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お社様

1544年(天文13年) 那古野城近郊  吉法師


 澄み渡る青空の下、左右に広がる水田を眺めながら、俺はとある村に向かっている。

 先日のお道の一件から数日後、八兵衛からこの先の山村を納める庄屋の娘が病に伏せっているという報告が上がってきた。

 俺たちはすぐに支度を済ませ、その村へ先触れをだし、今こうして向かっている最中なのだ。


「お社様、もう間もなく村に到着いたしまする」


 御簾越しに、爺の息子である五郎左衛門久秀が教えてくれる。

 お社様というのは、俺が勝手に考えた。スキルに【社作成】ってのがあるし、俺自身が神様から力を授かった社だっていうイメージから命名しました。この方が、信仰する人たちも分かりやすいかなと。

 久秀は今回俺のメッセンジャー役だ。お道の難聴を治した後、彼らには今俺たちが計画していることをほとんどすべて話した。神からもらった力の事。今は着実に力をつけていきたいこと。その手始めに、どこかの村で試験的に農業の改革を行いたいこと。しかし、今はそれをあまり表沙汰にはしたくないこと。他にもやりたい事をいくつか伝えた。話を聞き終えた久秀は、


「吉法師様、恥ずかしながら某はあなた様の事を見誤っておりました。不肖久秀、粉骨砕身して吉法師様にお仕えさせていただきたく存じます」


と力の籠った決意表明をしてくれた。

 爺に後から聞いたんだけど、彼は俺の噂を聞いて勝十郎につこうか迷っていたらしい。まぁうつけの噂を聞いてもなお、俺に付こうってやつは中々いないよな。元々真面目な性格なのか、あの後からは俺への青ポイントがうなぎ登り。会った時は10P程度だったのに、今では30P台にまで上昇している。少し思い込みが激しいのかもしれない。俺のメッセンジャー役にもこうして真面目に付き合ってくれているんだから、問題ないんだけどね。


 ちなみに俺は今、一人用の駕籠で運ばれている。元々那古野城に置いてあった奴の1つを流用して、俺専用に作りなおしてもらった。構造は特に変わってはいないんだけど、全体的に白を基調として塗りなおしてもらったんだ。白は汚れが目立ってしまうけど、俺の場合は≪浄化≫で一瞬で綺麗に出来るから常に新品状態だ。白って神聖なイメージだからね。出来れば服も白基調にしたかったんだけど、今回は用意が間に合わず断念。ま、白の駕籠から光がにじみ出ているだけでも、かなり神聖な感じがするだろうから大丈夫かな。


 さてさて。村に到着すると、早速庄屋の屋敷へと向かうこととなった。先触れとして、『とある神様から神通力を賜った御子が、その力でどんな病でも立ちどころに直してくださる』というとても胡散臭い内容のものを出していたのだが、ここの庄屋さんはあっさりそれを受け入れ、俺たちを招いてくれた。まぁ信じているかどうかは知らないが、それだけ切羽詰まっているってことなんだろう。


 邸に駕籠のまま入り、娘のいる部屋まで案内させる。そして駕籠を娘の布団のそばに降ろさせ、見過ごしに久秀に指示を出す。この際、少し発光を強くして、籠の中にあたかも神様がいるような演出をするのも忘れない。この時代、ここまで白く明るい光を出すものなんて中々無いからね。すでに庄屋や付き添いの人たちは、こちらを見て平伏しているくらいだ。


「お道よ。娘からどこがつらいのか、どこか痛むのかといった症状を聞くようにとお社様は仰せだ」


 久秀がお道に指示を出し、彼女が問診やら触診を始めた。

 あ、お道ちゃん、結局ついて来ちゃいました。

 どうやら彼女、俺の力に感激したらしく、久秀とはまた違う方向に熱くなってしまったんだよね。


「私の様に、つらい思いをしている人はたくさんいると思います。私はその人たちの手助けになれるよう頑張りたいです」


とたどたどしくも、はっきりと俺に想いを伝えてきたんだ。彼女もぽやぽやしている割に、久秀と一緒でかなり真面目な性格みたいだ。彼女は青ポイントは20台で然程変化はしなかったんだけど、白ポイントが35Pと過去最高値を見せている。俺に対してではなく、純粋に神様に対しての信仰心が篤いみたいだ。俺が割と俗な人間だから、彼女の様な純粋で信仰心の篤い人間は今までにない感じでなんだかとても心地が良い。まぁもともとの性格が俺と合っていただけかもしれないけどね。

 

 そんな彼女は今、一生懸命に娘の症状を診てくれている。俺が前世で覚えていた拙い医療知識を彼女に予め教え、それをせっせと実行してくれているのだ。これはただのパフォーマンスっていう訳ではなく、ある程度症状が分かった方が≪回復≫のポイント消費が少ないという利点がちゃんとある。あと、こういうことをしっかりとした方が、見ている家族も安心できるんじゃないかなぁと思ったりも。


 一通り診察を終え、お道が俺の下へとやってきた。


「お社様、彼女はお腹のあたりが5日程前から痛むそうです。初めは真ん中辺りから始まり、右下腹部に痛みが移動し、今はすでに全体的に痛むと。お腹を押すと、全体に響いて苦しいと言っています」


 なるほど。たぶんこれは盲腸だろうな。あれ、本当に痛くて苦しいんだよね。この時代は手術や抗生物質なんて無いから、散ってくれるのをただ待つしかなかったんだろう。お灸とかもあったらしいけど、結局は運任せだしな。お腹全体が痛いってことは、すでに破けてしまっているのかもしれない。よし、では早速治療に取り掛かろう。


「では、これよりお社様がお力をお使いになられる。皆、お社様のお力をしっかりとその目に焼き付ける様に」


 普通は神様とか偉い人を直接見ることはよろしくないんだろうけど、今回は信仰心をしっかりと持ってもらわないと困るからね。ばっちり見学してもらいます。すでに邸中の人間がこの部屋の周囲に集まってくれているし、思いっきり派手にいってみよう。

 俺は≪発光≫を徐々に強くしながら、お腹全体をイメージしながら念じる。


――≪浄化≫――


――≪回復≫――


――≪浄化≫――


 もしかしたらこの浄化はいらないのかもしれないけど、経過を診れるわけでも無し、ここは大盤振る舞いをしておこう。光が駕籠から溢れ、娘を包み込む。呼吸が浅く苦しそうにしていた娘が、光に包まれた途端、穏やかな顔つきになり、そのまま疲れたのか眠ってしまった。おまけで、体力の≪回復≫もしておいてあげようかな。


 一連の治療が終わり、穏やかに眠っている娘を見て、庄屋や家の人たちが感激し頭を下げながらお礼を言ってくる。うーん、お道の治療をする前の俺であれば、これで十分満足してたと思うんだけど……なんなんだろうこの胸に巣食うモヤモヤは。良いことをしているはずなのに、何だか悪いことをしている様な後ろめたさというか、そんな気持ち悪さが残る。うーん……よくわからん。あとで誰かに相談してみようかな。


 さて、あとは本番である農法改革だな。上手くいってくれるといいなぁ。

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