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農法改革

改革に苗代についてを加筆いたしました。2018/03/29

 さて、お次は農法のテコ入れだな。といっても、初めはそんな難しいことは出来ない。

 まずは塩水による種籾の選別だ。これは今ある種籾の中から、中身の詰まった丈夫でいい種だけを選別する方法だな。


 先ずは大きめの桶に濃度の濃い塩水を用意する。そこに種籾を入れ、少しづつ少しづつ水を加えて濃度を薄めていく。これを繰り返すと、徐々に水面の種籾が桶の底に沈んでいくのが分かる。そしてある一定の濃度を下回ると、一気に種籾が沈んでいく。この沈んだ種籾が、浮いている奴に比べて中身が詰まった良い種籾だと言う事だ。全体の三分の二くらいが沈んだところで濃度調整をやめて、浮いているのを取り除く。ザルなんかを使ってやって塩水を再利用してやりながら、これを繰り返す。本来は沈んだ種籾だけ使用するんだが、今回は比較実験も兼ねて一部の浮いた種籾も使ってみよう。


 この方法を久秀を通じて庄屋や農民たちに伝えてやった。庄屋たちは、なるほどー、などと分かったような分からないような顔をしていたけど、お社様の言う事だからと素直に聞き入れてくれた。まぁこの時代の人たちに、濃度や比重何かを説明しても中々理解しにくいだろうから仕方が無いか。結果が出れば自然とこの方法も広がっていくだろう。

 

 そして次は田植え時のてこ入れだ。まずは苗代の育成。

 種籾の塩気を取り、今度は真水に浸して発芽させる。大体5日から10日くらいだな。水温で調整するはずだけど、そこは色々試していくしかないだろう。そして畝に撒くだいたい1㎝ぐらいの間隔で撒き、種籾が隠れるか隠れないか程度の薄さで土を覆せる。そして1か月強で苗が15㎝くらいになれば、数本を1束にして植えていく。この辺りの塩梅も任せてみて調節してもらおう。


 今俺の目の前には、形が不揃いな水田が広がっている。現代でよく見た田園のイメージは比較的四角形に近いものが多かったが、あの形になったのって確か明治くらいになって耕地整理を本格的に始めてからだったっけか。まぁ耕地整理については今はどうしようも無いけど、せめて等間隔に植える正条植くらいはしてもらおう。これをすることで日当たりや風通しが良くなって、収穫量も増えたはずだ。四角柱の木枠を作り、これを転がしてもらいながら等間隔で田植えをしてもらう。これにもやはり農民たちは意味がわからず難しい顔をしていたが、一応は聞き入れてくれた。


 あとは堆肥の問題か。これは俺の感覚的な問題なのかもしれないが、堆肥に人糞を使うのってなんか嫌なんだよね。と言う訳で、人糞の代わりに魚肥や肉骨粉を使用する方法を教えておいた。ただこれは色々と機材が必要だったり、肉骨粉は一度加熱処理が必要だったりと手間と費用がかかるので、出来ればと言う事で。もしする気があるなら、肉骨は俺が≪浄化≫をすることで加熱処理の工程を省いてみてもいいしな。これを庄屋に伝えると、すぐに全ての田畑で行うのは無理だが、一部の所で試してみますとのこと。うんうん、是非ともそうしてくれたまえ。




 現段階でやれそうなことを一通り教えた後、俺はあるものを作ってもらおうと、村の周辺を駕籠に乗りながら散策していた。


「新しい肥料、ですか。それは先ほどの魚肥や骨肉粉とはまた別なので?」


「うむ。なんでも作り始めてから完成まで五年ほどかかるものらしい」


 庄屋と久秀の会話が、御簾の向こうから聞こえてくる。完成に五年掛かる新たな肥料。もちろんそんなものは存在しない。今から作ろうと思っているのは、硝石だ。黒色火薬を作るのに必要なものとして、硫黄や木炭、そして硝石が挙げられるが、この硝石だけは日本ではほとんど産出されない。史実では南蛮や明からの貿易で手に入れてたらしいが、これが割と高値だったらしいんだよな。だから今の内から作っておこうと思ったんだ。


 海外では家畜の糞尿が浸透した土を使い精製していたみたいだけど、日本ってこの時代畜産自体がほとんどされていないんだよな。

 日本では昔から為政者たちが肉食を禁止することが多くあった。これは仏教の教えが影響していたみたいだけど、なにより『肉を食す=死体を捌く→穢れ』みたいな考えが日本人の意識に定着していたからだろう。特にこの考えは公家に強くあるらしく、歴代の天皇の何人かは『肉食禁止令』などと訳の分からない御触れを出したりしている。ヨーロッパでは馬肉を禁止ている国もあったみたいだけど、これは多分馬が軍事や農耕に有用だったからだろう。でも日本の食肉に対する忌避感ってすごく漠然としているんだよなぁ。

 ま、俺が統治した地域では、そんな概念も取っ払ってやるつもりだけどね。肉は身体を作るのに大切だし、毛皮だって寒冷対策に有用だ。獣の油にしても石鹸を作るのに利用できるし、良いことづくめじゃないか。


 閑話休題


 現段階では海外の様な硝石作りは出来ないから、俺は硝石丘を作ることにした。風通しのいい小屋にヨモギなどの窒素を含む木の葉や石灰石、糞尿、塵芥を土と混ぜて積み上げ、定期的に尿を掛けて硝石を析出させる方法だ。石灰石やヨモギの葉なんかは、八兵衛が探してくれている。任せてくだせぇ、と良い笑顔で引き受けてくれたな。八兵衛は元々身分の低い生まれだったらしく、そこから今の立場までのし上がってきたらしい。それもあってか、かなり色んな所に伝手があるみたいだ。人懐っこさといい、下からのし上がってきたところと言い、まるで秀吉みたいなやつだな。そう言えば秀吉って今どこにいるんだろう。ちょっと探してみてもいいかな?


 それはともかく、硝石丘法だ。この方法、五年はかかってしまうが、割とまとまった量の硝石がとれたらしい。ただこれ、臭いがきついんだよな。だから村から離れたところで作成する必要があるんだけど、問題は作成に携わる人員確保か……


 俺が頭を悩ませていると、村からかなり離れた場所に何軒かの小屋を発見した。


「久秀、あの小屋は何かわかるか?」


「いえ、分かりかねます。庄屋に聞いてまいりましょうか」


「うむ、頼む」


 久秀が庄屋に尋ねてくれた。すると、庄屋は少し躊躇い、苦い顔をしつつも答えた。


「あれは病に侵された者たちを隔離しておるのです。……あまり近づかれない方がよろしいかと」


 ふむ、感染症の隔離し施設か。人にうつさないよう一まとめにして隔離しているんだろう。

 うん、良いかもしれない。


「久秀、あの小屋に向かってくれ」


「……はっ」


 俺の命令に、少しためらいながらも久秀は答えてくれた。おそらく俺が何をしようとしているか分かったのだろう。久秀の横では、お道が嬉しそうに俺の命令に頷いていた。全く……お道ちゃんはそんなに人助けが嬉しいのかね。まぁお道の喜ぶ顔を見れるのは俺も嬉しいから良いんだけどさ。 


 さてさて、神聖魔法の大盤振る舞いといくとしましょうか。


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