に従事し、護衛などはやらせてもらっていなかったらしい。清康は半蔵達を信頼していたが、忍を蔑んでいた周りの者がそれを許さなかったんだと。半蔵達が護衛をしていれば、清康の命も助かったかもしれないのにな。


「話はわかった。それでお主たちは現在、清康の息子である広忠に疎まれた状態で、かと言って外にも出ることも出来ずにいると言う事か」


「その通りでございます」


 松平家の内部情報を知る半蔵達だ。そりゃ外にはやりたくないわな。


「しかしお主は俺に会いに来た。かなり危険なのではないのか?」


「はい。ですから現在、一族の者はすでに三河を出ております。一度方々に散り行方を眩ませてから、ここ尾張に集結する手筈となっております」


「……ん? ちょっと待て。もう俺に仕えるつもりでいるのか?」


「はっ。元よりそのつもりございます」


 おいおいどういうことだ? 


「俺を監視していたことにも何か関係しているのか?」


「はい。我らは松平家にお仕えさせていただいておりました。しかし前の主が討たれ、今はすでに主を失ったも同然。このまま飼い殺しにされるくらいであればと密かに次の主を探しておったのです」


 なるほどな。まぁそりゃ自分達を疑ってかかる人間に仕えたくはないか……

 半蔵は清康の死後も、尾張の情報収集を続けていた。その当時飛ぶ鳥を落とす勢いで勢力を拡大していたのが俺の父である信秀であり、半蔵は親父を中心として監視を続けさせていたそうだ。そしてそのついでに嫡男である俺の行動も報告させていたところ、気になることがあり俺に対する監視も強めたらしい。


「……しかし俺はうつけだぞ? よいのか?」


 俺はワザと挑発するように半蔵に問う。すると半蔵は先ほどまでとは打って変わって、真剣な顔で答えてきた。


「以前の吉法師様であれば、うつけかどうかの判別は正直難しゅうございました。しかし今のあなた様は、明らかに目的があったうえで行動していらっしゃいます。それにあの村での行動を聞けば、あなた様が途方もないお力を秘めているのは明白。そのうえ、我らのような下賤なものも召し抱えて下さるという。あなた様以上の主は、私が調べた以上おりません」


 うわぁ、村の事もバレてんのかよ。ってことは、あの駕籠の中の人間が俺だってのも知ってるってことだよな。あっれー? そこはかなり厳重に情報規制してたはずなんだけど。


「あの御簾越しの白い光と寝所から漏れる白い光の両方見ておれば、それらを結びつけるのは然程難しいことではございません。我らは常にあなた様を監視させていただいておりましたので」


 こえぇよ。ストーカーじゃねぇか。まぁ確かにずっと付けていたんならそりゃバレるか。


「あと、八兵衛は元々我らの一族でございます」


 なんですと。情報筒抜けじゃないですか。便利屋八兵衛くん、伊賀忍者だったでござる。ま、まぁ結果的に、半蔵達を抱き込めたんだからもういいか。ここにきた時から半蔵の青ポイントがやけに高いと思っていたけど、八兵衛君のお陰だったのね。そう言えば、白ポイントもついてるもんな。そこは八兵衛から聞いたってことか。


「わかった。俺の負けだ。半蔵、お主たちを俺の家臣として召し抱える。よいな?」


「はっ。ありがたく」


 はぁ。なんだかずっと半蔵のペースに巻き込まれてるわ。そう言えば、本当の俺がどうのって言ってたな。やっぱり中身が別物ってバレちゃってんのかね。それとも影武者か何かだと思われてんのかな?


「以前の吉法師様はうつけかどうかはともかくとして、行動が年相応でありました。しかし今のあなた様の行動は、なんと言いますか、若々しさがございませんので」


「ぐはっ」


 確かに言われてみればそうかもしれない。死なないように護衛を探し、金を稼ぐにしても爺を隠れ蓑にして保身に走り、吉法師軍団にはあれこれと口うるさく注意して……仲間というより、父親みたいに説教したりもしたもんなぁ。


「はぁ、参ったよ。確かにこの体は吉法師のものだけど、中身は俺が入ってる。って言っても、俺は自分が何者なのかはっきりは分からないんだけどな。とりあえず、四百年以上先の未来から中身だけやってきたと思ってくれればいいさ」


 俺のカミングアウトに、流石の半蔵を息を呑んだ。


「なんと。俄かには信じられませんが……」


 やっぱり、影武者だと思っていたみたいだな。


「まぁ信じてもらうしかないんだけどなぁ。あと、これが俺の地の喋り方だ。いつもの喋り方は堅っ苦しくて正直疲れるんだよなぁ」


「はぁ……」


 俺の明け透けな物言いに、半蔵が呆れている。


「しかし、よろしいので? 私にそこまで話してしまわれては……」


「いいんだよ。どうせすでに別人だって疑われているんだ。ここで誤魔化して、半蔵にいらん不信感を抱いて欲しくない。それに丁度、こうして本音を話す相手がほしかったんだ。色々相談したいこともあるしさ」


 俺が半蔵を信用しているのが伝わったのか、半蔵は少し嬉しそうに微笑み、頭を下げる。


「はい、私で良ければ」


「おう、これからよろしく頼むな、半蔵」


 俺の差し出した右手を、半蔵もしっかりと握り返してくる。


「はい、若」


 使い込まれて固くなった手のひらの感触がとても頼もしく、俺は大きな安心感を感じることが出来た。

 前世の事で一人で悩んでいたけど、これからは少しずつ愚痴を零していくとしようかな。




服部半蔵保長 信仰度 青 25P→30P 白 10P


感想等ありましたら、お気軽によろしくお願いいたします。

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